21 / 45
21話 お掃除の時間
しおりを挟む
「ヒジリさん、掃除をしませんか?」
ラウリィはそんな提案を俺にした。
小屋の中が気になるくらいの範囲で汚れているのだ。
貴族であるラウリィにとっては由々しき事態。
そう思ったに違いない。
「掃除? 別にいいけど」
「よかったです。ヒジリさんは、私に掃除をさせてくれるんですね」
「えっ、掃除は自分でやるんじゃないの?」
俺は真っ当なことを言った。
とは言え現状、小屋の掃除は完全に追い付いていない。
おまけに手狭なせいで、俺は椅子を並べて眠り、ラウリィに部屋を貸し出している状態。
あまり心地の良い空間とは言えず、共住するには残念だった。
「ヒジリさん、私、家ではあまり掃除をさせて貰えなかったんです」
「そうなの?」
「はい。ミレイユに止められていて」
「そっか。専属のメイドっぽかったからね。で、ここだと思いっきり掃除ができると……」
「はい!」
ラウリィは元気のいい返事をした。
にこやかな笑みを浮かべると、早速掃除をしようとする。
「さてと、それではまずは家具を外に出して……」
「手伝うよ」
これは大掃除になりそうな予感。
密かに覚悟を決めると、腕まくりをした。
鍛えた筋肉を見せるも、ラウリィはチラ見もしてくれず、家具を運び出そうとした。すると突然、小屋の外から異様な気配を捉える。
「ん!?」
「どうしたんですか、ヒジリさん?
「いや、今外から気配が……」
俺はこの気配を知っている。
しかしそうとも言い難い。
気配を変える魔法が使える相手なら、振りをすることだって可能だ。
「ま、まさか、ね」
「気にしすぎですよ、ヒジリさん」
「そうだよね。それじゃあ俺も手伝うよ。ヒジリ、机を外に運び出すよ」
「分かりました! それじゃあ扉を開けて……」
ラウリィが扉を開けようとする。
すると扉の側から、バシュン! と貫くことが聞こえる。
「ひやっ!?」
「ラウリィ。今の音は……」
俺は扉に背中をそわせる。
ゆっくりドアノブを回し、扉を開いた。
すると扉の表面に鋭いナイフが突き刺さっている。
高さはラウリィの丁度頭を狙う位置で、扉越しにラウリィの気配を捕捉したとしか思えない。
(ヤバい技術だな。まさか師匠? いや、師匠がこんな真似するとは思えないけど、ってことは、やっぱり?)
俺は扉を開けようとした。
すると思いっきりギラリと光る何かが飛び交う。
「やっぱり!」
俺は実剣を握り締め、飛んで来たナイフを弾き落とした。
地面にコロンと落ちるナイス。
投げナイフのようで、空気抵抗を減らすため細く平たい。おかげで弾き落とすのは難なく、俺は投げナイフが飛んで来た方を睨み付ける。
「ヤバっ、見られたじゃん」
そこに居たのは男性だった。
知らない人だけど、もしかして何処かで恨みを買ったのかな?
俺には全くと言っていいほど心当たりはなく、首を横に捻ると、男性はそそくさと逃げ出す。
「一旦逃げるんだよ!」
「あっ、待って」
俺は男性に事情を訊ねようとした。
しかし男性は森の中へと消えていってしまう。
この先は整備が若干行き届いた道があり、先回りしようと思えばできるが、大人と子供では足の長さが違うので、先回りするのは無理があった。
「まあいっか。襲って来ても返り討ちにすれば」
「うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺が踵を返し、肩を落として小屋に戻ろうとする。
すると森の中から、またしても男性の声が上がる。
モンスターにでも遭遇したのか、頭を掻きながら、俺は表情を訝しめる。
「テンション高いな。後味悪いし、回収しに行こうかな」
俺は森の中に入る気はなかったが、助けていくことにした。
しかしそんな俺を妨げるように、森の中から声がする。
『その必要はありませんよ、ヒジリ様』
聞こえてきたのは女性の声。
しかもノイズ混じりで、俺の名前を呼んでいる。
「この声、まさか本当に?」
師匠じゃない。けれど俺はこの声を知っている。
丁寧でクールな雰囲気が森の中からヒシリと伝わると、俺は立ち尽くすしかなかった。
ラウリィはそんな提案を俺にした。
小屋の中が気になるくらいの範囲で汚れているのだ。
貴族であるラウリィにとっては由々しき事態。
そう思ったに違いない。
「掃除? 別にいいけど」
「よかったです。ヒジリさんは、私に掃除をさせてくれるんですね」
「えっ、掃除は自分でやるんじゃないの?」
俺は真っ当なことを言った。
とは言え現状、小屋の掃除は完全に追い付いていない。
おまけに手狭なせいで、俺は椅子を並べて眠り、ラウリィに部屋を貸し出している状態。
あまり心地の良い空間とは言えず、共住するには残念だった。
「ヒジリさん、私、家ではあまり掃除をさせて貰えなかったんです」
「そうなの?」
「はい。ミレイユに止められていて」
「そっか。専属のメイドっぽかったからね。で、ここだと思いっきり掃除ができると……」
「はい!」
ラウリィは元気のいい返事をした。
にこやかな笑みを浮かべると、早速掃除をしようとする。
「さてと、それではまずは家具を外に出して……」
「手伝うよ」
これは大掃除になりそうな予感。
密かに覚悟を決めると、腕まくりをした。
鍛えた筋肉を見せるも、ラウリィはチラ見もしてくれず、家具を運び出そうとした。すると突然、小屋の外から異様な気配を捉える。
「ん!?」
「どうしたんですか、ヒジリさん?
