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◇545 敵の蓑を被って

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「さてと、それじゃあ残りの奴等も倒すか」

 Nightは敵プレイヤーが三人倒されると、その傍らにしゃがみ込む。
 それから何をするのか。
 Nightは手を伸ばし、着ていたコートやマントを、プレイヤーが三人消滅する前に剥ぎ取った。

「Night、なにやってるの!?」
「とりあえず二着か。仕方ない、一つは私が作るか」

 そう言うと、Nightは【ライフ・オブ・メイク】を発動した。
 一瞬にしてNightの手の中には、カーキ色をしたローブが握られている。
 一体なにをしようとしているのか。
 アキラたちは何となく想像ができてしまった。

「まさか、それを着るんじゃないわよね?」
「分かっているな」
「えっ、嘘でしょ? 冗談で言ったつもりだったんだけど」
「ベル、Nightの言うことに冗談は無いよ」

 Nightの作戦が分かってしまった。
 だからこそ、ベルは一縷の望みも懸けつつ、Nightの作戦を言い当てる。
 だがしかし、Nightの作戦はやはり予想が付いてしまった。
 アキラたちは表情をぎこちなく訝しめると、「やれやれ」と言いたそうに、背中を丸めた。

「という訳だ。アキラ、フェルノ、雷斬。三人はこれを着ろ。それからこいつも履いて行け」

 そう言うと、インベントリから厚底靴を三足分取り出す。
 手渡された羽織りものに、厚底靴で長身を高くする。
 一瞬にしてバレてしまいそうで、アキラたちは否定的だ。

「Night、流石に今回はバレるよ」
「そうだろうな」
「そうだろうなって、死にに行けって言ってるの!? 絶対に認めないわよ、そんな作戦」
「分かっている。だからこそ、ベル、私とお前で仕留めるぞ」
「はい?」

 ベルはあまりにも自殺行為な作戦に非難を浴びせた。
 しかしNightはそれさえ逆手に取る。
 初めから想定していたみたいで、ベルの耳を借りる。
 コソコソ内緒の話を展開すると、訊き終えたベルは面倒そうな顔になった。

「マジで言ってるの?」
「だとすればなんだ?」
「まぁ、上手く嵌れば勝てるかもしれないけど……よく思い付いたわね」
「こちらの方が人数不利だ。アキラたちが仕留められなければ、それも仕方ないだろ。今回のイベントは、あくまでも要塞の制圧・・・・・だからな」

 何故だろうか。どんな作戦なのか知らないアキラたちでさえ、想像できてしまう。
 それだけNightに振り回されて来たからだろうか。
 とは言え、いつにも増して危険を伴うのは確かだろう。
 全員が気を引き締めると、最善を尽くすことに専念した。



 カタン、カタン、カタン!

 アキラたちは早速行動に移った。
 何食わぬ顔で持ち場へと戻ると、プレイヤーネームを敢えて非表示にし、言葉を一切話さない。
 気配を相手身を使って隠蔽すると、敵プレイヤーの中に混じる。

「ん? おい、戻ったのか」

 すると声を掛けられてしまった。
 流石にこの距離だと判別は付かないらしい。
 できるだけ最小限の動きで合図を送ると、何も言わずに持ち場へと戻る。

「そうか。で、瓶の正体はなんだったんだ?」

 更に声を掛けられてしまった。
 どうする? 声は出せないぞ。
 しかもこのまま近付けば体格の違いを悟られるのは明白。
 アキラ達に緊張が走る中、フェルノは回収して来た空瓶を転がした。

「なんだ、これ? 空じゃないか。誰かが飲んだ後だな」

 コクリと首を縦に振る。
 声を出せば、確実に偽物であるとバレてしまう。
 けれどその態度を怪しんだのか、他の敵プレイヤーが近付く。

「おい、どうして喋らないんだ?」
「まさか喉でもやったのか? ここ埃多いからな」
「三人同時にか? ん? にしても、やけに細くて頼りないような気が……ん?」

 流石に取り囲まれると焦る。冷汗がタラリと流れた。
 しかも顔がドンドン近付いている。
 このままだと、せっかく隠した顔がバレてしまう。
 如何しよう、如何しよう、と焦りが伝染する中、パシュン! と甲高い空気を射る音がした。

「はっ、なんだ!? ……あっ」

 敵プレイヤーが顔を上げる。
 すると額に矢が突き刺さり、仰向けに倒れて絶命した。
 HPが一瞬で無くなると、他のプレイヤーは焦り出す。

「て、敵か!?」
「おいおいマジかよ。確認したんじゃないの……よ」
「おいどうした、なっ!?」

 それを皮切りに、アキラたちも暴れ出す。
 フェルノが竜化した爪で敵プレイヤーの腹部を刺す。
 雷斬も刀を抜くと、バッサリ袈裟切りで薙ぎ払う。
 その一瞬の攻防。視線を奪われた敵プレイヤー達は、スキルも武器も取る前に、致命傷を負って倒れてしまった。

「がっ、あっ、はぁ……なんなんだ、お前ら!」
「ごめんね。バレちゃったから」

 敵プレイヤーの一人が、息を切らして言葉を発する。
 アキラは申し訳なさそうに謝る。
 バレてしまった以上、こうするしかない。
 そう思うと体は正直で、集まって来ていたプレイヤー達は大半やられ、残ったのはもはや動くことも敵わない三人のプレイヤーだけだった。

「ふぅ。上手く行きましたね」
「奇跡だけどねー」
「本当はもっと早くバレると思ってたけど、これだけ近付けて良かったね」
「くっ、他のプレイヤーの服を奪うのは反則だろ!」

 確かにこのGAMEでは、服を剥ぎ取る何てことできなかった。
 けれどアップデートのおかげで、粒子化する前であれば、疑似的に剥ぎ取れるようになっている。
 この仕様を知っていたからこそ、Nightの作戦は意表をついて機能した。
 と言うより、完全に暗いから成功しただけだった。

「反則ではない。これも立派な作戦だ」
「「「Night、ベル!」」」

 そんな説明を省きつつ、Nightとベルがやって来た。
 仕事した感が出ており、実際、あの矢が狼煙になった。
 ベルは自分が射た矢を回収すると、矢筒の中に戻す。
 それと同時に「はっ」と溜息を吐くと、Nightを睨んだ。

「綱渡り過ぎるわよ」
「確かに一般的にはそうだろうな。だが、私たちならできると確信していた」
「その根拠は? ちゃんとあるのよね?」
「当り前だ。ここにいる五人は、”まともに戦ってない”んだからな」

 Nightはそれを言ったらお終いなことを言う。
 けれども否定はできない。
 アキラたちは、これまでもこれからも、ちゃんとした戦いはできていない。
 だからだろうか。こんな状況になっても、全員の息がピッタリで、その連携あってこその勝利だと言えた。ような気がした。
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