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29話 ラウリィ、サポートタイプなんだ
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巨大な三本の爪痕。
明らかにモンスターが爪を研いだ後で、見るも無惨に樹皮が剥がされていた。
「マズいな。クーリエ」
「はい、おそらく肉食のモンスターでしょうね」
「どうするんですか、ヒジリさん! 早く逃げないとダメですよね?」
ラウリィは初っ端から怖気付く。
とは言えその気持ちも分からなくはない。
むしろ、俺だって逃げ出したい。とは言え、そうもいかない事情がある。
「そうしたいのは山々なんだけどね」
「それじゃあ!」
「ですが無理です。この森は、トゥリーフ家の領地。領主が事態の収集を図らねばならないんですよ、ラウリィ様」
「そ、そんな……」
とは言えラウリィには関係のない話だ。
落ち込んだって仕方ない。
心配なので、俺はラウリィだけでも逃げてもらうことにした。
流石に、ちょっとは男気張りたい。
「ラウリィ、なんなら逃げても……」
「ダメです、ヒジリさん! 私はヒジリさんの従者になったんですよ。誓って逃げたりしません」
「……いやいや、誓わなくてもいいのに」
命を張る契約書なんて、ドラマの中だけで充分。
俺の認識ではそうなのだが、如何やら異世界ではそんな常識は無いらしい。
頭を悩まされる種が増えると、俺はクーリエの顔を見つめた。
「従者の意思を尊重するか否か、決めるのは主人であるヒジリ様です」
「責任丸投げか。じゃあ、ラウリィ。とりあえず隠れている人、捜そうか」
「はい! ……えっ、戦うんじゃないんですか?」
俺はラウリィにも協力してもらうことした。
強い目力に打ち負かされると、流石に断れない。
とは言え妥協した範囲での話で、ラウリィは俺の言葉に驚く。如何やら、これからモンスターとの血湧き肉躍る戦争を起こそうと思っていたらしい。
「戦うわけないでしょ? そんなの怖いから」
「ヒジリさんでも怖いなんて言うんですね」
「いやいや、日本人は怖がりでしょ?」
「に、にほんじん?」
また伝わらない言葉で話してしまった。
クーリエとラウリィが「なに言ってんだ、こいつ」みたいな顔をする。
恥ずかしくなり赤面すると、俺は顔を背け、意識を切り替える。
「とにかく、まずはモンスターとの戦闘よりも、森の中に潜んでいる人を捜して救助する。それが先決」
「実際、先程私が伏せた盗賊以外にも潜んでいる可能性は高いですね。ナイフの切り口、種類が違いますから」
「凄い、そこまでは見てなかったよ」
「勿体無いお言葉にございます」
もう、褒めるとかそんな域じゃ無い。
完全に軍人の思考回路をしていた。
俺は気取られると、唖然とする。
しかし、そんな話は一旦置いておこう。
まずは、人命救助最優先だ。
「問題は、どうやって見つけるかだけど……俺の固有魔法じゃ、無理なんだよね」
「精霊を呼びましょうか?」
「それは奥の手。ぜーったい、ダメだよ」
「私は奥の手……ありがたきお言葉、ありがとうございます!」
クーリエは一言一言喜んでくれる。
何だか嬉しいけど気疲れしてしまいそうで、俺は頭を再度悩まされる。
「それじゃあどうしようか?」
「あの、私の家系魔法を使うのはどうですか?」
「「ラウリィの家系魔法?」」
そう言えば、ラウリィの家系魔法を俺は知らない。
ここまでまともに戦う素振りも見ていない。
全く戦力としてカウントできていなかったのを俺は恥じるが、どんな魔法か気になって仕方がない。
「ラウリィ、ラウリィの家系魔法って?」
「見ていてください。とりあえず、生体反応を探ってみますね」
そう言うと、ラウリィは天秤が付いた剣を地面に突き付ける。
これが条件? 俺はマジマジと見つめると、急に魔力が溢れ出す。
迸り、ラウリィと剣を中心に巨大な円が浮かび上がると、地面を貫き、空中に陣を描いた。
「ラウリィ?」
「少し静かにしていてください。集中しているんです」
「あっ、はい、すいません」
ラウリィは眉間に皺を寄せて集中力全開だった。
話し掛けるのはダメらしく、俺はグッと押し黙る。
ただ見守り続けると、ラウリィは口をパクパク動かし、独り言を呟く。
「あれが、それで……えっ、あっ、はい、……それと、これが、あれは……たしか、は、はい、はいはいはい、見つけましたよ、ヒジリさん!」
急にラウリィは声を上げた。
いったいなにを見つけたのか。
もしかすると、肝心の人を見つけたのかもしれない。
「マジで、ラウリィ、人を見つけたの!」
「はい。私の【家系魔法:陣形掌握】は、少し時間は掛かってしまうんですけど、特定とエリアに陣を描けば、その中に自由な影響を付与できるんです。そのおかげで、私は人捜しができるんです!」
「えっ、ヤバ……お手柄だよ、ラウリィ」
「ありがとうございます。えへへ」
ラウリィは嬉しそうに笑みを浮かべる。
