14 / 45
14話 今更だけど、この世界の俺
しおりを挟む
本当に今更になるのだが、俺、双葉聖は異世界に居る。
その実感は、正直痛い程伝わる……訳じゃない。
むしろ今も夢の中、もしくはReaRisin Magicの中、その延長線上に居るのではないかと思う今日この頃。俺は暇を持て余していた。
「ふはぁー。暇だ」
現実では社畜人生を送る俺。
それとは打って変わり、この世界での俺は非常に暇だった。
何か成すべきことがある。と言った大それたことも無く、勇者と言う称号を押し付けられ、稀代の魔王を打ち破るみたいな、非現実的な野望もない。ましてや学校に通い、自分のことを貶す生徒や教師に実力をひけらかすような王道展開もない。
スローライフ。と呼ぶにも適さない魔法を与えられ、悠々自適を通り越し、机に頭を突っ伏すことになっていた。
「マージで、“あの子”とか“あの子の周り”ってなんなんだろ。もうその役目、ラウリィのことでよくないか?」
頭の片隅には天使風の女性が託した言葉がグルグル反芻思考する。
それだけ最後に捧げられた言葉が、この世界の俺を暗喩していた。
けれど記憶が戻って約三年。一度、本当に昨日起きた盗賊騒動以外に、それっぽいことは何一つなかった。
「家族の所に戻っても、正直やることが……いや、そんなこと言ってたら、自堕落な生活になるか。まあいいんだけどさ……はぁ」
この世界での俺の家族は農業に精通している。
全員受け継いだ【家系魔法】によって土地を豊かにし、その上で役目を果たしている。
けれど俺は【固有魔法:付与】なので、あまり役に立てない。
そのせいもあってか、一人自責して、家の中で居場所を失おうとしていた。
だからこそ、俺はこうして一人で生活をしている。
両親に頼んで小さな小屋と痩せた土地を借り、そこに間借りしている。
もちろん完全自堕落な生活にはなっていない。
こんなにも痩せ細った土地でも魔力は充分。そのせいもあり、モンスターが闊歩している。
俺には剣を振ることしかできない。だから剣を構え、モンスターを退治し、その肉を捌いて利益を上げる。何かしらで貢献はしているのだが、それすら今は無く暇で仕方なかった。
「あー、現代日本人……統計的にはなー」
社畜人生を振り返しながら、俺は迷走していた。
異世界で青空を見つめたり、小屋の中でボーッとしたりできるこの瞬間が尊い。
けれど半面、自堕落な自分が許せない。そんな社畜の鑑のような俺が心の中で蠢き走り、奇妙な不協和音を奏でていた。
「もうどうでも良くなりたい」
俺はふと目を閉じてしまった。
小さな窓から射し込む陽射しに頬を射抜かれ、あまりの心地よさに感無量しそうになる。
このまま眠ってしまおうか。そうしよう、それがいい。俺の中で今日の予定を決めるも、その瞬間全身を貫く感覚に撃たれた。
「あっ、なんか来たな」
俺は体を起こすと、背中を木の椅子に預ける。
ガタンガタンと揺れる椅子。腰まで据えると、ソッと目を開けた。
如何やらこの気配、モンスターじゃなさそうだ。となればなに? 俺はインベントリの中から外している装備を取り出した。
「モンスターじゃないとすれば、人間? にしては敵意は無いような気も……ぶっちゃけ分かんないな」
俺は取り出した実剣を鞘から引き抜き、銀の反射する刃を睨んだ。
陽射しが屈折すると、綺麗なくの字を描いている。
そこに映る自分の顔。一応研いではいるが、ボロボロになった剣の表面に映ると、やけに歪んで見えてしまった。
「この剣も寿命かな。さてと、それじゃあ最後に使うとするか」
俺は鞘に剣を納めると、椅子から立ち上がり小屋の外に向かおうとする。
しかし気配はすぐそこまで来ていた。急いでいる様子は無く、ゆっくりとこの立ち尽くす。
その意外な行動に、俺は首を捻ると、剣を握ったまま蟀谷を掻いた。
「もしかして道に迷った的な奴? それなら適当に道を教えに行こうかな……」
俺はインベントリの中に実剣を仕舞った。
一瞬にして消えてなくなると、鞘の代わりにドアノブを握る。
建付けの悪くなったドアノブだ。ギュルギュルと嫌な音を立てると、そのまま押し開けることになり、俺は誰かにぶつかった。
「「うわぁ!!」」
まさか扉の前で立っていたなんて。
いや、俺のタイミングと丁度ノックするタイミングが被ったのだろうか。
やってしまった。苦い顔をして後悔すると、俺はぶつかった誰かに申し訳ない思いをした。
その実感は、正直痛い程伝わる……訳じゃない。
むしろ今も夢の中、もしくはReaRisin Magicの中、その延長線上に居るのではないかと思う今日この頃。俺は暇を持て余していた。
「ふはぁー。暇だ」
現実では社畜人生を送る俺。
それとは打って変わり、この世界での俺は非常に暇だった。
何か成すべきことがある。と言った大それたことも無く、勇者と言う称号を押し付けられ、稀代の魔王を打ち破るみたいな、非現実的な野望もない。ましてや学校に通い、自分のことを貶す生徒や教師に実力をひけらかすような王道展開もない。
