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◇548 乱戦を切り抜けよう大作戦2

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 大広間の中は小麦粉が蔓延していた。
 真っ白に染まり、敵味方の姿さえ、よく見えない。
 そのせいもあり、動きがかなり制限されてしまったからか、戦う音が聞こえない。

「クソッ、敵なのか味方なのか、分からん!」
「お前は敵か、味方か、どっちだ!?」
「ああ、ゲホッゲホッ、これ吸って大丈夫なのかよ?」
「ああー、うぜぇ! うぜぇうぜぇうぜぇよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 大広間の中で乱戦を繰り広げていたプレイヤーたちは、完全に混乱していた。
 もはや誰を信じればいいのか分からない。
 近くに居るのが、敵なのかそれとも味方なのか?
 疑心暗鬼してしまうと、絶好の奇襲タイミングだった。

「全員、動けるか?」
「行けるけど、この状態じゃ、なにも見えないよね?」
「そうだよー。飛び込んでも巻き込まれるだけでしょ?」

 大広間の中は、小麦粉で一杯だ。
 この状況で飛び込んだとしても、巻き込まれてやられるだけ。
 アキラたちの非難の目があるが、Nightは考えていた。

「安心しろ、これを使う」

 そう言うと、インベントリの中からアイテムを取り出す。
 それはNightが依然作ったものだ。
 アキラたちも何度もお世話になっている。

「「ガスマスク!?」」
「そう言うことですか。ガスマスクを使うことで、視界を確保すると言うことですね」
「そう言うことだ。しかも前回よりも強化している」

 “強化”という単語を聞いて、アキラたちは目を見開く。
 それぞれの手にガスマスクが手渡されると、確かに変わっている。
 特にガラスの部分に加工が施されていた。

「より鮮明に見えるように、ガラス部分を強化した。更に粉塵耐性も上がっているはずだ」
「流石はNight。そんなことできたんだ!」
「当り前だ。拡張性を持たせない訳が無いだろ」

 褒めたのに怒られてしまった。
 アキラはやるせない気持ちになってしまう。
 表情に暗がりを落とさないようにすると、Nightも「悪かったと」謝る。
それから気を取り直し、ようやく全員でガスマスクを被った。少し苦しいが、前回よりは改善されていて、アキラたちには問題無かった。

「よし、行くぞ」

 アキラたちはNightの号令を合図に、大広間に飛び込む。
 真っ白な小麦粉が蔓延していて、視界は最悪。
 にもかかわらず、ガスマスクを付けていると、小麦粉のせいで視界最悪の中でも、ある程度見通すことができた。

「うわぁ、な、なんだ!?」
「横切ったぞ。誰だ、お前は敵か味方か!?」

 プレイヤー達は絶叫した。
 アキラたちが横切ると、敵なのか味方なのか分からないので、無暗に攻撃できない。
 そのせいか、声を上げることしかできず、その声のせいで、他のプレイヤーたちにも伝染した。

「お、おい、今のは誰の声だ!?」
「横切ったのか、クソッ、前が見えねぇ」
「誰よ、驚かさないでよ。キャッ!」
「もういい加減にしてくれよ。こんなんじゃ埒が明かなぇ!」

 プレイヤーたちは煙玉もあり、アキラたちの奇襲もあり、その場でジッとするしかない。
 おまけに小麦粉を吸い込んだせいで、咳き込んでしまう。
 動きが悪くなり、集中力も削がれていた。

「凄い、みんな動けてない」
「当然。視界が封じられた上で、まともに動ける奴なんて、そういない筈だ」

 Nightは当たり前の返しをした。
 突然視界を奪われた挙句、謎の白い粉を吸い込んでしまう。
 そんなことになれば、誰しもパニックになるのが当たり前だった。

「このまま奥の扉に走れ」

 Nightの小声が飛んだ。
 アキラたちは耳を澄まして聞き分けると、扉に向かって全力で走る。
 敵味方が入り乱れる中、アキラたちは奥の扉に辿り着く。

「凄い、大きな扉だね」
「むしろ、壁と一体化しているように見えますが……どのようにして開けるのでしょうか?」

 目の前は壁だった。一応扉の役割を果たしているようで、地図によると、奥に空間がある。
 とは言え、入り口のようなものは何処にも無い。
 むしろ、ドアノブのようなものさえなく、完全に壁となっていた。

「クソッ。ダイナマイトを作るHPは残ってないぞ」
「そんなの作っちゃうの!?」
「作る訳が無いだろ。こんな所で作れば、粉塵爆発に巻き込まれて、イベントはそこで終了だ」
「「「爆発……」」」

 Nightは過激な言葉を使った。
 確かに爆発に巻き込まれたら、ここまでやって来たことが、全て水の泡になる。
 とは言え、壁をこじ開ける方法なんてない。
 ここは物理的に開けるしかなかった。

「少々しゃくだが、雷斬、こじ開けられるか?」

 Nightは雷斬に頼んだ。
 すると雷斬は刀を手に取ると、鞘から抜こうとする。
 そんな動きがアキラの目に映る中、壁の下に凹みがあった。

「承知しました。満月斬り!」
「あっ、雷斬、ちょっと待ってよ」

 アキラはすんでの所で、雷斬を止めた。
 刀を一度下ろす雷斬。
 ガスマスク越しだが、全員の視線がアキラに向けられた。

「なーに、アキラ?」
「よく考えてみてよ、Nightなら気が付いているでしょ? この先に空間があるんだったら、この壁を扉として開ける方法があるんでしょ?」
「当り前だ。とは言え、小麦粉による煙幕も、そう長くは持たないぞ。しかもこの視界の悪さだ。いくら見えているとはいえ、大掛かりなことは時間的に……そう言うことか」
「そうだよ! 別に大掛かりな仕掛けなんて無いでしょ?」

 アキラとNightは薄っすら勘付いていた。
 この奥に空間があるのなら、そこに行くために“手段”があるに決まっている。
 単純に壊すだけが方法じゃない。とすれば、もっと簡単に、スイッチのようなものが取り付けられているに違いなかった。

「何処かにスイッチがある筈だな」
「それなんだけど、多分コレだよね?」
「「「コレ?」」」

 壁の下をアキラは指差す。
 妙な二つの凹みができている。丁度指が引っ掛けられそうだ。

「まさか、そんな単純なことってあるの?」
「あるだろ。遺跡でも武家屋敷でもそうだった。思考は単純に、子供の好奇心レベルで分かるくらいにな」

 アキラは凹みに指を引っ掛けた。
 すると小さな突起物ができていて、指の腹で押し込むと、ロックが外れる。
 ガチャン! と妙な金属音が聞こえると、アキラたちの予想も、大抵の予想も、全部当たっていた。それだけ単純な仕掛けだった。
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