しかし俺はこう思った。ラウリィって、完全にサポートタイプという事実。
まさかの直接的な攻撃札の無い三人が揃ってしまい、これは骨がまたまた折れそうだった。
明らかにモンスターが爪を研いだ後で、見るも無惨に樹皮が剥がされていた。
「マズいな。クーリエ」
「はい、おそらく肉食のモンスターでしょうね」
「どうするんですか、ヒジリさん! 早く逃げないとダメですよね?」
ラウリィは初っ端から怖気付く。
とは言えその気持ちも分からなくはない。
むしろ、俺だって逃げ出したい。とは言え、そうもいかない事情がある。
「そうしたいのは山々なんだけどね」
「それじゃあ!」
「ですが無理です。この森は、トゥリーフ家の領地。領主が事態の収集を図らねばならないんですよ、ラウリィ様」
「そ、そんな……」
とは言えラウリィには関係のない話だ。
落ち込んだって仕方ない。
心配なので、俺はラウリィだけでも逃げてもらうことにした。
流石に、ちょっとは男気張りたい。
「ラウリィ、なんなら逃げても……」
「ダメです、ヒジリさん! 私はヒジリさんの従者になったんですよ。誓って逃げたりしません」
「……いやいや、誓わなくてもいいのに」
命を張る契約書なんて、ドラマの中だけで充分。
俺の認識ではそうなのだが、如何やら異世界ではそんな常識は無いらしい。
頭を悩まされる種が増えると、俺はクーリエの顔を見つめた。
「従者の意思を尊重するか否か、決めるのは主人であるヒジリ様です」
「責任丸投げか。じゃあ、ラウリィ。とりあえず隠れている人、捜そうか」
「はい! ……えっ、戦うんじゃないんですか?」
俺はラウリィにも協力してもらうことした。
強い目力に打ち負かされると、流石に断れない。
とは言え妥協した範囲での話で、ラウリィは俺の言葉に驚く。如何やら、これからモンスターとの血湧き肉躍る戦争を起こそうと思っていたらしい。
「戦うわけないでしょ? そんなの怖いから」
「ヒジリさんでも怖いなんて言うんですね」
「いやいや、日本人は怖がりでしょ?」
「に、にほんじん?」
また伝わらない言葉で話してしまった。
クーリエとラウリィが「なに言ってんだ、こいつ」みたいな顔をする。
恥ずかしくなり赤面すると、俺は顔を背け、意識を切り替える。
「とにかく、まずはモンスターとの戦闘よりも、森の中に潜んでいる人を捜して救助する。それが先決」
「実際、先程私が伏せた盗賊以外にも潜んでいる可能性は高いですね。ナイフの切り口、種類が違いますから」
「凄い、そこまでは見てなかったよ」
「勿体無いお言葉にございます」
もう、褒めるとかそんな域じゃ無い。
完全に軍人の思考回路をしていた。
俺は気取られると、唖然とする。
しかし、そんな話は一旦置いておこう。
まずは、人命救助最優先だ。
「問題は、どうやって見つけるかだけど……俺の固有魔法じゃ、無理なんだよね」
「精霊を呼びましょうか?」
「それは奥の手。ぜーったい、ダメだよ」
「私は奥の手……ありがたきお言葉、ありがとうございます!」
クーリエは一言一言喜んでくれる。
何だか嬉しいけど気疲れしてしまいそうで、俺は頭を再度悩まされる。
「それじゃあどうしようか?」
「あの、私の家系魔法を使うのはどうですか?」
「「ラウリィの家系魔法?」」
そう言えば、ラウリィの家系魔法を俺は知らない。
ここまでまともに戦う素振りも見ていない。
全く戦力としてカウントできていなかったのを俺は恥じるが、どんな魔法か気になって仕方がない。
「ラウリィ、ラウリィの家系魔法って?」
「見ていてください。とりあえず、生体反応を探ってみますね」
そう言うと、ラウリィは天秤が付いた剣を地面に突き付ける。
これが条件? 俺はマジマジと見つめると、急に魔力が溢れ出す。
迸り、ラウリィと剣を中心に巨大な円が浮かび上がると、地面を貫き、空中に陣を描いた。
「ラウリィ?」
「少し静かにしていてください。集中しているんです」
「あっ、はい、すいません」
ラウリィは眉間に皺を寄せて集中力全開だった。
話し掛けるのはダメらしく、俺はグッと押し黙る。
ただ見守り続けると、ラウリィは口をパクパク動かし、独り言を呟く。
「あれが、それで……えっ、あっ、はい、……それと、これが、あれは……たしか、は、はい、はいはいはい、見つけましたよ、ヒジリさん!」
急にラウリィは声を上げた。
いったいなにを見つけたのか。
もしかすると、肝心の人を見つけたのかもしれない。
「マジで、ラウリィ、人を見つけたの!」
「はい。私の【家系魔法:陣形掌握】は、少し時間は掛かってしまうんですけど、特定とエリアに陣を描けば、その中に自由な影響を付与できるんです。そのおかげで、私は人捜しができるんです!」
「えっ、ヤバ……お手柄だよ、ラウリィ」
「ありがとうございます。えへへ」
ラウリィは嬉しそうに笑みを浮かべる。
しかし俺はこう思った。ラウリィって、完全にサポートタイプという事実。
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