26 / 45
26話 小屋がずぶ濡れじゃんかよ!
しおりを挟む
「よいしょ、よいしょ」
「【固有魔法:付与強化(体)】」
俺とラウリィは小屋の中から家具を運び出した。
埃を被り、脚の擦り減った椅子と少し傾いた机。
どちらも手入れは最低限で、正直汚かった。
「ううっ、ヒジリさん、この家具替えませんか?」
「買い直すってこと? 流石に勿体ないよね」
「勿体ないですか? うーん、確かにそうですけど、これだけ傾いていたら……ああっ!」
ラウリィが小屋の中に二つしかなかった椅子を運び出すと、脚が傾いて外れてしまった。
地面に叩き付けられると、そのまま椅子が解体されてしまう。
頬に手を当て、目をオロオロさせると、ラウリィは申し訳なさ一杯になる。
「ヒジリさん、壊れちゃいました」
「あはは、流石に壊れちゃうか」
「当り前ですよ、ヒジリ様。そちらのテーブルとチェアは今から二十年前にこの小屋を使っていた老紳士が死後残していたものです。故に劣化も激しく、ここまでまともに使えていたことが奇跡な程です」
「その事実は聞きたくなかったよ」
俺は小屋を住処として借りていたけれど、そんな所以があったとは思わなかった。
けれど今から二十年前のものとなれば、乱暴に扱っていなくても壊れてしまうのは仕方がない。
俺は諦めることにして、頭をポリポリ掻くと、クーリエにもう一つお願いすることにした。
「クーリエ、家具って買えるかな?」
「畏まりました。すぐにでも用意致します」
「あっ、その前に掃除を終わらせようか」
「畏まりました。それでは……まずは小屋の中に生えたカビと埃を取り除きましょうか」
そう言うと、クーリエは両腕を横に広げた。
全身から魔力が放出されると、クーリエの固有魔法が発動される。
久々に見るが、クーリエの魔法モーションには派手さがあってカッコいい。
「【固有魔法:精霊使役】。来てください、ウンディーネ、シルフ!」
クーリエが唱えると、不思議な魔法陣が二つも浮かび上がった。
一つは青い魔法陣。もう一つは緑の魔法陣。
絵柄も図柄も文字さえも読むことができない。完全に厨二全開だった。
「これが精霊魔法」
「【固有魔法:精霊使役】です。私の呼び声に集い、太古より存在する四大精霊を使役することができます」
「ってことは、ウンディーネが水で、シルフが風?」
「流石はヒジリ様ですね。ご名答にございます。では、小屋の掃除を終わらせてしまいましょうか」
クーリエはそう宣言すると、呼び寄せて使役した精霊に聞いたことも無い言語で呼び掛ける。
俺とラウリィには当然解読することはできない。
ポカンとして見守っていると、話が付いたのか、精霊達は形も無く小屋の中へと消える。
するととんでもない爆音が小屋の中で響き渡り、それを悟られないように、クーリエはソッと扉を閉めた。
「く、クーリエさん?」
「はい、なんでしょうかヒジリ様」
「今の爆音、絶対ヤバいよね?」
「いえ、そのようなことはなにも」
「嘘付け!」
俺は盛大にクーリエに突っ込んだ。
流石小屋の中が大変なことになっている筈。
よく見れば扉や窓の隙間から水が零れており、古い木の板を張って建てられた小屋のせいか、軋む音が非常に怖い。
「これ、マジで住めるのかな?」
「クーリエさんを信じましょう、ヒジリさん!」
「信じているけどさ」
「大変勿体ないお言葉です」
「いや、褒めては無いよ? 褒めて無いからね」
俺はクーリエが鼻を高くしようとするので、ポッキリへし折った。
するとクーリエは態度には表れないが、ショボーンとしてしまう。
肩を落とし、落胆してしまっていたが、次第に小屋の中で聞こえたミシミシと言う音が消え、精霊達の動きが弱まっていた。
「そろそろ終わりみたいですね。それでは……」
「待った!」
「はい、なんでしょうか、ヒジリ様?」
クーリエは小屋の扉を開けようとする。
俺はドアノブに手を掛けた瞬間、嫌な予感がしたのでクーリエを止める。
首を捻るクーリエだったが、俺が代わりにドアノブを握ると、驚いた様子を見せる。
「俺が代わりに開けるから。クーリエはラウリィをお願い」
「ヒジリ様、それではメイドとして」
「これくらいできるから、ほら下がって下がって」
俺はクーリエを追い払うと、扉の前を陣取る。
クーリエが震えるラウリィの前に立つのを見計らってから、俺はドアノブを強く握った。
この後の光景。俺は何となくだが分かっている。
「南無三!」
俺は重たい扉を開けた。
すると案の状のことが起こってしまい、俺は絶句する。
バッサーーーーーーーーーーーーーーーン!!
