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◇547 乱戦を切り抜けよう大作戦1

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 奇襲は無事に成功した。けれどそれさえ意味を成さなくなっていた。
 アキラたちは厳しい状況に立たされる中、繰り広げられる乱戦を観察していた。

「ねぇ、Night。この後はどうするの?」
「少し待て、最善を考える」
「最善って、この状況に存在するのかしら?」

 ベルは余計な一言を呟いた。
 けれどそれも理解はできる。
 乱戦が繰り広げられる中、上手くアキラたちが抜き出して、活躍するなんて真似、なかなか難しい。

「提案なのですが、私たちも参戦するのはどうでしょうか?」
「あっ、それいいかもー」

 雷斬の提案にフェルノは乗る。
 戦いたくてウズウズしているのか、腕がプルプル震えていた。

「そうよね。ここまで来たら、少しでも人数増やして、最後にまとめてやっちゃった方が早いわよね」
「よーし、それじゃあ行こう行こう!」
「待て」

 フェルノは先頭に立ち、乱戦に参加しようとする。
 けれどNightはそれを許さない。
 強い言葉一つで止めると、乱戦に参加させないようにした。

「今から乱戦に参加しても意味は無い」
「はっ? 絶対意味があるでしょ。私たちが仕掛けて、一人でも多くの敵プレイヤーを倒す。そうすれば、活躍にもなるし、貢献もできる。株も上がって一石三鳥でしょ?」
「乱戦で疲れ果てた後に、コアを制圧しに行けるのか? もしも、コアの置かれた中枢部に、敵プレイヤーが詰めていたらどうする?」

 あくまでもNightは可能性の話をした。
 けれどそれはあくまでも、可能性の話でしかない。
 今はまだベルに傾いているが、Nightは更に続ける。

「それになにより、戦況をよく見てみろ」
「戦況をって、そんなの拮抗して……無い!?」

 ベルは目を見開いた。
 乱戦になっていて、一人一人の動きを良く見れていなかった。
 けれど、Nightの言う通りだ。全然拮抗していない。むしろ、味方の方が押されていた。

「どういうことでしょうか? なにか違いがあるのでしょうか?」
「そんなものは無いだろう。今回のイベント、レベルがある程度均一化されている。平均値を取っているせいか、その分質に影響が出ているんだ」

 このGAMEではレベルはそこまで関係ない。
 けれど質と言うものには少なからず影響がある。
 レベルが下がったことで、相対的に弱くなったと感じているプレイヤーも居る筈だ。

「レベルが上がることで、モチベーションを高めているプレイヤーも中にはいる」
「えっ。でも、レベルってそんなに関係……」
「無いからこそ、普段から私は口を尖らせて言っているだろ。レベルは関係無いと。その事実を知らないプレイヤーも多いという訳だ。イメージが付いたか?」

 Nightの言葉には説得力がある。
 それだけでは無いのだろが、味方プレイヤーへの見方が少し変化する。
 この状況はあまりにもよくない。むしろ最悪で、乱戦の様相からして、負け必至だった。

「ど、どうしよう、Night!?」
「落ち着け。考えはある」
「あるの、ここから入れる保険!?」
「当り前だ。それを作るのは保険って奴だからな」

 そう言うと、Nightは作業を始めた。
 HPを犠牲にし、【ライフ・オブ・メイク】を発動。
 作る予定の無い物を生み出すため、Nightの表情は悪い。

「こうなることなら、持って来ておけばよかったな」
「そうだね。Nightっていつも用意周到だもんね」
「とは言え、今回のイベントでは、持ち物にも制限が掛かるからな」

 今回のイベント、無限に回復ができないように調整されている。
 そうでもしないと、いつまでたっても決着が付かない。
 いわゆるゾンビ戦法は使えない仕様なので、持ち込める物にも限りがあった。

「とは言え、それも仕方が無いか。さてと、できたぞ」
「おお、どんなのができたのー」
「簡単なものだ。と言うより、今はコストを考えても、これが限度だ」
「どんなものでも、使えればいいわよ……って、なにコレ?」

 Nightが【ライフ・オブ・メイク】で作ったもの。
 ソレは、布を被せただけの丸い球だった。

「えっと、なに、コレ?」
「見ての通りだ」
「見ての通りって?」
「この乱戦で私たちができること。それは奇襲だ」
「「「また奇襲」」」

 Nightの口から飛び出したのは、相変わらずの“奇襲”だった。
 だけど今回は上手く嵌りそうだ。
 乱戦の中、奇襲を仕掛けて上手く嵌れば、敵を一網打尽にできる。
 そんな秘策的なアイテムがあるのなら、鬼に金棒。アキラたちは期待を寄せるが、些か不安でもあった。だって、ただの布を被せた球だから。

「本当に成功するの?」
「それは私たちの行動次第だ。行くぞ」

 そう言うと、Nightを先頭に、曲がり角の奥へと、ギリギリまで近付く。
 乱戦が続き、味方側が圧倒的に押されている。
 正直、人数差も出始めていて、このままだと制圧なんて碌にできない。

「みんな大変そうだよ。早く助けに行こううよ」
「そうだな」

 そう言うと、Nightは布を被せた球に紐を巻き付ける。
 反対側を持つと、グルグルと振り回す。
 今にもあたりそうな距離で危ないが、球をグルグル振り回すと、中から白い粉が漏れた。

「Night、なにか漏れてるよ? ってこれ……」
「そう言うことだ。それっ!」

 アキラは白い粉の粒を見た。
 この細かさ、間違いない。
 そう悟ると、Nightは球を手放して、敵味方が入り乱れる広間の中に投下し、床に落ちた瞬間、ボワッと中から白い粉が撒かれた。

「うわぁ、なんだこれ!」
「敵だ、敵が来たぞ!」
「一体なにが起きているんだ。ゲホッゲホッ」
「ううっ、目に沁みる……」


 敵味方問わず苦しみ出す。
 白い粉の正体は一体。フェルノたちの視線がNightに注がれる。

「Nightさん、これはまさか?」
「そのまさかだ」
「やっぱりですか……ですがこんなものまで作れたんですね」
「当然だ。成分を知っているからな……とは言え、あくまでも偽物だ。食べれないぞ」
「食べる?」

 Nightが作った球の中身。
 それは確かに本来食べられるもの。だけど【ライフ・オブ・メイク】では、食べ物は作れない。
 だからだろうか、フェルノは普段使わないから、ピンと来ない。

「小麦粉だよ、フェルノ」
「小麦粉?」
「そうだ。あれは煙玉。中身は小麦粉で代用だ」

 Nightが作ったのは煙玉、改め、小麦粉球。
 ボワッと撒き上がった白い煙。
 そのおけがか、部屋の中は真っ白になり、視界は完全に塞がれていた。
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