かつて《剣聖》と呼ばれた社畜、異世界で付与魔法を手に再び《剣聖》へと至る。

水定ユウ

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10話 家族が無事でなにより

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 森の中を抜け、俺達は少女の乗って来た馬車を目指した。
 おそらく少女の体の傷からしてそこまで離れてはいないはずだ。

「この先の道を進んでたってことは、街かトゥリーフの家にでも用があったの?」
「は、はい。実はお願いしたいことがあったんです」
「お願いしたいこと? ちなみに、なんでとか訊いても?」
「えっと、それはその、秘匿で……」

 少女は申し訳なさそうな表情を浮かべる。
 それなら仕方がない。
 俺は変に詮索することを止めると、森を無事に抜けることができた。

「一応敵の姿は無かったな」
「そうですね。あの、護衛もお願いしてしまったすみません」
「いいよ。乗りかかった船だから」

 俺は少女に気を遣わせないようした。
 とは言え、少女の性格的にそれは難しい。
 視線を右往左往させ、俺の気を取り繕うと必死だ。

「おっ、道に出た」

 森を抜け、緑一面の草原を抜けると、舗装はされているが剥き出しになった地面が現れる。
 草原と草原の間にできた茶色の地面。
 これは道だ。太い道で、馬車が通れるには充分だ。

「どっちから来たの?」
「はい、えーっと、こっちです」
「右ってことは、確かこの先は小さな町があった気がするけど。まあいっか」

 俺は話をすんなりスルーすると、少女を連れて右の道へと進んだ。
 すると少女は一瞬だけたじろいだ。
 何か思うことでもあるのかな。俺はそんな予感がすると、特に気には止めずに先に向かった。

「この先かな……あっ、あった」
「あっ、あれです。私が乗って来た馬車は……はっ! ミレイユ、スフロさん!」

 少女は俺のことは見ないで、馬車へと駆け寄った。
 そこには小さいが馬車に縛り付けられた二つの影がある。
 如何やら人のようで、俺は大切な家族なんだと悟った。

「家族が生きててなによりだ。さてと、俺達も行くか。ちゃんと後で謝れよ」

 俺は肩に担ぎ上げた盗賊達に鋭い目をして呟いた。
 しかし気絶しているせいか、一切聞こえている気がしない。
 後でたっぷり怒られて貰おう。俺はそう睨むと、少女の下へと向かった。


「ミレイユ、スフロさん! 大丈夫ですか!?」

 少女は馬車に縛り付けられている男女に優しく声を掛ける。
 両者共に乱雑な縄で拘束され、顔を埋めていた。

「はっ、その声はラウリィ様」
「ラウリィ様、ご無事でしたか!」

 ミレイユと呼ばれたメイド服の女性とスフロと呼ばれた礼装の男性。
 二人は顔を挙げると、ラウリィと呼ぶ少女の顔を見て、心底嬉しく思った。
 
「すみません、私だけ逃げてしまって」

 ラウリィは頭を下げて謝る。
 自分一人だけが逃げてしまったことを後悔しているのだ。
 しかしミレイユとスフロは首を横に振る。
 決して咎めていない証拠で、無事なラウリィの姿を見られただけで安心だ。

「でも本当に生きていてくれてよかった。私、二人が死んじゃったと思って……」
「安心してくださいラウリィ様。俺達は無事……うっ」
「そうです、ラウリィ様。私達は縛られてはいますがすぐに、くっ」

 ミレイユとスフロは互いにラウリィを安心させようとした。
 しかしスフロは脚を睨んで苦悶の表情を浮かべ、ミレイユは腕が垂れ下がっていた。

「ミレイユ、スフロさん!?」
「触らない方がいい。多分、脚の腱を切られてる。それなら肩を外されてる。無闇に触ると痛むだけだよ」

 そこにやって来た俺は、少女に声を掛けた。
 話しを遠目から聞いていた辺り、少女の名前はラウリィと言うらしい。

「ヒジリさん」

 ラウリィも俺に気が付いたようで安堵した表情を浮かべる。
 今にも泣き返してしまいそうで、目元が潤んでしまっていた。

「ラウリィ様!?」
「彼は何者ですか!?」

 ミレイユとスフロは強い警戒心を露わにしていた。
 そんなのは当たり前だ。二人にとって、ラウリィはとても大事な人らしい。

「安心してください、ミレイユ、スフロさん。彼は私の味方です。追って来ていた盗賊達をあの通り倒してしまい、私をここまで連れて来てくれたんですよ」
「そ、そうでしたか。しかし……」
「そのようには見えませんがね」

 ラウリィはひたすら俺のことを幇助してくれた。
 しかしミレイユとスフロは警戒心を解いてくれない。
 それもそのはず、こんな少年が自分達を痛め付けた盗賊達を倒したとは到底思えないのだ。

「参ったな。信じて貰えないよね」
「で、ですね」
「ラウリィがそれを言ったらダメだって。はぁー、恐れていたことが」
「す、すみません。後で改めて説明しますから」

 俺は溜息を小さく吐く。
 聞こえてしまったのか、ラウリィは申し訳ない顔をする。
 けれどそんなのは如何だっていい。
 俺はラウリィに呟いていた。

「よかったね。家族が無事で」
「はい! ありがとうございました、ヒジリさん!」
「俺はなにもしてないんだけどね」

 俺は締めに入ろうとしていた。
 ラウリィも便乗して乗り掛かる。
 家族が無事なこと。痛みは伴うが生きていること。それが何よりもの救いであり、俺はホッとしていた。
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