扉を開けると、小屋の中が大海原と化していた。
この世界で海を見たことないけれど、カビと埃がグルグルと回り泳いでいる。
備え付けられていたキッチンなど、大事なものも滅茶苦茶にされると、膝から崩れ落ちそうになった。
「大海原じゃなくて、洗濯機だった……」
「「せんたくき?」」
「うん、そうだよね。分かってた」
もはや笑うことしかできない。
抗う術は無く、落胆して落ち込んだ俺の脇を“冷たい何か”と“涼しい何か”が通り抜ける。
まるで慰めてくれたようで、俺の肩をソッと撫で、「ありがとう」と無意識の感謝が零れていた。
「【固有魔法:付与強化(体)】」
俺とラウリィは小屋の中から家具を運び出した。
埃を被り、脚の擦り減った椅子と少し傾いた机。
どちらも手入れは最低限で、正直汚かった。
「ううっ、ヒジリさん、この家具替えませんか?」
「買い直すってこと? 流石に勿体ないよね」
「勿体ないですか? うーん、確かにそうですけど、これだけ傾いていたら……ああっ!」
ラウリィが小屋の中に二つしかなかった椅子を運び出すと、脚が傾いて外れてしまった。
地面に叩き付けられると、そのまま椅子が解体されてしまう。
頬に手を当て、目をオロオロさせると、ラウリィは申し訳なさ一杯になる。
「ヒジリさん、壊れちゃいました」
「あはは、流石に壊れちゃうか」
「当り前ですよ、ヒジリ様。そちらのテーブルとチェアは今から二十年前にこの小屋を使っていた老紳士が死後残していたものです。故に劣化も激しく、ここまでまともに使えていたことが奇跡な程です」
「その事実は聞きたくなかったよ」
俺は小屋を住処として借りていたけれど、そんな所以があったとは思わなかった。
けれど今から二十年前のものとなれば、乱暴に扱っていなくても壊れてしまうのは仕方がない。
俺は諦めることにして、頭をポリポリ掻くと、クーリエにもう一つお願いすることにした。
「クーリエ、家具って買えるかな?」
「畏まりました。すぐにでも用意致します」
「あっ、その前に掃除を終わらせようか」
「畏まりました。それでは……まずは小屋の中に生えたカビと埃を取り除きましょうか」
そう言うと、クーリエは両腕を横に広げた。
全身から魔力が放出されると、クーリエの固有魔法が発動される。
久々に見るが、クーリエの魔法モーションには派手さがあってカッコいい。
「【固有魔法:精霊使役】。来てください、ウンディーネ、シルフ!」
クーリエが唱えると、不思議な魔法陣が二つも浮かび上がった。
一つは青い魔法陣。もう一つは緑の魔法陣。
絵柄も図柄も文字さえも読むことができない。完全に厨二全開だった。
「これが精霊魔法」
「【固有魔法:精霊使役】です。私の呼び声に集い、太古より存在する四大精霊を使役することができます」
「ってことは、ウンディーネが水で、シルフが風?」
「流石はヒジリ様ですね。ご名答にございます。では、小屋の掃除を終わらせてしまいましょうか」
クーリエはそう宣言すると、呼び寄せて使役した精霊に聞いたことも無い言語で呼び掛ける。
俺とラウリィには当然解読することはできない。
ポカンとして見守っていると、話が付いたのか、精霊達は形も無く小屋の中へと消える。
するととんでもない爆音が小屋の中で響き渡り、それを悟られないように、クーリエはソッと扉を閉めた。
「く、クーリエさん?」
「はい、なんでしょうかヒジリ様」
「今の爆音、絶対ヤバいよね?」
「いえ、そのようなことはなにも」
「嘘付け!」
俺は盛大にクーリエに突っ込んだ。
流石小屋の中が大変なことになっている筈。
よく見れば扉や窓の隙間から水が零れており、古い木の板を張って建てられた小屋のせいか、軋む音が非常に怖い。
「これ、マジで住めるのかな?」
「クーリエさんを信じましょう、ヒジリさん!」
「信じているけどさ」
「大変勿体ないお言葉です」
「いや、褒めては無いよ? 褒めて無いからね」
俺はクーリエが鼻を高くしようとするので、ポッキリへし折った。
するとクーリエは態度には表れないが、ショボーンとしてしまう。
肩を落とし、落胆してしまっていたが、次第に小屋の中で聞こえたミシミシと言う音が消え、精霊達の動きが弱まっていた。
「そろそろ終わりみたいですね。それでは……」
「待った!」
「はい、なんでしょうか、ヒジリ様?」
クーリエは小屋の扉を開けようとする。
俺はドアノブに手を掛けた瞬間、嫌な予感がしたのでクーリエを止める。
首を捻るクーリエだったが、俺が代わりにドアノブを握ると、驚いた様子を見せる。
「俺が代わりに開けるから。クーリエはラウリィをお願い」
「ヒジリ様、それではメイドとして」
「これくらいできるから、ほら下がって下がって」
俺はクーリエを追い払うと、扉の前を陣取る。
クーリエが震えるラウリィの前に立つのを見計らってから、俺はドアノブを強く握った。
この後の光景。俺は何となくだが分かっている。
「南無三!」
俺は重たい扉を開けた。
すると案の状のことが起こってしまい、俺は絶句する。
バッサーーーーーーーーーーーーーーーン!!
扉を開けると、小屋の中が大海原と化していた。
この世界で海を見たことないけれど、カビと埃がグルグルと回り泳いでいる。
備え付けられていたキッチンなど、大事なものも滅茶苦茶にされると、膝から崩れ落ちそうになった。
「大海原じゃなくて、洗濯機だった……」
「「せんたくき?」」
「うん、そうだよね。分かってた」
もはや笑うことしかできない。
抗う術は無く、落胆して落ち込んだ俺の脇を“冷たい何か”と“涼しい何か”が通り抜ける。
まるで慰めてくれたようで、俺の肩をソッと撫で、「ありがとう」と無意識の感謝が零れていた。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説


異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~
りーさん
ファンタジー
ある日、異世界に転生したルイ。
前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。
そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。
「家族といたいからほっといてよ!」
※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる