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15話 本当にお礼に来た?
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俺は扉の前に立っていた誰かにぶつかった。
頭を押さえ、急に走った痛みに表情を訝しめる。
けれど自分のせいでもある。だからこそ、先に謝る姿勢を見せた。
「ごめん、怪我はしてな……い?」
「ううっ、またぶつかっちゃいました」
そこに居たのは白尽くめの少女だった。
この格好、この声、全てに見覚えがある。
唯一無いのは腰に携えた剣のみで、俺はほぼ間違いなく、百パーセントを飛び越えて確信を持った。
「もしかして、ラウリィ?」
「その声、やっぱりヒジリさんのお家だったんですね! よかったです」
この場合、何を以って“良かった”なのかイマイチピンと来ない。
けれどラウリィは笑顔を浮かべている。
如何やらラウリィがここに来た目的は、俺に会うことだったらしい。
「えーっと、とりあえずどうぞ?」
「お邪魔致します。おお……」
ラウリィを小屋に通すと、丁寧に頭を下げた。
しかし顔を上げた瞬間、あまりにも手入れの行き届いていない小屋に小声を漏らす。
汚い、正直掃除は行き届いていない。俺はソッと目を逸らした。
「ヒジリさん」
「そ、掃除でしょ? 分かってるよ。後でやるから、とりあえずそこに座ってて」
俺は開いている椅子に指を指すと、ラウリィに座って貰った。
確か奥に使っていない新品の茶葉があったはずだ。
お湯は一応沸かしてあるので、俺は急いでカップを用意し、お茶を注ぐことにした。
「あの、ヒジリさん」
「大丈夫大丈夫。一応これでも生活できてるから」
俺はラウリィに何を言われるか分からず怖くなる。
社畜時代、否、学生時代からの癖で穏便解決を図りに向かう。
全力で意識を集中すると、今にも頭の血管が破裂するくらい本気になった。
「あの、ヒジリさん、私お話があるんです」
「お、お話? 俺には無いけど」
「そんなこと言わないでください。ここに来るまで大変だったんですよ」
「ううっ、整備はしているつもりなんだけどな……」
ラウリィは逆ギレしてしまった。
如何やらここに来るまで時間が掛かったようで、この間よりは丁寧に森の中を歩いてきたようだが、所々に擦り傷が走っている。
俺は正直整備をしている。正しいルートを通れば怪我なんてしないのだ。
何故自分がキレられるのか、心底社畜時代のクズ上司がチラついた。
「落ち着け、ここは違うぞ。ここは異世界、相手はか弱い少女……キレるなキレるな」
俺は心の中で深呼吸をすると、精神を落ち着かせた。
そのおかげかスッと嫌な気持ちは消えて行く。
だからだろうか。ラウリィに作り笑いを浮かべると、引かれてしまった。
「ヒジリさん、やっぱり無理してますよね?」
「無理はしてないよ。あっ、それよりジャーキー食べる? 俺が燻製にした奴なんだけど、つまみくらいには」
「あの、ヒジリさん。私が不躾にも昨日今日ここに来たのには理由があるんです。ヒジリさんにいち早くお礼がしたいんです」
ラウリィは急ぎ足で話を進めて行く。
もはや俺が入り込む隙は何処にもない。
開こうとした口を強制的に黙らされると、俺は口をチャックした。
「お礼ね……(律義だなー)」
お茶を淹れ、それぞれの前にカップを置いた。
下に敷かれた藁半紙の様なコースターがみっともない。
口を付けた部分から滴る水滴が吸われると、俺は肘をついて顎を乗せた。
「もしかして、そのために来たの?」
「はい!」
「他には?」
「無いです!」
「……(律義!)」
こんなにも純粋ピュアな子を無碍にはできない。
心の中で純粋正義な俺がけたたましくトランペットを吹いた。
ここは態度を切り替えよう。影響じゃないけど笑顔を切り捨て、いつもの俺へと戻った。
「わざわざ俺のために来てくれたんだ。ありがとう」
「えっ、急、急に褒められて……あの、その、ご迷惑では?」
「別に気にしてないよ。貰えるものは変なものじゃなければ貰っておいた方が吉だからね」
俺は持論を呟いてみせた。すると少女は「変なの……」と少し落ち込み気味に口ずさむ。
もしかして地雷を踏み抜いた? 嫌な予感がしたのだが、少女は切り替え俺の目をジッと見る。
それから何か真意がありそうで掴めないが、ポツリと訊ねた。
「あの、ヒジリさんは貰ってくれますか?」
「なにを?」
「その、私ができる、私なりの最善なお礼をです!」
ラウリィの言葉には芯があった。
もはや俺が口を挟む道理はないほどに。
ここまで篭っているものならば、きっと間違いは無いに決まっている。
数秒の思考に運命を委ねると、俺はニコリと正しい笑みを浮かべた。
「うん。お礼は要らないけど、そこまで言うなら貰ってもいいかな」
「では……ヒジリさん、私をヒジリさんの下に置いてください」
「……はい?」
ラウリィは自分の胸に手を当て、堂々とした態度を取る。
けれど俺には珍紛漢紛で、ちっとも理解できない。
首を捻り真顔になると、ラウリィは再度答える。
「私はヒジリさんを支えるためにここに来ました。言質は取りました。私はヒジリさんの従者をさせていただきますね」
「……意味分かんないんだけど」
俺の思考が勝手に停止していた。
ラウリィの言葉には脈絡が無い。
