VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?

水定ユウ

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◇534 吸炎竜VS白雪兜2

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 フェルノは拳を叩き込み続けた。
 コーカサスをここで止めないとマズいからだ。
 だけどフェルノ攻撃力を以ってしても、コーカサスにダメージを与えることはできなかった。

「ううっ、全然倒せない。みんなにはあんなこと言ったけど、流石にしんどいよー」

 フェルノが珍しく泣き事を吐いた。
 ここまで数分、たった一人でコーカサスと戦っている。

 そのパンチ数は数えていないけどすさまじい。
 一秒間に三回は叩き込むレベルで、コーカサスのことを、少しは足止めしていた。

 けれど所詮は足止めレベルで、勝つことに直結していない。
 HPは全然削れず、コーカサスをおちょくるだけ。
 フェルノも意義を失いかけているが、仲間のためにもここで引く訳にはいかない。

「もっと高めるかな。【熱量吸動】!」

 フェルノは昂る気持ちをエネルギーに置き換える。
 仮想心臓の脈動が高鳴ると、ドクンドクンと脈打つ。
 フェルノの全身が真っ赤に燃える。竜とかした体が赤々となり、炎を燃やしていた。

「久々に使うなー、これ。せーのっ!」

 フェルノの拳は見えなかった。
 けれど真っ赤に燃えていて、喰らった瞬間、コーカサスの体に引火する。

 バサバサバサバサバサ!!

 コーカサスは巨大な翅をはためかせた。
 痛みを受けた訳じゃない。それでもHPが確実に削れていた。
 きっとフェルノの攻撃が炎に燃えていたからで、コーカサスがバタバタと暴れ出す。

「あれ? もしかして効いてる? しかもなんか削れてる?」

 フェルノは首を捻った。
 まさかこれでダメージが通るとは思わなかった。
 しかし実際にHPバーは減っていて、しかも表面が少し削れていた。
 内側が露出していて、もしかして何かが剥がれたのかな? と半信半疑になりながらも、フェルノはコーカサスの前で少しだけ余裕を持てた。

「まぁ、いいや。このまま一気に叩くよ!」

 フェルノはやる気をみなぎらせる。
 拳をかち合わせると、コーカサスに向かって拳を繰り出す。

「せーのっ! ……ぐはっ!?」

 右ストレートを先制で繰り出した。
 その瞬間、コーカサスの角がフェルノの頭を殴る。
 一瞬意識が飛ぶ。視界が霞み、フワッとなって落っこちる。

「あっ、これヤバい……」

 フェルノは死を覚悟した。それくらい頭の中が真っ白になる。
 何をされたのかもよく分からない。
 だけどどんな攻撃でさえ、一発でも受けたら終わりだと悟った。

「そう言えば、私、耐久面には、そんなの自信ないんだよね……あはは」

 フェルノは一応盾役タンクだ。けれどそれはできる人が居ないからだ。
 高い攻撃力。それなりの防御力。その二つが相まってたからここまでやれた。
 しかしCUでソロは地獄だ。それを目の当たりにすると、フェルノは呆れてしまった。


「フェルノ!?」

 アキラは落っこちるフェルノに手を伸ばす。
 咄嗟のことで壁の上から飛び出そうとした。

「「危ない!」」

 飛び出そうとしたアキラをNightとベルは抑え込む。
 腰と腕を捕まえると、壁の上から落ちないようにした。
 しかしアキラの目は落っこちて行くフェルノを注視すると、頭の中で意識が高速に回り出す。

「今私がするべきは、フェルノの安否だよね?」
「そうだ。お前まで壁の上から消えれば、防衛能力がグッと下がる」

 Nightはアキラのスキル【キメラハント】の有能性・万能性を理解していた。
 だからこそ、【ライフ・オブ・メイク】を再発動できない状況で、アキラが抜けた穴は大きくなる。
 ここは我慢して貰うしかない。Nightのそんな考えはアキラにも伝わると、ここは感情を押し殺す。

「フェルノ、ごめん……」

 アキラはこの状況で真っ先に助けに行けない自分が嫌いになる。
 拳を握り、適正なスキルも無い。
 一体如何すれば正解なのか。アキラの感情が高速化する意識と思考に飲まれる中、壁の下から声が聞こえた。

「泣かなくていいよーだ。なーに、大丈夫だよー。私はやられてないからさー」

 その声はフェルノのものだった。
 丁度壁の下から聞こえて来たので、気になったアキラたちは壁の下を覗き込む。

「おーい、アキラー、Nightー、ベルー、大丈夫―?」
「フェルノ、の方こそ大丈夫?」
「うーん、ピンチかもー」

 フェルノが壁にしがみついていた。
 短い竜の爪を突き刺すと片腕一本で体を支えている。
 足場のようなものもなく、薄っすらと出っ張った部分に腰と踵を預けている状態だった。

 そんな状態にもかかわらず、フェルノは心配を掛けない様、笑顔を浮かべている。
 正直、ポーチの中に入っていた回復ポーションはほとんど割られた。
 この状態じゃ、インベントリもまともに開けない。
 HPが半分近く失った状態で、フェルノは死の淵に立たされていた。

「フェルノ、助けに行った方がいい!?」
「うーん、マジでおねがーい」

 本当にピンチで、フェルノは助けを求めた。
 腕がプルプルしているが、それだけ筋力を消耗している。
 それでもまだ諦めた様子は無く、フェルノの無事を確認したアキラたちや他プレイヤーの希望はなんとか保たれると、安堵と共に呼応する影もあった。そう、救援がやって来たのだ。
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