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◇559 最終調整のフェーズ1

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 ギルドホームのある島。
 アキラたちは各々ができることをしていた。

[それじゃあ頼んだぞ]
[ええ、手はず通りに]
[できる限りのことはしてみるわね]
[すまないな]

 Nightはメッセージでやり取りをしていた。
 相手はもちろん、Deep Skyと妖帖の雅。
 代表に当たる、ソウラとクロユリと連携を取りながら、手はずを進めていた。

「さてと、とりあえず作戦の概要は伝えたが……」

 Nightは窓の傍まで寄った。
 すると、窓の外ではアキラたちが最終調整に入っている。
 簡単なPvPで体を慣らす姿が映った。

「雷斬、行くよ!」
「はい、アキラさん」

 アキラと雷斬が珍しくPvPをしていた。
 お互い、あまり戦いが好きではない。
 だからこそ、このマッチアップは珍しかった。

「【キメラハント】:【月跳】」

 いきなり仕掛けたのはアキラだった。
 しかも、普段とは定石がまた違う。
 いつものテンプレであれば、【甲蟲】と【灰爪】を混ぜるのだが、いきなり頭上を取ると、落下の勢いを使って攻撃を仕掛ける。

「アキラさん、真下ががら空きですよ。三日月!」

 雷斬も読み切っていたらしい。
 真下に素早く入り込むと、体勢を素早く変化。
 鞘に納めていた刀を一切り引き抜くと、まるで三日月のような剣の軌道が浮かんだ。

 キリリリリリリリリリリリリリリリリリリィ!

 甲高い鈍い音が響いた。
 アキラの兎で武装した脚と、雷斬の剣がぶつかり合う。
 互いに火花を散らすも、ここは冷静に互いに距離を取った。

「凄いね、雷斬」
「アキラさんも、見事ですね」

 お互いに褒め合い高め合うと、続けざまに攻撃に走る。
 テンプレに添った【甲蟲】+【灰爪】の流れで、雷斬に詰め寄る。
 もちろん、雷斬もただではやられない。
 無駄に剣で空間を切り付けると、たくさんの刃を残す。

「雷斬、なにしてるのか分からないけど、私は止まらないよ!」
「いえ、止まっていただきます、アキラさん」
「えっ? うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 体当たりで突っ込んだアキラは、全身が斬り刻まれてしまった。
 服が破け、HPが少しずつ減って行く。
 突き刺すような痛みが肌を貫き、涙を浮かべてしまった。

「な、なにが起きてるの?」
「これが私の固有スキル:【陣刃】です」
「な、なにそれ? 聞いてないよ」
「今まで黙っていましたので。ですが、これで通用すると分かりましたね。それではアキラさん、終わらせましょうか?」

 雷斬は全身に青白い光を纏った。
 【雷鳴】を呼び寄せ、一瞬にして目の前から消える。

「み、見えない」

 雷の速度で移動されてしまい、完全に目の前から見えなくなる。
 途中、電気の走る跡だけが浮かんでいる。
 それでも一瞬の内でしかなく、アキラでも追いきれない。

「終わりです」
「声を出すのを待ってたよ」
「えっ? くっ、ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 アキラは雷斬に狙われていた。
 首を狙って切り込まれる刀身。
 それが煌めいたのを見計らうと、アキラは拳を突き出した。

 アキラの拳は雷斬の腹にクリンヒットした。
 鳩尾部分に入り込むと、嗚咽を漏らして崩れる。
 口から透明な吐瀉物を吐き出すと、膝を付いてしまう。

「大丈夫、雷斬?」
「はい、問題ありませんよ。それにしてもアキラさん、今の動きは?」
「えへへ、ちょっと試してみたくて」

 アキラの拳は、雷斬でさえ意外だった。
 綺麗にカウンターを当てるなんて真似、今までほとんど無かった。
 空間とスキルを使った動きに、意表を突く技まで加わり、もはやアキラは本当に合成獣キメラになっていた。

「雷斬も凄いよ。前より速くなってる」
「システム的にはこれ以上の速度を可能にするのは難しいみたいですが、そこはコツと言うのでしょうか? 種族スキルの成長性の低さを、技術で補ってみました」
「それができるのも雷斬だからだね」

 雷斬もかなり異常なことをしていた。
 種族スキルの限界値を無理やり引き出すのだ。
 そんな真似ができるのも、雷斬の強みだろう。

「そうだ、雷斬。力比べでもしてみる?」
「構いませんよ」

 アキラは珍しい誘いをした。
 戦ってボルテージが上がっているせいだろうか?
 雷斬も意外には思いつつ、アキラの誘いを受けると、お互いに距離を取り合い、得意なスキルで迎え撃つ。

「【キメラハント】:【月跳】+【甲蟲】!」
「【雷鳴】、お願いします。陽廻!」

 アキラと雷斬は互いにぶつかり合う。
 衝撃は凄まじく、火花を散らし合っている。
 けれど分散することの無いエネルギーは、二人の周りに留まると、爆発して吹き飛んだ。

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」

 アキラと雷斬は吹き飛んだ。
 互いに受け身を取り合って地面に転がると、痙攣しつつもゆっくり起き上がる。
 全身が痺れて痛い。
 唇が震える中、アキラは呟く。

「これは止めておいた方がいいね」
「そうですね」

 アキラと雷斬は試してみて分かった。
 PvPでやるにしてもあまりにも危険だ。
 首を縦に振り、目を合わせ合うと、二人は決めた。

「いや、PvPの方が活き活きしているな、アイツら」

 そんな二人のやり取りを窓越しにNightは見ていた。
 結論、アキラも雷斬も強い。以前に比べ。少なくとも機能よりも成長している。
 モンスター相手よりもプレイヤーとの戦闘向きな二人を前に、Nightは頼りになった。
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