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25話 完璧で歴史的なメイド様
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「じー」
俺は小屋の中で椅子に腰を預け、目の前の光景をジッと眺める始末。
と言うのも、決して踏み込んではいけない鮮明な世界。
それはラウリィとクーリエが楽しそうに話し、意気投合しているからだ。
「クーリエさん。クーリエさんはあの、クーリエさんなんですよね?」
「どのクーリエかは分かり兼ねますが、確かに私はクーリエです」
一体なんの話をしているのか分からない。
今まで俺が口出しNGにしてきた話題で、訊き耳だけ立てている。
どんな会話が繰り広げられるのか。俺は楽しみ半分、不安半分だった。
「クーリエさんって、あの精魔大戦で精霊達を指揮して、魔の群を追い払った方ですよね」
「なにそれ!?」
「ヒジリ様、どうかなされましたか?」
「どうしたんですか、ヒジリさん?」
いきなり知らない話題が膨れ上がった。
俺は瞬きをすることもできず目を見開くと、今の重要そうなキーワード、“精魔大戦”に付いて訊ねる。
「精魔大戦ってなに? 名前だけは聞いたことある気もしない気も無いけど……」
「ヒジリさん、精魔大戦は非常に有名な、三大魔法大戦の一つですよ。惡に落ちた魔族と闇の魔法使いの合同軍に対して、正義の精霊と白の魔法使い達が共に戦い、見事討ち破った伝説的な対戦ですよ!」
「へぇー、そんな概要だったんだ。全然知らなかった」
興味の欠片も無い話題だったので、今までスルーしていた。
しかし歴史を深掘れば、まだ見ぬ過去が解き明かされるかもしれない。
そんな気持ちになってしまうと、クーリエの存在がより一層惹き立った。
「クーリエって、マジで何歳なの?」
「ヒジリ様、いくら私がヒジリ様の専属のメイドだとしても……」
「いや、雇っては無いけどね」
「こほん、失礼しました。ですが女性に年齢を聞くのは、些か無作法だと思いますよ」
「そうですよ、ヒジリさん。絶対にダメですからね」
俺は女性陣の集中砲火を直に喰らってしまった。
これはもう無駄口を叩けない。
押し黙らされると、俺は心の扉をソッと閉めた。
「はい、分かりました。続けてください」
「分かりました。それじゃあクーリエさん、クーリエさんの魔法って、確か……」
「【固有魔法:精霊使役】です。それにしてもラウリィ様はお詳しいですね。私のような、歴史の片隅に置いていかれてしまった存在にもかかわらず」
クーリエは自分のことを卑下した。
その顔色は少し悲しそうに見えてしまう。
俺はそんなクーリエを見兼ねると、ソッと席を立った。
「クーリエ、そんな顔をしなくてもいいよ」
「ヒジリ様」
「今のクーリエは一人じゃないよね? 俺だっているし、ラウリィもいる。トゥリーフ家の人間だって、みんなクーリエを頼りにしているんだよ。だからそんな顔をしなくても、心配は要らない。必要とされている以上、その繋がりは見えなくてもそこにあるんだからさ」
俺は全く届かなかったが、クーリエの前髪を撫でた。
するとクーリエの表情が少しだけ朗らかに変化する。
如何やら落ち着いたようで、心の安寧が保たれる。
「ありがとうございます、ヒジリ様。やはり、私の主人は真に仕えるべきは、ヒジリ様だけです」
「あー、結局そこに行き着くんだ。(俺と一緒にいてもつまらないだろうに)」
クーリエの気持ちはどれだけ時間が経とうが、何が障害になろうが関係ない。
何処までもトコトン俺に付き従うつもりで、やれやれと蟀谷を掻いてしまう。
しかしそれだけの信頼に答えられるような俺じゃない。何処まで行っても、剣と社畜魂しかないのだ。
「それじゃあクーリエ、頼みがあるんだけどいいかな?」
「はい、なんなりとお申し付けくださいませ!」
「どうしてそんなに嬉しそうなの? 目、目が怖いんだけど」
クーリエは何故か膝を付き、俺に最大限の敬意を表する。
一瞬魅せたクーリエの眼光は完全にキマっていて、息を荒げている。
ヤバい奴。俺はたじたじになってしまうが、ここまでさせてしまった以上は命を下す。
「今から掃除をするんだけど、手伝ってくれないかな?」
「掃除にございますね、畏まりました」
「うーん、仰々しい」
クーリエは何処までもメイドだった。俺専属のメイドを勝ち取ろうという気合だけが空回りしている。
