かつて《剣聖》と呼ばれた社畜、異世界で付与魔法を手に再び《剣聖》へと至る。

水定ユウ

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11話  怪我してるじゃんか!?

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「そう言えばラウリィ、二人の怪我の具合だけど」
「は、はい。ヒジリさん、ミレイユは腕を脱臼していて、青くなっています。スフロさんは脚の腱を切られてしまっていて……こんなことになるなんて」

 俺達は縛り付けられていたミレイユとスフロを解放した。
 しかし怪我の具合はあまり良くない。
 特にスフロは両脚の腱を切られていて立ち上がることもできず、ミレイユも脱臼はまだましだが、青く腫れ上がっていて内出血が酷かった。

「わ、私はどうすれば!?」
「うーん、俺は医者じゃないし、回復魔法も使えない。正直戦うことしかできない雑魚だからな。ラウリィは?」
「わ、私も支援型の魔法しか使えません」
「ってことは、まともな手段で打つ手は無しか。そうすると、街まで急ぐ……にしても、俺は馬を扱えないし、どうしようか」

 俺は困ってしまった。戦うことしかできないからだ。
 両親に馬の扱いを教わった訳でもなく、ましてや回復魔法が使える程万能でもない。
 天使風の女性がくれた魔法だけでは、この状況を打開することはできなかった。

「なにか無かったっけ?」
「すみません。私はなにも持っていません」
「そうだよね。盗賊に追われている時点で……そっか、盗賊の荷物!?」

 俺は閃いた。これは妙案だと思ったのが、盗賊の荷物を拝借することだった。
 どのみち捕まるんだから、物を盗んだって構わないはずだ。
 それで自分達がしたことへの恩情になるのなら、盗賊達にとってもメリットになる筈。
 ニヤリと笑みを浮かべ、盗賊の荷物を早速漁ってみるのだが、残念なことに回復アイテムは持っていなかった。

「な、なんにも持ってない!?」
「ええっ!? どうしよう、ミレイユ、スフロさん……」

 ラウリィは不安にさいなまれてしまった。
 まともに動けないミレイユとスフロ。二人に情けない顔を見せてしまう。
 今にも泣き出しそうで、ミレイユとスフロは心配を掛けないように必死になる。

「大丈夫ですよ、ラウリィ様」
「そんな顔はしないでください。命があるだけ救いです」

 ミレイユとスフロの言葉が重くて鋭いナイフになって、ラウリィの心臓を抉った。
 心にまでダメージが入ると、余計にメンタルが壊れる音がする。
 抑え込んでいたダムが決壊目前。俺は見ていられないので、インベントリから奥の手を取り出す。

(使ってもいいのか? いや、出し惜しみはよくないな)

 俺が取り出したのは緑色の液体がたっぷり入った瓶だった。
 試験管のような管に容れられ、タプンタプン音を立てている。
 見た所美味しそうじゃない。青汁よりももっと緑に近く、正直黄緑色の怪しい液体が陽射しに撃ち抜かれていた。

「ラウリィ、今からすること、他言無用でお願いできる?」
「えっ、なにをする気なんですか?」
「それはラウリィが俺を信じた上で、了承してくれたら教えてあげるよ。それでも俺ができることには限りがあるから。どうする?」

 俺は全ての責任と選択の余地をラウリィ一人に委ねた。
 それに加えて必ずしも結果が出せる訳じゃない。
 あまりにも酷な選択を強いると、ラウリィは苦汁の表情を浮かべ、全身を強張らせた。

「わ、分かりました。私はヒジリさんを信じます」
「言ったね、言質取ったよ。それじゃあ……これ飲んでください」

 俺は振り返りざま、持っていた試験管を見せつけた。
 ニヤリとした不敵な笑みを浮かべると、動けないミレイユとスフロは驚愕する。
 全身が身震いすると、出来るだけ逃げようと必死になった。

「ら、ラウリィ様!?」
「彼は一体なにをしようとしているんです!?」
「安心してください、ミレイユさん、スフロさん、これは怪しい物じゃないです。飲めば体が元気になります。きっと怪我も“ある程度”なら治ると思うよ」
「「“ある程度”……ラウリィ様!!」」
「か、彼を信じてあげてください。お願いします!」

 俺の説明はあまりにもざっくりとしており、掻い摘む形でミレイユとスフロは聞いていた。
 しかしあまりにも危険すぎる。全身がゾクリとし、なんとかして逃げようとする。
 頼みの綱のラウリィに懇願したのだが、ラウリィは手を組んで委ねることにした。

「ラウリィ様……分かりました」
「覚悟を決めますよ」
「そんなに危険なものじゃないんだけどな」

 俺はグッと目を瞑って、俺に全てを任せていた。
 その裏にはラウリィに対する絶対の信頼があるからだ。
 つまり俺は信じられていない。なんだか腑に落ちないので頬を掻くと、試験管のコルク栓を抜いた。

 ポンッ!

「それじゃあ飲んでください」
「「の、飲む!?」」
「はい、飲みます。これは飲まないとダメな奴です……確か」
「「確か!? 真偽不明はこ、怖い」」
「だよねー、怖いよねー。でも大丈夫。はい、全部飲み干して……苦いけど」

 俺は最後の最後にもの凄く大事なことを軽く呟いた。
 もちろんミレイユとスフロは訊かされていない。
 試験管の中に入った液体を口の中に注ぎ込むと、あまりに苦さと草臭さに嗚咽を漏らして吐き出しそうになった。

「うっぶ、がっ、ああ、苦い……ああ」
「なんだこの糞不味い……ぶはっ!」
「回復ポーションって、本当は飲みやすい筈なんだけど、俺は使う機会なかったからな。今度からちゃんと品質の良い奴使おう」

 苦しむミレイユとスフロの姿を凝視し、俺は次自分が回復ポーションを使う時のことを考えた。
 隣で苦しそうな表情を浮かべるラウリィを横目にだ。
 自分でも最低なことをしていると思ったが、心の中で手を合わせ「ご愁傷様」と唱えるのだった。
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