かつて《剣聖》と呼ばれた社畜、異世界で付与魔法を手に再び《剣聖》へと至る。

４話 ぼっちの日課

　俺には日課がある。
　それはこの異世界に来てからずっと続けていることだ。

「はぁー、せやっ！」

　俺は実剣を握り締めると、当てもなく振り続ける。
　しかしそれは見た目だけで、頭の中ではちゃんと相手をイメージしていた。

　今日イメージしている相手は、ゲームで何度も俺に挑んで来たプレイヤー、《斧砕》ブロッカスだ。
　強力な両手斧を駆使して戦うパワー型で、一振りでも浴びれば絶大な被害を被る。
　正直、避けたり的確に攻めたりのイメージトレーニングには、丁度良い相手だった。

「それっ、それっ、それじゃあ俺には敵わないぞ」

　俺は一人自分を痛め付けると、愉悦をしていた。
　とは言えMではない。
　自分がダメージを受けるイメージも付けることで、いざとなった時の対応が変わるのだ。

「そりゃあ！」

　俺は剣を突き出した。
　心臓目掛けて渾身の一撃を放つイメージ。
　これが反撃に繋がると、そこから俺の快進撃が続く。

「そりゃあ、そらあっ！　そこで、こうだ！」

　俺は一人でイメージを頼りに剣の修行を続ける。
　傍目から見ればあまりにも虚しいことは必至。
　しかしそれでも俺は人目を避けてやり続け、そのおかげか、数分間の日課で、充実感と達成感を得られた。

「ふぅ。……やっぱり虚しいな」

　だけど終わった後はあっけなかった。
　さっきまでの自分が嘘みたいに恥ずかしい。
　これをゲームの中でも続けていたと思えば、イカれた精神力を磨き続けていんだと理解する。

「って、俺はぼっちだから仕方ないか」

　俺は笑って誤魔化した。
　正直ぼっちになったのは自分のせいだと分かっている。

　もちろんこの世界には俺の家族がいる。
　しかし仮初の家族で、俺が記憶を取り戻す前は如何だったのかは薄ら覚えている程度。
　正直俺的にも充実したライフワークを行っていたのだが、残念なことに如何しても相容れないことと、家族との立場的な関係で今は離れて暮らしていた。

「まあ仕方ないんだけどさ。いいけど、俺は別に、疎遠になった訳じゃないから」

　とは言え、俺はその現実を受け入れている。
　もちろんたまには寂しい時もある。
　この世界で培った家族なのだ。大切なことに変わりはない。

「下手なことはしないようにしよう。そう、下手なことは、時が来るまで……ん？」

　ふと俺が一人黄昏ていると、何処からか違和感を覚える。
　何故だろう。いつもなら静かなはずの草原が、やけに騒ついている。

「草原の草が……いつもはこんなに揺れてないのに、なんで？」

　気が付いたのはごく単純なことだった。
　周りに生え揃っている長めの草が、ユサユサと揺れている。

　もちろん普段から風が吹いている。
　風に巻かれて揺れていると思えばそれまでなのだが、やけに激しい。
　まるで振動を感じているみたいに規則性があった。

「まさかな、フラグが立ったとか……無いな」

　俺はフラグを立てようとして自分でへし折った。
　笑って誤魔化すと、剣を鞘に納め、インベントリに仕舞おうとする。
　するとすぐ後ろから気配を感じた。
　あまりにも早いフラグ回収に俺はハッとなる。

「誰か来たなー。誰だー、ここは俺が両親から借りた領地で……うわぁ！」

　踵を返してやれやれとなりながら振り返る。
　すると俺は誰にぶつかった。
　真っ白に服を着込み、完全な白尽くめの人に押し倒されてしまい、俺は負けて仰向けのまま頭をぶつけ