「いや、今外から気配が……」
俺はこの気配を知っている。
しかしそうとも言い難い。
気配を変える魔法が使える相手なら、振りをすることだって可能だ。
「ま、まさか、ね」
「気にしすぎですよ、ヒジリさん」
「そうだよね。それじゃあ俺も手伝うよ。ヒジリ、机を外に運び出すよ」
「分かりました! それじゃあ扉を開けて……」
ラウリィが扉を開けようとする。
すると扉の側から、バシュン! と貫くことが聞こえる。
「ひやっ!?」
「ラウリィ。今の音は……」
俺は扉に背中をそわせる。
ゆっくりドアノブを回し、扉を開いた。
すると扉の表面に鋭いナイフが突き刺さっている。
高さはラウリィの丁度頭を狙う位置で、扉越しにラウリィの気配を捕捉したとしか思えない。
(ヤバい技術だな。まさか師匠? いや、師匠がこんな真似するとは思えないけど、ってことは、やっぱり?)
俺は扉を開けようとした。
すると思いっきりギラリと光る何かが飛び交う。
「やっぱり!」
俺は実剣を握り締め、飛んで来たナイフを弾き落とした。
地面にコロンと落ちるナイス。
投げナイフのようで、空気抵抗を減らすため細く平たい。おかげで弾き落とすのは難なく、俺は投げナイフが飛んで来た方を睨み付ける。
「ヤバっ、見られたじゃん」
そこに居たのは男性だった。
知らない人だけど、もしかして何処かで恨みを買ったのかな?
俺には全くと言っていいほど心当たりはなく、首を横に捻ると、男性はそそくさと逃げ出す。
「一旦逃げるんだよ!」
「あっ、待って」
俺は男性に事情を訊ねようとした。
しかし男性は森の中へと消えていってしまう。
この先は整備が若干行き届いた道があり、先回りしようと思えばできるが、大人と子供では足の長さが違うので、先回りするのは無理があった。
「まあいっか。襲って来ても返り討ちにすれば」
「うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺が踵を返し、肩を落として小屋に戻ろうとする。
すると森の中から、またしても男性の声が上がる。
モンスターにでも遭遇したのか、頭を掻きながら、俺は表情を訝しめる。
「テンション高いな。後味悪いし、回収しに行こうかな」
俺は森の中に入る気はなかったが、助けていくことにした。
しかしそんな俺を妨げるように、森の中から声がする。
『その必要はありませんよ、ヒジリ様』
聞こえてきたのは女性の声。
しかもノイズ混じりで、俺の名前を呼んでいる。
「この声、まさか本当に?」
師匠じゃない。けれど俺はこの声を知っている。
丁寧でクールな雰囲気が森の中からヒシリと伝わると、俺は立ち尽くすしかなかった。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説


異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる
グリゴリ
ファンタジー
『旧タイトル』万能者、Sランクパーティーを追放されて、職業が進化したので、新たな仲間と共に無双する。
『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる』【書籍化決定!!】書籍版とWEB版では設定が少し異なっていますがどちらも楽しめる作品となっています。どうぞ書籍版とWEB版どちらもよろしくお願いします。
2023年7月18日『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる2』発売しました。
主人公のクロードは、勇者パーティー候補のSランクパーティー『銀狼の牙』を器用貧乏な職業の万能者で弱く役に立たないという理由で、追放されてしまう。しかしその後、クロードの職業である万能者が進化して、強くなった。そして、新たな仲間や従魔と無双の旅を始める。クロードと仲間達は、様々な問題や苦難を乗り越えて、英雄へと成り上がって行く。※2021年12月25日HOTランキング1位、2021年12月26日ハイファンタジーランキング1位頂きました。お読み頂き有難う御座います。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる