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5話 少女に助けを求められた?
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気が付くと、俺は仰向けのまま押し倒されていた。
ずっしりとした決して軽くはない重みで体が圧迫される。
けれど顔だけは何故か柔らかいマシュマロのような膨らみに押し潰されていて、決して悪い気分じゃなかった。
「とりあえず、退けてくれるかな?」
「はっ!? す、すみません。わ、私、突然」
俺は自分にぶつかって来た白尽くめの人物にお願いした。
声からして女性、その中でも少女だろう。
俺は何となく想像すると、顔が赤くなって火照ってしまった。
あまりにもベタなラッキーパンチに心躍らされると、クールに振舞うキャラ設定が、一気に崩壊する音がした。
「おっとっと……俺はそんな性格じゃないだろ。浮かれるなよ」
俺は自分自身を取り持つと、ようやく解放された。
代わりに俺のことを申し訳なさそうな顔をして見下ろす少女の顔がある。
とっても可愛らしい。日本人離れした雰囲気に圧倒されると、俺も体を起こした。
「よいっしょっと」
「あの、怪我はされていませんか?」
「怪我無いよ。それより、大丈夫? 急いでいるみたいだったけど?」
俺にぶつかって来た少女は優しかった。
自分がぶつかったせいで押し倒してしまったと心から反省している。
けれど俺自身、何一つ怪我はしていない。近くに転がっていた実剣を手にすると、傍まで引き寄せた。
それから少女に急いでいた理由を訊ねる。
見た所急いでいるだけではなく、焦っているようで、肩で呼吸をする上に、顔色も青ざめているのだ。
更に肌が露出している部分には切り傷もある。森を抜けて来た際に怪我したもののようで、そのことにさえ気が付いていない。
如何やら訳有りのようで、下手に関わらないのが吉だった。
「もし街に行きたいんだったら、この道を真っ直ぐ行って、太い道を進めばいいよ。村だったら、この先に男爵家の領地があるから、細い道を進めば……」
「あの、助けてください! 実は私、追われているんです」
「……追われてる? なんで、なにか悪いことは……してないと思うけど。もしかして盗賊的な奴?」
「わ、分かりません。で、ですが追われているんです。あの、こんなことを初対面の方に言うのは心底不躾がましいとは思いますが、どうか、私と私の家族を助けてはいただけませんか!?」
俺は少女に懇願されてしまった。
しかも少女は切羽詰まった表情で、おまけに嘘は一つも付いていない様子だ。
こんな経験滅多にすることは無い。けれど俺は困ってしまう。
正直、助けてはあげたい。それが本心だ。
けれど俺にも立場的なものはあるし、下手なことをすれば少女だけではなく、周りにも被害が出るかもしれない。
おまけに久々の対人戦になる。
今の俺で勝てるか如何か、それすら分からない。
実剣を強く握り締めると、俺の中で迷いが生まれてしまった。
「お願いします。お願いします。後で必ずお礼は致します。どうか、どうか、私の家族を助けてください!」
少女は何度も俺に頭を下げた。
見上げているからか、少女の苦し気な泣き顔が浮かび上がる。
その顔を見て、俺は心底自分が嫌になった。
ここは異世界だ。例えゲームの中の一つの世界だとしても、俺に居る社畜人生まっしぐらな世界とは違うのだ。
「この世界でくらい、良い顔はしておきたいな」
薄情者になりそうな自分が居た。
IT会社で社畜として連日働き、帰れば残業兼広告塔としての毎日。
思い返すだけでも無理がある生活に、脳の半分が溶けかかっていた気がする。
そこから解放された今、俺は自分のやりたいように生きるとめき、家族と離れたことを思いだす。
「この世界の家族には迷惑が掛からない。何故なら俺は一人ぼっちだから……分かった」
俺は覚悟を決めた。しょうもない覚悟だった。
スッと勢いを付けて立ち上がると、少女の肩を掴んだ。
「えっ?」
「泣かなくても大丈夫……かは分からないけど、俺でよければ力にはなるよ。多分」
「本当……ですか? 見ず知らずの、私なんかを」
「うん。だって君も見ず知らずの俺を頼ってくれたんでしょ? 泣き顔を浮かべてまで懇願して、お礼まで用意する太っ腹なこともするんだ。流石に無視はできないよ」
俺は崩れかけのクールキャラを利己的なイメージで塗り替える。
一応体を整えると、袖口で少女の涙を拭き取った。
「ほら、泣かないでも大丈夫にするから」
「あ、ありがとう、ございます……こんな私を助けていただいて……で、でも!」
「でももなにもないよ。もう決めた事なんだ。それで、君を追って来たのは……あいつら?」
俺は少女の背後に聳え立つ森。その暗がりの中で人の気配を感じ取る。
あまりにもピリピリとした殺気だ。
転生特典のスキルなんて無くても分かるくらいで、数は五つ程ある。
「キャッ!?」
「大丈夫。五人くらいなら今の俺でも造作も無いよ」
俺は少女を背後に隠した。
とりあえず頭の中のイメージはこうだ。
