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13話 ラウリィ達と別れ、一旦ね

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 俺は無事にラウリィの家族を助けることができたらしい。
 感謝の雨を受けると、心が少し満たされた気分になる。
 社畜時代の疲労からか、本当に嬉しいものが何か分からなかったが、人を助けることはそれだけ幸福感を高めてくれる。

「なんか、めっちゃ嬉しい」
「嬉しいのは私です。家族を救っていただき、ありがとうございました」

 ラウリィは代表して丁寧に頭を下げた。
 その時みせた表情は、やや頬が赤らんでいる。
 泣いている訳じゃない。きっと嬉しすぎて嬉し泣きしていたに違いない。

「ラウリィ、もしかして泣いてた?」
「泣いてないです!」
「家族の前だからって我慢しなくていいよ。むしろ一杯泣けばいいよ」
「……そうします」

 ラウリィは感情を押し殺していた。
 しかし俺が促したおかげなのか、ラウリィはミレイユとスフロの傍に寄る。

(耳くらいは塞いでおこうかな)

 俺はラウリィを囲うミレイユとスフロの姿で案じた。
 耳を塞ぎ、目を閉じると、何処からか騒めきが立った。
 たくさん泣いているに違いない。俺はラウリィの感情をイメージし、《剣聖》なんて茶化されていた社畜の俺との違いを感じた。


「ヒジリさん、ありがとうございました」
「何度もいいよ。それより」
「はい、お礼は近日中に必ずさせていただきます」
「あっ、それはいいよ。別に大したことはしてない」

 俺は謙虚に振舞った。
 実際の所、ラウリィ達にとっては一大事の騒事だったのは事実だ。
 けれど俺には関係の無い話。ただ盗賊をボコボコにして、ラウリィの家族に回復ポーションを飲ませる。それだけの簡単な作業だったので、お礼なんて要らない。
 むしろして欲しいことは別にあった。

「お願いしたのは二つ。一つは盗賊達をちゃんと警察に突き出して」
「警察ですか? 分かりました。責任を以って騎士団に引き渡します」
「ありがとう。それともう一つ、俺のことは極力伏せて欲しいな」
「ど、どうしてですか!?」

 ラウリィは驚いていた。もちろん俺には一切伝わってこない。共感ができなかった。
 けれどよくよく考えればラウリィにとっては異例だ。
 他言無用とは言っても、流石に助けて貰った手前、その評判を上げるためにも言いふらしたい気持ちが人間にはある。それが命に関することなら尚のこと、英雄思想を抱くこともある。

 だけどそれは一般論からかけ離れていた。
 正直な話、俺は自慢にして欲しくない。
 そんなことになれば、面倒なことになるのは確実で、天使風の女性が俺を無理やりこの異世界に飛ばした理由、“あの子やあの子の周りを助けて”が果たせなくなる気がした。
俺はいつになってもこの異世界での役割が分からない。超絶スローライフを送るためにも自由を得られない気がした。

(まさかこの子が“あの子”がじゃないよな。なー)

「今の俺はラウリィが思う程褒められた人じゃない。だからラウリィの胸の中でだけ、俺のことを讃えててよ」
「ヒジリさん……」

 俺は少し調子に乗って、ナルシストみたいなことを言ってしまった。
 これで上手く切り抜けられればいいのだが、最悪愛想をつかされてしまうかもしれない。
 それは流石に困る。せめて友達くらいにはなっておきたい。
 後のことを思いながらも、二者択一の爆弾をラウリィに預けてしまい、心底胸がキュッとなった。

「あっ、いや、別にさ、変な意味じゃないから嫌いにはならないで欲しいな。そ、それこそ友達にはなって欲しいから」
「……はい、そうします」
「どうするの!?」

 ラウリィは一体何に対して“そうします”と言ったのか分からない。
 どっちに転んだのか。どの色の導火線を切ったのか。俺は怖くなってしまう。
 真偽が定かではない中、俺はラウリィに腕を伸ばす。
 その手は空を掻き、ラウリィはミレイユ達に呼ばれて馬車の下まで移動した。

「ラウリィ様、そろそろお戻りにならなければ、旦那様と奥様が心配されてしまいます」
「分かりました。それではヒジリさん、また後程」

 ラウリィはミレイユに促され、馬車へと乗り込む。
 その間に盗賊達を引き摺りながら、スフロが馬車へと引き寄せる。
 乱暴に荷車に括りつけられると、人権の無さを感じ取った。

「それじゃあ俺達は行くから。本当にありがとう」
「は、はい。お気を付けて」
「うん。それじゃあ戻りますよ。はいやっ!」
「あっ、ちょっと待ってよ……ああ、行っちゃった」

 俺は手を伸ばしたがやっぱり届かなかった。
 ラウリィの真意も聞けないまま、馬車の乗って帰ってしまう。
 盗賊達を連れ、帰路へ着く馬車の荷車を俺は寂しく見届けた。
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