かつて《剣聖》と呼ばれた社畜、異世界で付与魔法を手に再び《剣聖》へと至る。

水定ユウ

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7話 暗遁の魔法も敵ではない

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 ボス格の盗賊はニヤリと笑みを浮かべている。
 あまりにも気色悪い。明らかに何か策がある顔だ。

 俺はその姿を凝視すると、ボス格に盗賊は魔法を使う。
 指で印を組むと、まるで忍者のような構えを取った。

「【家系魔法:暗遁】」

 ボス格の盗賊は魔法を唱えると、俺の前から姿を消した。
 真っ暗闇が包み込み、俺は挙動不審な態度を取り、周囲を見回す。

「何処だ!? 何処に行って……」
「ここだ。ガキ」

 ボス格の盗賊の声が耳元で聞こえた。
 俺は怖くなって剣を振りかざすのを止めると、瞬時に後ろに飛ぶ。
 距離を取っていざという時に備えると、空気を切り裂く音と感触がした。

「チッ! 勘の鋭いガキだな」
「あ、危なかった……なるほど。視力を奪う魔法ってことか」

 俺はボス格の盗賊が使った魔法が分かった。
 “あんとん”と唱えていたので予想はしていたが、やはり暗闇を操る忍術のような魔法なのだ。
 もちろん俺には回避する術は無かったし、回避できるようなものでもなかった。
 魔法を掛けられてしまい、視力を奪われた状態で戦う羽目になる。

「はっ! だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫じゃないよ。でも大丈夫にするしかない」

 俺は少女の不安そうな声に掻き鳴らされ、冷静を装うことにした。
 しかしボス格の盗賊はそんな俺の態度が気に食わないらしい。
 「チッ」と舌を鳴らし、ギュルンとナイフを回転させる音が耳障りに鳴った。

「ガキ共が舐めてんじゃねぇぞ。こいつを殺した後は、次はお前だ。腕と脚をバラしても買ってくれる変態貴族はいるからな。存分に可愛がって貰えよ」
「……それでもいいです!」
「はい?」

 ボス格の盗賊が俺を罵倒し、少女のことを揶揄っていた。
 無言でウザったらしく聞き流していると、少女はまさかの一言を放つ。
 俺は強烈なパンチを喰らってしまい声を上げると、少女は俺のことを気遣ってくれていた。

「私のことは好きにしてくださっても構いません。ですがその人は助けてください。お願いします!」

 少女は自分の実を犠牲にする選択を取った。
 俺はポカンとしていると、ボス格の盗賊はそんな条件を受ける気はない。
 ケタケタ笑い声だけは頭の中に響いて来ると、ボス格の盗賊はナイフを俺の頭上に掲げた。

「悪いな、このガキは殺す。そしてお前はバラす。それが俺が決めたことだ。文句は言わせない。どのみちお前達に明日は無いからな」
「そ、そんな……」

 ボス格の盗賊は非情だった。
 もちろん想定はしていたが、少女が泣き崩れるのが頭の中にイメージできた。
 既に意識が遠のいている。少女の戦意を喪失させ、愉悦混じりなボス格の盗賊を俺は頭の中で絵に浮かべる。
 
「カッコ付けんなよ」
「はぁん?」

 俺は如何しても許せなくなってしまった。
 無駄な正義感が溢れて来ると、ボス格の盗賊を挑発する。
 口をひん曲げ生意気な態度を見せる俺を軽蔑すると、掲げていたナイフを振り下ろした。

「黙ってろ。ガキが」
「貴方がな。悪いけど、俺は負けないから」

 俺はナイフが振り下ろされる直前、体を前方方向に倒した。
 するとナイフの軌道が変わり、俺の方が若干早く動ける。

 タイム差を利用した渾身の一撃。
 体が小さい子供の分、剣のリーチを活かしてボス格の盗賊の懐に飛び込む。
 突き出した実剣が容赦なくボス格の盗賊を痛めつけるため、脇腹を掠めると、赤い鮮血で服を汚して垂れ流された。

「痛たぁ! この糞ガキが!」

 ボス格の盗賊もただでは倒れてくれない。
 痛みを受けながらも、奥歯を噛み砕き、全力で足搔いてみせる。
 振り下ろし途中のナイフを、力任せに下ろし切り、俺のことを捉えようとした。

「死ね、ガキがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……あん?」
「残念。それは俺の服だ」

 俺は来ていたジャケットを咄嗟に脱いでいた。
 真っ白なシャツ姿で飛び掛かると、ナイフはジャケットだけを突き刺して、俺の姿を捉えることができない。
 呆れてしまったようで、俺との距離感を忘れてしまった。
 無防備に動けなくなっている体を捧げると、俺は飛び込むように攻撃を続けた。
 実剣が残忍にも盗賊の男性を襲うイメージを叩き込ませ、現実的な死を悟らせる。

「こんなガキに、この俺が……がぁっ!?」
「殺さないよ。だから眠っておいて」

 俺はボス格の盗賊の腹部に飛び膝蹴りを喰らわした。
 丁度鳩尾の所に入ってしまったらしく、悶絶した表情を浮かべ、口から泡を吐く。
 体をくの字に折り曲げて倒れ込むと、そのままうつ伏せになって動かなくなった。
 如何やら気絶したらしく、俺は殺伐とした空気から解放される。

「ふぅ。とりあえず終わったか」
「は、はい?」
「一応終わったよ。盗賊の追ってはもういない。これで君の追ってはいなくなったわけだ」

 俺は実剣を肩に掛けると、少女のことを見下ろした。
 ぺたんとした格好で座り込むと、少女は放心している。
 何が起きたのか、起こったのか、瞬く間に過ぎてしまった出来事に理解が追い付かないらしい。

「あれ、もしかして俺、怖がられてる? どうしよう。こんな予定じゃなかったんだけどな」

 この状況。傍から見れば完全に俺がヤバい奴になってしまう。
 ReaRisingリアライジング Magicマジックでも見慣れた光景に俺は胸がキュッと締まる。
 ここまでで約三分の激闘。予定よりはオーバーしてしまったが、制したのはもちろん俺だった。
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