けれどラウリィの中では決まっているようで、一人周回遅れにされてしまった俺が居た。
頭を押さえ、急に走った痛みに表情を訝しめる。
けれど自分のせいでもある。だからこそ、先に謝る姿勢を見せた。
「ごめん、怪我はしてな……い?」
「ううっ、またぶつかっちゃいました」
そこに居たのは白尽くめの少女だった。
この格好、この声、全てに見覚えがある。
唯一無いのは腰に携えた剣のみで、俺はほぼ間違いなく、百パーセントを飛び越えて確信を持った。
「もしかして、ラウリィ?」
「その声、やっぱりヒジリさんのお家だったんですね! よかったです」
この場合、何を以って“良かった”なのかイマイチピンと来ない。
けれどラウリィは笑顔を浮かべている。
如何やらラウリィがここに来た目的は、俺に会うことだったらしい。
「えーっと、とりあえずどうぞ?」
「お邪魔致します。おお……」
ラウリィを小屋に通すと、丁寧に頭を下げた。
しかし顔を上げた瞬間、あまりにも手入れの行き届いていない小屋に小声を漏らす。
汚い、正直掃除は行き届いていない。俺はソッと目を逸らした。
「ヒジリさん」
「そ、掃除でしょ? 分かってるよ。後でやるから、とりあえずそこに座ってて」
俺は開いている椅子に指を指すと、ラウリィに座って貰った。
確か奥に使っていない新品の茶葉があったはずだ。
お湯は一応沸かしてあるので、俺は急いでカップを用意し、お茶を注ぐことにした。
「あの、ヒジリさん」
「大丈夫大丈夫。一応これでも生活できてるから」
俺はラウリィに何を言われるか分からず怖くなる。
社畜時代、否、学生時代からの癖で穏便解決を図りに向かう。
全力で意識を集中すると、今にも頭の血管が破裂するくらい本気になった。
「あの、ヒジリさん、私お話があるんです」
「お、お話? 俺には無いけど」
「そんなこと言わないでください。ここに来るまで大変だったんですよ」
「ううっ、整備はしているつもりなんだけどな……」
ラウリィは逆ギレしてしまった。
如何やらここに来るまで時間が掛かったようで、この間よりは丁寧に森の中を歩いてきたようだが、所々に擦り傷が走っている。
俺は正直整備をしている。正しいルートを通れば怪我なんてしないのだ。
何故自分がキレられるのか、心底社畜時代のクズ上司がチラついた。
「落ち着け、ここは違うぞ。ここは異世界、相手はか弱い少女……キレるなキレるな」
俺は心の中で深呼吸をすると、精神を落ち着かせた。
そのおかげかスッと嫌な気持ちは消えて行く。
だからだろうか。ラウリィに作り笑いを浮かべると、引かれてしまった。
「ヒジリさん、やっぱり無理してますよね?」
「無理はしてないよ。あっ、それよりジャーキー食べる? 俺が燻製にした奴なんだけど、つまみくらいには」
「あの、ヒジリさん。私が不躾にも昨日今日ここに来たのには理由があるんです。ヒジリさんにいち早くお礼がしたいんです」
ラウリィは急ぎ足で話を進めて行く。
もはや俺が入り込む隙は何処にもない。
開こうとした口を強制的に黙らされると、俺は口をチャックした。
「お礼ね……(律義だなー)」
お茶を淹れ、それぞれの前にカップを置いた。
下に敷かれた藁半紙の様なコースターがみっともない。
口を付けた部分から滴る水滴が吸われると、俺は肘をついて顎を乗せた。
「もしかして、そのために来たの?」
「はい!」
「他には?」
「無いです!」
「……(律義!)」
こんなにも純粋ピュアな子を無碍にはできない。
心の中で純粋正義な俺がけたたましくトランペットを吹いた。
ここは態度を切り替えよう。影響じゃないけど笑顔を切り捨て、いつもの俺へと戻った。
「わざわざ俺のために来てくれたんだ。ありがとう」
「えっ、急、急に褒められて……あの、その、ご迷惑では?」
「別に気にしてないよ。貰えるものは変なものじゃなければ貰っておいた方が吉だからね」
俺は持論を呟いてみせた。すると少女は「変なの……」と少し落ち込み気味に口ずさむ。
もしかして地雷を踏み抜いた? 嫌な予感がしたのだが、少女は切り替え俺の目をジッと見る。
それから何か真意がありそうで掴めないが、ポツリと訊ねた。
「あの、ヒジリさんは貰ってくれますか?」
「なにを?」
「その、私ができる、私なりの最善なお礼をです!」
ラウリィの言葉には芯があった。
もはや俺が口を挟む道理はないほどに。
ここまで篭っているものならば、きっと間違いは無いに決まっている。
数秒の思考に運命を委ねると、俺はニコリと正しい笑みを浮かべた。
「うん。お礼は要らないけど、そこまで言うなら貰ってもいいかな」
「では……ヒジリさん、私をヒジリさんの下に置いてください」
「……はい?」
ラウリィは自分の胸に手を当て、堂々とした態度を取る。
けれど俺には珍紛漢紛で、ちっとも理解できない。
首を捻り真顔になると、ラウリィは再度答える。
「私はヒジリさんを支えるためにここに来ました。言質は取りました。私はヒジリさんの従者をさせていただきますね」
「……意味分かんないんだけど」
俺の思考が勝手に停止していた。
ラウリィの言葉には脈絡が無い。
けれどラウリィの中では決まっているようで、一人周回遅れにされてしまった俺が居た。
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