スローライフ。と呼ぶにも適さない魔法を与えられ、悠々自適を通り越し、机に頭を突っ伏すことになっていた。
「マージで、“あの子”とか“あの子の周り”ってなんなんだろ。もうその役目、ラウリィのことでよくないか?」
頭の片隅には天使風の女性が託した言葉がグルグル反芻思考する。
それだけ最後に捧げられた言葉が、この世界の俺を暗喩していた。
けれど記憶が戻って約三年。一度、本当に昨日起きた盗賊騒動以外に、それっぽいことは何一つなかった。
「家族の所に戻っても、正直やることが……いや、そんなこと言ってたら、自堕落な生活になるか。まあいいんだけどさ……はぁ」
この世界での俺の家族は農業に精通している。
全員受け継いだ【家系魔法】によって土地を豊かにし、その上で役目を果たしている。
けれど俺は【固有魔法:付与】なので、あまり役に立てない。
そのせいもあってか、一人自責して、家の中で居場所を失おうとしていた。
だからこそ、俺はこうして一人で生活をしている。
両親に頼んで小さな小屋と痩せた土地を借り、そこに間借りしている。
もちろん完全自堕落な生活にはなっていない。
こんなにも痩せ細った土地でも魔力は充分。そのせいもあり、モンスターが闊歩している。
俺には剣を振ることしかできない。だから剣を構え、モンスターを退治し、その肉を捌いて利益を上げる。何かしらで貢献はしているのだが、それすら今は無く暇で仕方なかった。
「あー、現代日本人……統計的にはなー」
社畜人生を振り返しながら、俺は迷走していた。
異世界で青空を見つめたり、小屋の中でボーッとしたりできるこの瞬間が尊い。
けれど半面、自堕落な自分が許せない。そんな社畜の鑑のような俺が心の中で蠢き走り、奇妙な不協和音を奏でていた。
「もうどうでも良くなりたい」
俺はふと目を閉じてしまった。
小さな窓から射し込む陽射しに頬を射抜かれ、あまりの心地よさに感無量しそうになる。
このまま眠ってしまおうか。そうしよう、それがいい。俺の中で今日の予定を決めるも、その瞬間全身を貫く感覚に撃たれた。
「あっ、なんか来たな」
俺は体を起こすと、背中を木の椅子に預ける。
ガタンガタンと揺れる椅子。腰まで据えると、ソッと目を開けた。
如何やらこの気配、モンスターじゃなさそうだ。となればなに? 俺はインベントリの中から外している装備を取り出した。
「モンスターじゃないとすれば、人間? にしては敵意は無いような気も……ぶっちゃけ分かんないな」
俺は取り出した実剣を鞘から引き抜き、銀の反射する刃を睨んだ。
陽射しが屈折すると、綺麗なくの字を描いている。
そこに映る自分の顔。一応研いではいるが、ボロボロになった剣の表面に映ると、やけに歪んで見えてしまった。
「この剣も寿命かな。さてと、それじゃあ最後に使うとするか」
俺は鞘に剣を納めると、椅子から立ち上がり小屋の外に向かおうとする。
しかし気配はすぐそこまで来ていた。急いでいる様子は無く、ゆっくりとこの立ち尽くす。
その意外な行動に、俺は首を捻ると、剣を握ったまま蟀谷を掻いた。
「もしかして道に迷った的な奴? それなら適当に道を教えに行こうかな……」
俺はインベントリの中に実剣を仕舞った。
一瞬にして消えてなくなると、鞘の代わりにドアノブを握る。
建付けの悪くなったドアノブだ。ギュルギュルと嫌な音を立てると、そのまま押し開けることになり、俺は誰かにぶつかった。
「「うわぁ!!」」
まさか扉の前で立っていたなんて。
いや、俺のタイミングと丁度ノックするタイミングが被ったのだろうか。
やってしまった。苦い顔をして後悔すると、俺はぶつかった誰かに申し訳ない思いをした。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?


転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?
N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、
生まれる世界が間違っていたって⁇
自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈
嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!!
そう意気込んで転生したものの、気がついたら………
大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い!
そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!!
ーーーーーーーーーーーーーー
※誤字・脱字多いかもしれません💦
(教えて頂けたらめっちゃ助かります…)
※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる