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16話 同棲ってこと!? それは流石にコンプラが!

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 ラウリィはとんでもないお礼を持ってきた。
 もちろんそんなお礼なんて俺は要らない。
 って、正直に言えばいいんだけど、そんなことを言える雰囲気じゃ無い。

「えっと、なんで?」
「それは、ですね、その……実は私、貴族なんです」
「だろうね。気付いてた」

 ラウリィは意を決して口にした。
 だけどもう気が付いていることだった。
 ラウリィが貴族である。そんなのあの態度と対応を見れば誰でも丸分かりだった。

「気が付いていたんですか! それなら尚更」
「いやいやいやいや、それとこれとは話が違うから」
「そ、そうですか? そうですよね。あの、私がここに来たのは本当にお礼をするためなんです。それが、その、私じゃダメですか?」

 意味が分からない。
 意味が分からなすぎて頭がバグりそう。
 あまりにも非現実的なことが起きていて、恋愛シミュレーションゲームなのかと思った。

「ダメとかじゃなくてさ、なに?」
「私、貴族なんです。お父様が子爵なんです」
「凄いね。大抵こんな辺境の土地、男爵なのに」
「えへへ、凄いですよね。それでですね、私はその家の、ストチュール家の三女なんです。ですので、居場所が無くて……」

 ラウリィの言うことには矛盾があった。
 そのせいで俺は言葉に詰まった。
 瞬きを繰り返すと、ラウリィと俺自身が似ている気がした。

「ラウリィは居場所が無かったんだ。それにしては箱入りって感じだったけど?」
「そ、それは、その、私の兄弟が皆んな活発だからです。ですので、その、変なことに巻き込まれないようにとのことで……」
「箱入り娘かよ!」

 それだと言葉の意味も全然変わる。
 俺は騙される所だったと思い、気を引き締め直す。
 やっぱりお礼なんて要らない。普通に帰って貰おう。そう思ったのも束の間、ラウリィは机に頭を叩き付ける勢いでお辞儀をした。

「お願いします。私をヒジリさんの側に置いてください!」
「えー」

 とんでもなく困ってしまった。
 これはあれだろうか。新手のストーカーなのだろうか。
 重い、それなら重すぎる。俺は選択の余地を迫られる。

「どうして、無理にでもお礼をするならもっと形のある物でもいいよ?」
「それは……ダメです!」

 俺は回りくどい提案をした。
 しかしラウリィは何故か却下する。

「なんで? なんでそうなるの」
「それは、その……私は、今はまだ居場所があります。ですが、それは今だけです」
「あー」

 何だか理解が追い付いてきた。
 要はあれだ。ストチュール家も貴族の端くれというわけだ。
 この異世界、何だか戦国時代みたいなやり取りがある。

「それはウザいね。家柄に引っ張られるなんて」
「私は家族が大好きです。家族のためならと思うこともあります。でも、譲れないものもあるんです」

 ラウリィは強い想いを言葉に乗せる。
 一言にパンチがあり、俺の心をノックする。

「だけど、こうしてヒジリさんに会って分かったんです。私の気持ち、少しだけですけど」
「なにが分かったの?」
「そ、それは、その、恥ずかしいです!」

 ラウリィは何故だろう、顔が赤くなる。
 耳の先まで真っ赤になると、顔を見せないようにする。
 俺は首を捻ると、ラウリィの感情を読めなかった。

「うーん、事情は分かったよ。でもやっぱり……」
「お願いします。お側に置いていただければ従者でもなんでも構いません!」
「そこまでする?」
「はい! 私がここに来たのは、お礼のためだけじゃないんです。ヒジリさんだからこそ、私はここにいるんです。ダメですか?」

 潤んだ瞳を向け、俺に促し掛ける。
 同情を誘おうと言うのか、正直掴み難い。
 とは言えここまでされて尚、俺は迷ってしまう。
 ラウリィのこと、これからのこと、これじゃあ俺が疎まれそうだ。

(しょうがない、あの手で行こう)

「ラウリィ、従者になってくれるんだよね?」
「はい! そのために剣を持ってきました」

 ラウリィは腰に携えた剣を見せつける。
 特徴的な形をした剣で、俺は目を奪われる。

「それじゃあ従者として雇うよ。それならいい?」
「つまり、お側に置いていただけるんですね!」
「まあ、間接的には?」
「構いません。やった、ありがとうございます!」

 何故だろう、無性に喜ばれてしまった。
 しかしその合間には“従者”と言う言葉が建前のようにしか感じられない。
 俺にはそんな裏表を過らされるとゾクリとし、ラウリィの顔色を窺うのだった。
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