けれど今は少し違う。目の前に居るのは歴史に名を遺す魔法使いであり、トゥリーフ家のメイド。否、完璧な歴史的なメイド様だった。
俺は小屋の中で椅子に腰を預け、目の前の光景をジッと眺める始末。
と言うのも、決して踏み込んではいけない鮮明な世界。
それはラウリィとクーリエが楽しそうに話し、意気投合しているからだ。
「クーリエさん。クーリエさんはあの、クーリエさんなんですよね?」
「どのクーリエかは分かり兼ねますが、確かに私はクーリエです」
一体なんの話をしているのか分からない。
今まで俺が口出しNGにしてきた話題で、訊き耳だけ立てている。
どんな会話が繰り広げられるのか。俺は楽しみ半分、不安半分だった。
「クーリエさんって、あの精魔大戦で精霊達を指揮して、魔の群を追い払った方ですよね」
「なにそれ!?」
「ヒジリ様、どうかなされましたか?」
「どうしたんですか、ヒジリさん?」
いきなり知らない話題が膨れ上がった。
俺は瞬きをすることもできず目を見開くと、今の重要そうなキーワード、“精魔大戦”に付いて訊ねる。
「精魔大戦ってなに? 名前だけは聞いたことある気もしない気も無いけど……」
「ヒジリさん、精魔大戦は非常に有名な、三大魔法大戦の一つですよ。惡に落ちた魔族と闇の魔法使いの合同軍に対して、正義の精霊と白の魔法使い達が共に戦い、見事討ち破った伝説的な対戦ですよ!」
「へぇー、そんな概要だったんだ。全然知らなかった」
興味の欠片も無い話題だったので、今までスルーしていた。
しかし歴史を深掘れば、まだ見ぬ過去が解き明かされるかもしれない。
そんな気持ちになってしまうと、クーリエの存在がより一層惹き立った。
「クーリエって、マジで何歳なの?」
「ヒジリ様、いくら私がヒジリ様の専属のメイドだとしても……」
「いや、雇っては無いけどね」
「こほん、失礼しました。ですが女性に年齢を聞くのは、些か無作法だと思いますよ」
「そうですよ、ヒジリさん。絶対にダメですからね」
俺は女性陣の集中砲火を直に喰らってしまった。
これはもう無駄口を叩けない。
押し黙らされると、俺は心の扉をソッと閉めた。
「はい、分かりました。続けてください」
「分かりました。それじゃあクーリエさん、クーリエさんの魔法って、確か……」
「【固有魔法:精霊使役】です。それにしてもラウリィ様はお詳しいですね。私のような、歴史の片隅に置いていかれてしまった存在にもかかわらず」
クーリエは自分のことを卑下した。
その顔色は少し悲しそうに見えてしまう。
俺はそんなクーリエを見兼ねると、ソッと席を立った。
「クーリエ、そんな顔をしなくてもいいよ」
「ヒジリ様」
「今のクーリエは一人じゃないよね? 俺だっているし、ラウリィもいる。トゥリーフ家の人間だって、みんなクーリエを頼りにしているんだよ。だからそんな顔をしなくても、心配は要らない。必要とされている以上、その繋がりは見えなくてもそこにあるんだからさ」
俺は全く届かなかったが、クーリエの前髪を撫でた。
するとクーリエの表情が少しだけ朗らかに変化する。
如何やら落ち着いたようで、心の安寧が保たれる。
「ありがとうございます、ヒジリ様。やはり、私の主人は真に仕えるべきは、ヒジリ様だけです」
「あー、結局そこに行き着くんだ。(俺と一緒にいてもつまらないだろうに)」
クーリエの気持ちはどれだけ時間が経とうが、何が障害になろうが関係ない。
何処までもトコトン俺に付き従うつもりで、やれやれと蟀谷を掻いてしまう。
しかしそれだけの信頼に答えられるような俺じゃない。何処まで行っても、剣と社畜魂しかないのだ。
「それじゃあクーリエ、頼みがあるんだけどいいかな?」
「はい、なんなりとお申し付けくださいませ!」
「どうしてそんなに嬉しそうなの? 目、目が怖いんだけど」
クーリエは何故か膝を付き、俺に最大限の敬意を表する。
一瞬魅せたクーリエの眼光は完全にキマっていて、息を荒げている。
ヤバい奴。俺はたじたじになってしまうが、ここまでさせてしまった以上は命を下す。
「今から掃除をするんだけど、手伝ってくれないかな?」
「掃除にございますね、畏まりました」
「うーん、仰々しい」
クーリエは何処までもメイドだった。俺専属のメイドを勝ち取ろうという気合だけが空回りしている。
けれど今は少し違う。目の前に居るのは歴史に名を遺す魔法使いであり、トゥリーフ家のメイド。否、完璧な歴史的なメイド様だった。
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