かつて《剣聖》と呼ばれた社畜、異世界で付与魔法を手に再び《剣聖》へと至る。

水定ユウ

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1話 かつて《剣聖》と呼ばれた男

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「邪魔だ!」

 俺は無情にも剣を振り下ろした。
 地面に仰向けに押し倒された男性は怯えた様子で俺のことを睨む。
 死への恐怖心を代替的に受けると、涙を浮かべていた。
 しかし俺は一切容赦をせず、星の光りに照らされた眩い剣を叩き込んだ。

「あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 男性は悲鳴を上げて絶叫する。
 本当に痛みが走ったような空想間に打ちひしがれる中、全身がボロボロになっている。
 肺が裂けそうな程の大絶叫が上がると、まるで何事も無かったかのように男性はピタリと動かなくなった。如何やらHPが底を尽いたらしい。

「終わりか……ふぅ、よっしゃぁ!」

 俺は一呼吸を入れると、構えた剣を天高く突きつけた。
 それと同時にファンファーレが鳴り響くと、WINNERの文字が浮かび上がる。
 誰が如何見ても俺の勝ち。大量のコメントと顔出しの称賛が贈られた。


:凄いっすね、聖さん!
:マジかよ、本当に剣一本で倒しやがったぞ
:カッコいい!!
:上位ランカー相手に堂々の勝利とか、マジで凄すぎんだろ
:最後まで容赦なくて怖かったです
:強すぎぃ!


 大量のコメントが滝のように降って来る。
 やっぱりリアルタイムの対人戦イベントは観ている多くの人の高揚感を昂らせた。

(嬉しいけどさ、俺より喜ぶのはちょっと引くな……)

 けれど俺はキャラ的にも性格的にも喜んだのは何だがクールに気取ると、掲げていた件を鞘へと納めた。

「勝算は嬉しい。でも俺が強かった訳でも、相手が弱かった訳でもない。今回はたまたま俺に天秤が傾いただけだ」

 俺は謙虚に振舞うことにした。
 すると大量のコメントが降り注がれる。


:流石は聖!
:《剣聖》最高!
:魔法使えないイレギュラーなのに勝つの最高
:《剣聖》!
:《剣聖》!
:《剣の聖》!!


「茶化すな!」

 俺はコメント欄で異名を叫ばれて恥ずかしくなった。
 そそくさと会場を後にするよう踵を返すと、俺はコメント欄を消す。
 もう見ない。とりあえずログアウトをしよう。
 明日も早いので俺は早々に日課のように遊んでいるゲーム、ReaRisingリアライジング Magicマジックから現実世界へと帰ろうとした。

『お待ちください!』

 そこにやって来たのは見知らぬ女性。見た所、まだ十代の少女だ。
 背丈的には俺よりも少し低いくらいで、全身を白尽くめで覆っていた。
 おまけに顔はフードを被って見えず、背中にはこれ見よがしに天使の羽を生やしていた。

「誰? まさか野良挑戦者? 悪いけど俺は帰るから。じゃあね」
『ま、待ってください!』
「……もしかして俺のファン的な奴? いたんだ……てっきりノリだと思ってたのに」

 まさか出待ちを喰らうとは思ってもみなかった。
 これは流石に嬉しい。俺は心臓がバクバク音を立てるのを楽しんだ。

「でも俺、サインしないから。じゃあね」
『だから待ってください! 私はひじりさんにお願いしたいことがあるんです』
「お、お願い?」

 俺は驚いてしまった。まさかプレイヤーから依頼を受けるとは思わなかったのだ。
 正直、魔法スキルを・・・・・・持っていない・・・・・・が、プレイヤーから直接依頼を受けるなんて思わなかった。

「悪いけど、俺魔法使えないよ?」
『魔法は大丈夫です。お願いしたいのは、救って欲しい人がいるんです』
「す、救う? それってあれ? 護衛とか救出ミッションの手伝いってこと? うーん、良いけど、今日はちょっと……」
『いいんですか! では、その、不躾ではありますが、貴方の力を見込んでお願いします。私達を助けてください!』

 ここまで熱くお願いされるとは思ってもみない。
 俺はたじろいでしまったが、流石に眠気もピークに来ていた。
 そろそろログアウトして寝ないと、明日が地獄だ。
 IT会社勤務の社畜サラリーマンの俺にとって、こうしている時間はもはや貴重で、一刻も早く退散したいと願うだけ。だからだろうか、俺の意識が一瞬途絶える。

『それでは待っていますね。これ、目印です』
「目印? 剣のアクセサリーか。……あれ!? い、いない……なんで?」

 俺は剣の形をしたアクセサリーを受け取った。
 かなり質の良いもので、立体感や彫も充分。
 キラキラとした好奇心の目を浮かべていると、少女は忽然と姿を消していた。

「意味分からない。もしかして夢? ……ふはぁ、まあいっか。一度考えるのを止めよう」

 俺はゲームからログアウトした。
 一瞬意識が遠のいて行く感覚がする。
 こうして現実の世界へと引き戻されると、俺はまた鬱屈とした日々を送る羽目になるのだと思い、気持ちが滅入ってしまうのだった。
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