564 / 570
◇560 最終調整のフェーズ2
しおりを挟む
Nightはアキラと雷斬から視線を外す。
別の部屋に行き、窓から外を眺めた。
外に居たのはフェルノとベル。
何やら的を置いていて、勝負をしようとしていた。
「なんだ、アイツら」
Nightは神妙な顔になってしまう。
それもその筈、あまりにも付き合いの無い二人だ。
一体どんな形で勝負するのか?
Nightはフェルノの活躍が気になりつつ、少し覗いてみた。
「それじゃあ、ベル。やってみよっか!」
「本当にやるの、フェルノ?」
「もっちろん。ベルとの勝負、楽しみだなー」
フェルノは今までベルと戦ったことが無かった。
否、PvPをしたくてしたくてたまらなかった。
にもかかわらず、フェルノはPvPの経験が乏しい。
「PvPって言っても、ゲームみたいなものよ?」
「ゲームでもいいよー。それで、ルールは?」
「……本当にやるのね」
ベルは溜息を付いてしまいそうだ。
けれどフェルノの熱量に押され、ここは折れることにする。
額に手を置くと、フェルノは拳をかち合わせ、ベルもニヤリと笑った。
「それじゃあやるわよ。ルールはシンプル、目の前にある的全てに、いち早く当てた方の勝ち」
「簡単だねー」
「甘いわよ、フェルノ。このルールが、どれだけ貴女に不利か、分かってる?」
「不利って?」
フェルノは自分が不利に立たされていることを解っていない。
ベルはそんなフェルノを憐れむと、爪先で地面を蹴る。
コツンコツンと土を巻き上げる音がして下を向くフェルノは、白い線が引かれていることに気が付いた。
「なーに、この線?」
「この白癬からはみ出さずに、あの的に当てるのよ」
「えー、それ私が絶対に不利じゃんかー」
「だから不利だって言ったでしょ? どうする、辞める? それともルール変更でもする? 私は全然良いわよ。ハンデとして、弓を重くするから」
ベルは装備している弓に重りを付けた。
しかも均等を保てないように、片方に重りを寄せる。
すると持っているだけで腕に負荷がかかり、真っ直ぐ保つことさえできなくなる。
「ちょっと重いわね」
「えー、そんなにハンデ付けちゃって大丈夫―?」
「大丈夫なのはフェルノの方よ。どうするの?」
ベルは煽られたので、フェルノに反撃する。
鋭い目つきで睨みを利かせると、フェルノは全身を燃やした。
突然【吸炎竜化】を発動させると、燃え滾る感情に震え上がる。
「全然大丈夫―……じゃないけど、楽しそうじゃない?」
「楽しい、ね。まあいいわ、それじゃあやるわよ」
「カウントは三からねー」
「はいはい。それじゃあやるわよ」
フェルノとベルは互いに構えを取った。
フェルノの手には何も無い。ベルには弓と矢がある。
圧倒的にベルが有利……とまでは行かない中、口頭でカウントを取った。
「「三、二、一……ゴー!」ゴー?」
カウントが終わり、先に動いたのはフェルノだった。
落ちていた小石を拾い上げると、豪速球で投げ付ける。
的に向かって飛んで行くと、木の的を捉えて破壊した。
「嘘でしょ!?」
「ふふん、ほらほら次―」
「させる訳ないでしょ。的を壊すなんて……」
ベルはボヤいてしまうが、素早く弦を離した。
フェルノの方が早く動いていて、このままでは間に合わない。
そう思ったのは素人だ。ベルの射た矢はなによりも鋭く、速く、強かった。
パーン!
的は粉々に壊れてしまった。
木屑が吹き飛び、バラバラに地面に散ってしまう。
「ふぇー、やるね、ベル」
「当然よ。それより、よそ見している暇ないわよ」
「分かってるってー」
残りの的は後一つ。
本来な勝負を忘れ、お互い死力を尽くす。
フェルノは落ちていた、より軽く、より鋭い石に、魂を込めた。
熱血投法で放り投げると、真っすぐ矢のように飛んで行く。
一方でベルも弦を引き絞ると、狙いを定めた。
ハンデはあるものの、それをものともしない絶妙な角度、正確無比な技術で、矢を射る。
バシュン! パコーン!
二人の石と矢は、同時に的に当たった。
いくら目が良くても、どちらが先に壊したのか、全く分からない。
粉々に砕け散ってしまうと、石と矢が力尽きて地面に落ち、的も再利用不可能になってしまった。
「どっちが勝った?」
「私が知りたいわ。でも、絶対私の方が速かった。音が先だったもの」
「えー、私だって。私の方が先に掠めたよー」
「いいえ、私よ」
「私だってー」
フェルノとベルは口論になってしまった。
互いに勝負には絶対の自信があるようで、譲る気が一切無い。
たかが練習。されど練習。お互いにいがみ合うも、実力の高さを尊重し合った。
「なにやってるんだか、分からないな」
唯一傍観者として見守っていたNightは呆れてしまう。
カーテンを閉じ、リビングに戻ると、文庫本を取り出す。
今の勝負の結末。Nightの目では当然追えていない。けれど微かに聞こえた音によると、やはり……
「いや、忘れよう」
野暮な話になってしまうので、Nightは管がることを辞めた。
フェルノとベルの戦いは、二人で答えを出せばいい。
いくら考えても出ない答えを思うなんて、無駄でしかないのだが、それだけ拮抗しているのが、良いことだと分かっていた。
別の部屋に行き、窓から外を眺めた。
外に居たのはフェルノとベル。
何やら的を置いていて、勝負をしようとしていた。
「なんだ、アイツら」
Nightは神妙な顔になってしまう。
それもその筈、あまりにも付き合いの無い二人だ。
一体どんな形で勝負するのか?