〔少女を狙う盗賊を倒せ〕と緊急クエストが表示され、実剣をクルリと振り回した。
ずっしりとした決して軽くはない重みで体が圧迫される。
けれど顔だけは何故か柔らかいマシュマロのような膨らみに押し潰されていて、決して悪い気分じゃなかった。
「とりあえず、退けてくれるかな?」
「はっ!? す、すみません。わ、私、突然」
俺は自分にぶつかって来た白尽くめの人物にお願いした。
声からして女性、その中でも少女だろう。
俺は何となく想像すると、顔が赤くなって火照ってしまった。
あまりにもベタなラッキーパンチに心躍らされると、クールに振舞うキャラ設定が、一気に崩壊する音がした。
「おっとっと……俺はそんな性格じゃないだろ。浮かれるなよ」
俺は自分自身を取り持つと、ようやく解放された。
代わりに俺のことを申し訳なさそうな顔をして見下ろす少女の顔がある。
とっても可愛らしい。日本人離れした雰囲気に圧倒されると、俺も体を起こした。
「よいっしょっと」
「あの、怪我はされていませんか?」
「怪我無いよ。それより、大丈夫? 急いでいるみたいだったけど?」
俺にぶつかって来た少女は優しかった。
自分がぶつかったせいで押し倒してしまったと心から反省している。
けれど俺自身、何一つ怪我はしていない。近くに転がっていた実剣を手にすると、傍まで引き寄せた。
それから少女に急いでいた理由を訊ねる。
見た所急いでいるだけではなく、焦っているようで、肩で呼吸をする上に、顔色も青ざめているのだ。
更に肌が露出している部分には切り傷もある。森を抜けて来た際に怪我したもののようで、そのことにさえ気が付いていない。
如何やら訳有りのようで、下手に関わらないのが吉だった。
「もし街に行きたいんだったら、この道を真っ直ぐ行って、太い道を進めばいいよ。村だったら、この先に男爵家の領地があるから、細い道を進めば……」
「あの、助けてください! 実は私、追われているんです」
「……追われてる? なんで、なにか悪いことは……してないと思うけど。もしかして盗賊的な奴?」
「わ、分かりません。で、ですが追われているんです。あの、こんなことを初対面の方に言うのは心底不躾がましいとは思いますが、どうか、私と私の家族を助けてはいただけませんか!?」
俺は少女に懇願されてしまった。
しかも少女は切羽詰まった表情で、おまけに嘘は一つも付いていない様子だ。
こんな経験滅多にすることは無い。けれど俺は困ってしまう。
正直、助けてはあげたい。それが本心だ。
けれど俺にも立場的なものはあるし、下手なことをすれば少女だけではなく、周りにも被害が出るかもしれない。
おまけに久々の対人戦になる。
今の俺で勝てるか如何か、それすら分からない。
実剣を強く握り締めると、俺の中で迷いが生まれてしまった。
「お願いします。お願いします。後で必ずお礼は致します。どうか、どうか、私の家族を助けてください!」
少女は何度も俺に頭を下げた。
見上げているからか、少女の苦し気な泣き顔が浮かび上がる。
その顔を見て、俺は心底自分が嫌になった。
ここは異世界だ。例えゲームの中の一つの世界だとしても、俺に居る社畜人生まっしぐらな世界とは違うのだ。
「この世界でくらい、良い顔はしておきたいな」
薄情者になりそうな自分が居た。
IT会社で社畜として連日働き、帰れば残業兼広告塔としての毎日。
思い返すだけでも無理がある生活に、脳の半分が溶けかかっていた気がする。
そこから解放された今、俺は自分のやりたいように生きるとめき、家族と離れたことを思いだす。
「この世界の家族には迷惑が掛からない。何故なら俺は一人ぼっちだから……分かった」
俺は覚悟を決めた。しょうもない覚悟だった。
スッと勢いを付けて立ち上がると、少女の肩を掴んだ。
「えっ?」
「泣かなくても大丈夫……かは分からないけど、俺でよければ力にはなるよ。多分」
「本当……ですか? 見ず知らずの、私なんかを」
「うん。だって君も見ず知らずの俺を頼ってくれたんでしょ? 泣き顔を浮かべてまで懇願して、お礼まで用意する太っ腹なこともするんだ。流石に無視はできないよ」
俺は崩れかけのクールキャラを利己的なイメージで塗り替える。
一応体を整えると、袖口で少女の涙を拭き取った。
「ほら、泣かないでも大丈夫にするから」
「あ、ありがとう、ございます……こんな私を助けていただいて……で、でも!」
「でももなにもないよ。もう決めた事なんだ。それで、君を追って来たのは……あいつら?」
俺は少女の背後に聳え立つ森。その暗がりの中で人の気配を感じ取る。
あまりにもピリピリとした殺気だ。
転生特典のスキルなんて無くても分かるくらいで、数は五つ程ある。
「キャッ!?」
「大丈夫。五人くらいなら今の俺でも造作も無いよ」
俺は少女を背後に隠した。
とりあえず頭の中のイメージはこうだ。
〔少女を狙う盗賊を倒せ〕と緊急クエストが表示され、実剣をクルリと振り回した。
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