かつて《剣聖》と呼ばれた社畜、異世界で付与魔法を手に再び《剣聖》へと至る。

水定ユウ

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33話 消えるとか反則じゃね?

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 ミッシング・タイガー。
 見た目は完全に虎なのだが、何か特徴でもあるのかな。
 俺は剣を構え、苛立つ様子を見せながら、頭の中だけは非常に冷静だった。

 そのおかげか、ちゃんと間合いを見極めている。
 血まみれになった口を舐め回すミッシング・タイガーは、俺との距離感を見定めると、鋭い牙を見せつつ、威嚇のために喉を震わせる。

(落ち着け、落ち着け、こんなこと、まあザラには無いけど、落ち着け)

 俺は自分を冷静にさせながらも、一歩ずつ距離を縮める。
 それに合わせ、ミッシング・タイガーも距離を縮める。
 お互いに何をするのか、完全に理解を示し合っている証拠だ。

「【固有魔法:付与強化(剣)】」

 俺は古びている頼りない剣に魔法を掛ける。
 少しでも強度を増させ、切れ味を最大限上げておく。
 これで肉は通るはずだ。ゴクリと息を飲むと、俺は一気に詰める。

「それゃ!」

 俺は駆け出すのではなく、慣れない縮地を使う。
 本当に合っているのか分からない。
 だけど上手く距離を縮めると、最初の一撃を喰らわせる。

「そこだ!」

 俺は剣を叩き付けると、ミッシング・タイガーの体を切り裂いた。
 血飛沫が飛び、俺の服を汚すも、そんなのは関係ない。
 隙を見せるわけには行かないので、構わずガンガン攻め立てる。

「終われ終われ終われ終われ!」

 俺は腹から声を荒げる。
 力任せに技も何一つ無い。
 ただ乱暴な攻撃の連鎖に、ミッシング・タイガーは流石に堪える。

「グルルァ!」

 雄叫びを上げ、威嚇をする。
 つい口を開けると、鋭い下顎の牙が、俺の腕を噛み喰らおうとする。

「危なっ!」

 間一髪の所で腕を引くと、本当にギリギリだった。
 危うく左腕を取られる所だったと、胸を撫でて一安心。
 しかしそれもあってか後退を余儀なくされると、俺は「チッ!」と舌打ちを鳴らした。

「なかなかやるな。それなら、これでどうだ」

 俺はナイフを指先に嵌めた。
 投げナイフで牽制をするためだ。
 腕を振る仕草を見せ、ミッシング・タイガーの動きを見定める。

(知能があれば警戒する筈だけど……どうするんだろ、およ?)

 俺はミッシング・タイガーの動きを見定めた。
 するとミッシング・タイガーはゆっくりと動きながら、その姿を消していく。
 まるで目の前から消えようとしているようで、俺はおかしく目を擦る。

「まさか消えるわけ、消えた!?」

 俺の嫌ーなフラグが当たった。
 あまりにも早いフラグ回収だった。

 と言うのも一瞬で、ミッシング・タイガーの管が消える。
 それこそ公然とではなく、ユラユラと揺めきながら、空気に溶け込むように消えた。
 それこそ例えるなら擬態だ。俺の目の前から姿のみを消し去ると、何処かに隠れて潜む。

「おいおい、ちょっと待ってくれよ。ミッシングってそう言う意味?」

 ミッシング・タイガーは何処を探っても見当たらない。
 あれだけの大きさと巨体が消えたので、俺は流石に焦る。

 冷や汗とかじゃ無い。じんわりとした滲み汗だ。
 口がパクパクなると、それこそ目で見える情報が役に立たないと知る。

「これ、ヤバいな。マジでヤバくないか?」

 焦る俺。剣を握る手が汗で滑る。
 キョロキョロ視線を頼ろうとするがダメ。
 如何すればいいのか。よく見ろ、よく考えると、頭をつかった。

 スタッ、スタッ、スタッ、スタッ!!

「あれ、これって足音じゃね?」

 そう言えば耳を澄ませば聞こえて来る。
 慎重に抜き足差し足で距離を取り、回り込もうとしているのだ。
 ペタペタと息を殺し、機会を窺っているのが分かる。
 ミッシング・タイガー。消せるのは姿だけらしく安心した。

(なんだ、消えてるわけじゃ無いんだ。ってことは、あ、あれれ?)

 一回冷静になる。
 フッと息を吐き、目を閉じると、開いた時に広がる景色に違和感を覚えた。

 ポタッ、ポタッ、ポタッ、ポタッ!!

 地面を睨み付けると、そこには赤い塊が落ちていた。
 水滴のように跡を残すと、しつこく残っている。
 如何やら男性の血だ。まさかこんな形で助けられるなんて、俺は儚く思った。

「なんだ、全然大したことなんじゃんか」

 俺はついつい緊張感を解く。
 笑ってしまいそうでニヤけると、背中にゾクリとした感触が走る。
 不意に振り返ると、半身で巨大な塊が見えた。
 ミッシング・タイガーが鋭い牙を剥き出しにすると、俺のことを捉えていた。今にもガブリと噛み付かれそうな中、種が分かった以上、俺は負ける気がしなかった。
 
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