かつて《剣聖》と呼ばれた社畜、異世界で付与魔法を手に再び《剣聖》へと至る。

水定ユウ

文字の大きさ
上 下
27 / 45

27話 変なタイミングの身バレ

しおりを挟む
「それでは家具を替えせていただくよう、旦那様に申し上げてみますね」
「ありがとう、クーリエ。父さんと母さん、後兄さん達にも」
「畏まりました。それでは、失礼致します」

 クーリエのおかげで小屋の掃除が滅茶苦茶早く終わった。
 とは言え小屋の中はビシャビシャ。
 一応モップ掛けはしたものの、家具は全滅。
 すっからかんの状態だった。

「無くなっちゃいましたね、なんにも」
「そうだね。でもクーリエが家具を持って来てくれるから、数日間の辛抱だよ」

 正直数日間、家具無し生活は全然できる。
 何せ社畜時代は、家に帰るなんてことなかった。
 あるにしても、月に一回くらいで、ほとんど泊まり込み。VRドライブを持ち込んで、連日昼夜問わずに会社のオフィスに閉じ込められっぱなしだった。

「あれに比べればな……」
「ヒジリさん?」
「ああ、なんでもないよ。それよりラウリィ。ラウリィはこれからどうするの?」

 俺は家具が諸々無くなったことで、ラウリィの居場所が無くなってしまったことに焦る。
 正直、ここまで何もないとなれば、ラウリィの寝る場所がない。
 流石に外でモンスターの恐怖と戦いながらの野宿は骨が折れるので、ラウリィにはして欲しく無かった。

「ラウリィ、一回家に帰った方がいいよ」
「えっ、そ、そうですよね」
「ん? もしかして家族と喧嘩した?」
「いえ、そんなことはないですよ。ちゃんと許可を貰ってヒジリさんの従者になったんです……けど」
「けど?」

 ラウリィは口を噤んでしまった。
 如何やら何か野暮なものがあるらしい。
 俺は首を捻ると、ラウリィは目を泳がせる。
 しかしすぐに観念したのか、ラウリィは口を開いた。

「あの、ヒジリさん、実はお願いしたいことが……」
「ヒジリ様!」

 しかしラウリィはすぐに口を噤むことになる。
 森の中へ消え、小屋から離れたはずのクーリエが戻って来ていた。

「クーリエ、どうかした?」
「ヒジリ様、すぐにこちらに。ラウリィ様も、武装をお願い致します」

 クーリエの言葉は棘があった。
 如何やら相当のことが起きたようで、俺とラウリィの顔付きが変わる。
 何かあったのだろう。互いに慎重になり、クーリエの誘導に乗る。

「クーリエ、なにかあったの?」
「この森はヒジリ様のご両親であり、事実上の私の雇い主である、トゥリーフ家のものになります」
「そうだね。それがどうかした?」
「そのような場所にただでさえ不届き者が潜伏しているという事実。私にとっては不安材料でしかありません、が、これは一体どんな体たらくでしょうか?」

 クーリエさん、怒ってます。完全にブチ切れです。
 俺では当然こうなったクーリエを止めるなんて真似、全く持ってできません。
 困り顔を浮かべると、ラウリィは申し訳無さそうに手を挙げた。

「あの、ヒジリさん」
「ん? この状況でなに」
「ヒジリさんは、その、貴族なんですよね? あ、あの、私、まだよく分かっていなくて」

 あまり今になってその話題を出して欲しくはなかった。
 俺はグッと唇を噛むと、「あ、あはは」と下手に笑う。
 しかしクーリエの耳がピクリと動き、ラウリィの言葉に返答する。

「もちろんです。ヒジリ様はトゥリーフの三男に当たるお方」
「三男だけどね。家督、継げないけどね」
「そんなことないと思いますけど……」

 ラウリィはポツリと口走った。
 しかし俺はポリポリ顳顬を掻く。
 如何返答すればいいのか、まるで分からなかった。

「ラウリィさん、よく覚えておいてください。貴方が従者として仕えていますのは、トゥリーフ家の三男、ヒジリ・トゥリーフ様です。一つでも傷を付けるような真似させてはいけませんよ?」
「は、はい!」

 クーリエの問答は一辺倒だった。
 まるで話し合いをする余地がない。
 グサリと突き刺さると、ラウリィは「はい!」としか言えなくなる。

「これ、脅迫じゃね?」

 俺はその光景に、洗脳脅迫を思い起こす。
 ブラック企業の悪しき文化。
 それが身内間で起きると、俺は心底顔を覆いたくなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる

グリゴリ
ファンタジー
『旧タイトル』万能者、Sランクパーティーを追放されて、職業が進化したので、新たな仲間と共に無双する。 『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる』【書籍化決定!!】書籍版とWEB版では設定が少し異なっていますがどちらも楽しめる作品となっています。どうぞ書籍版とWEB版どちらもよろしくお願いします。 2023年7月18日『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる2』発売しました。  主人公のクロードは、勇者パーティー候補のSランクパーティー『銀狼の牙』を器用貧乏な職業の万能者で弱く役に立たないという理由で、追放されてしまう。しかしその後、クロードの職業である万能者が進化して、強くなった。そして、新たな仲間や従魔と無双の旅を始める。クロードと仲間達は、様々な問題や苦難を乗り越えて、英雄へと成り上がって行く。※2021年12月25日HOTランキング1位、2021年12月26日ハイファンタジーランキング1位頂きました。お読み頂き有難う御座います。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...