Nightはフェルノの活躍が気になりつつ、少し覗いてみた。
「それじゃあ、ベル。やってみよっか!」
「本当にやるの、フェルノ?」
「もっちろん。ベルとの勝負、楽しみだなー」
フェルノは今までベルと戦ったことが無かった。
否、PvPをしたくてしたくてたまらなかった。
にもかかわらず、フェルノはPvPの経験が乏しい。
「PvPって言っても、ゲームみたいなものよ?」
「ゲームでもいいよー。それで、ルールは?」
「……本当にやるのね」
ベルは溜息を付いてしまいそうだ。
けれどフェルノの熱量に押され、ここは折れることにする。
額に手を置くと、フェルノは拳をかち合わせ、ベルもニヤリと笑った。
「それじゃあやるわよ。ルールはシンプル、目の前にある的全てに、いち早く当てた方の勝ち」
「簡単だねー」
「甘いわよ、フェルノ。このルールが、どれだけ貴女に不利か、分かってる?」
「不利って?」
フェルノは自分が不利に立たされていることを解っていない。
ベルはそんなフェルノを憐れむと、爪先で地面を蹴る。
コツンコツンと土を巻き上げる音がして下を向くフェルノは、白い線が引かれていることに気が付いた。
「なーに、この線?」
「この白癬からはみ出さずに、あの的に当てるのよ」
「えー、それ私が絶対に不利じゃんかー」
「だから不利だって言ったでしょ? どうする、辞める? それともルール変更でもする? 私は全然良いわよ。ハンデとして、弓を重くするから」
ベルは装備している弓に重りを付けた。
しかも均等を保てないように、片方に重りを寄せる。
すると持っているだけで腕に負荷がかかり、真っ直ぐ保つことさえできなくなる。
「ちょっと重いわね」
「えー、そんなにハンデ付けちゃって大丈夫―?」
「大丈夫なのはフェルノの方よ。どうするの?」
ベルは煽られたので、フェルノに反撃する。
鋭い目つきで睨みを利かせると、フェルノは全身を燃やした。
突然【吸炎竜化】を発動させると、燃え滾る感情に震え上がる。
「全然大丈夫―……じゃないけど、楽しそうじゃない?」
「楽しい、ね。まあいいわ、それじゃあやるわよ」
「カウントは三からねー」
「はいはい。それじゃあやるわよ」
フェルノとベルは互いに構えを取った。
フェルノの手には何も無い。ベルには弓と矢がある。
圧倒的にベルが有利……とまでは行かない中、口頭でカウントを取った。
「「三、二、一……ゴー!」ゴー?」
カウントが終わり、先に動いたのはフェルノだった。
落ちていた小石を拾い上げると、豪速球で投げ付ける。
的に向かって飛んで行くと、木の的を捉えて破壊した。
「嘘でしょ!?」
「ふふん、ほらほら次―」
「させる訳ないでしょ。的を壊すなんて……」
ベルはボヤいてしまうが、素早く弦を離した。
フェルノの方が早く動いていて、このままでは間に合わない。
そう思ったのは素人だ。ベルの射た矢はなによりも鋭く、速く、強かった。
パーン!
的は粉々に壊れてしまった。
木屑が吹き飛び、バラバラに地面に散ってしまう。
「ふぇー、やるね、ベル」
「当然よ。それより、よそ見している暇ないわよ」
「分かってるってー」
残りの的は後一つ。
本来な勝負を忘れ、お互い死力を尽くす。
フェルノは落ちていた、より軽く、より鋭い石に、魂を込めた。
熱血投法で放り投げると、真っすぐ矢のように飛んで行く。
一方でベルも弦を引き絞ると、狙いを定めた。
ハンデはあるものの、それをものともしない絶妙な角度、正確無比な技術で、矢を射る。
バシュン! パコーン!
二人の石と矢は、同時に的に当たった。
いくら目が良くても、どちらが先に壊したのか、全く分からない。
粉々に砕け散ってしまうと、石と矢が力尽きて地面に落ち、的も再利用不可能になってしまった。
「どっちが勝った?」
「私が知りたいわ。でも、絶対私の方が速かった。音が先だったもの」
「えー、私だって。私の方が先に掠めたよー」
「いいえ、私よ」
「私だってー」
フェルノとベルは口論になってしまった。
互いに勝負には絶対の自信があるようで、譲る気が一切無い。
たかが練習。されど練習。お互いにいがみ合うも、実力の高さを尊重し合った。
「なにやってるんだか、分からないな」
唯一傍観者として見守っていたNightは呆れてしまう。
カーテンを閉じ、リビングに戻ると、文庫本を取り出す。
今の勝負の結末。Nightの目では当然追えていない。けれど微かに聞こえた音によると、やはり……
「いや、忘れよう」
野暮な話になってしまうので、Nightは管がることを辞めた。
フェルノとベルの戦いは、二人で答えを出せばいい。
いくら考えても出ない答えを思うなんて、無駄でしかないのだが、それだけ拮抗しているのが、良いことだと分かっていた。
0
お気に入りに追加
221
あなたにおすすめの小説
VRゲームでも身体は動かしたくない。
姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。
古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。
身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。
しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。
当作品は小説家になろう様で連載しております。
章が完結次第、一日一話投稿致します。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO
無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。
名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。
小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。
特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。
姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。
ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。
スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。
そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる