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◇532 フェーズ1のボス戦
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空に浮かんだ黒い点。
その大きさはここまでの比じゃない。
他のモンスターとは一線を画す存在なのは明らかで、プレイヤーたちに激震が走った。
「な、なんだ、あれ」
「おい嘘だろ」
「頭、痛い」
「クッ、なんだアイツ。なんなんだよ、うえっ!」
プレイヤーたちは震え上がっていた。
正直、まともに動けるプレイヤーの数が半分以上を切った。
圧倒的な威圧感。ただそれだけなのに、プレイヤーは絶望し、戦う気力を削がれた。
「ど、どうしたんだろう、みんな?」
「ボス戦だな」
「ボス戦!? ここに来てボス戦なの」
アキラはNightに訊ねる。
如何やら今からボス戦になるようで、自然と視線が奪われる。
あの黒い点は一体何か。単眼鏡を介して覗いてみると、その巨大なモンスターは昆虫型だと分かった。
「なにが見えた?」
「カブトムシ」
「「「えっ?」」」
「大きなカブトムシ。多分、コーカサスオオカブトって奴だよ」
アキラの視界に収まったのは、巨大なコーカサスオオカブトだった。
全身が苔生していて、背中から花が生えている。
あまりにもコーカサスオオカブト過ぎる。その姿をそのまま答えると、Nightたちは唖然とした。
「あれ? どうしたのみんな。嘘じゃないよ、嘘じゃないからね!」
「そんなことはどうでもいい。問題は、どうやって倒すのかだ」
「どうやってって?」
「飛べるのか、落とせるのか、そのコーカサスを」
Nightは険しい表情を浮かべていた。
なにせこれだけ披露しているんだ。
まともに戦えるとは限らない上に、飛んでいるモンスターを倒せるとは思えない。
なにせ、相手はボス戦だ。足場も壁と要塞の上しかなく、現状打つ手があるのは飛び道具だけだった。
「とにかく射るしかないわね」
ベルは弓を構えると、弦を引き絞った。
鉄製の矢を番えると、壁に向かって真っ直ぐ飛ぶコーカサスへと射た。
「俺達もやるぞ」
「撃て撃て、ジャンジャン撃て!」
「とにかく当てればいい。HPを削るんだ」
ベルに呼応するように、何本もの矢が射られる。
もちろんスキルを使った攻撃も飛び交う。
火球が宙を舞い、水弾が飛んで行く。当たれば確実にダメージは与えられる筈だ。
「上手く行くだろうか」
「Night、不穏なこと言わないでよ」
「いや、実際……」
「あっ!?」
「「今度はなに」なんだ!」
Nightは不穏な言葉を吐いた。
しかしその不穏が実際に不安に繋がる。
フェルノがコーカサスの動向を窺っていると、指を指して叫んでいた。
「クソッ。あのモンスター、ビクともしねぇぞ」
珀琥の言葉にまさかとは思った。
しかし視線を奪われてしまっているので、今更言われなくてもプレイヤーには伝わった。
「嘘でしょ? あんなに攻撃したのに……」
「やっぱり効かないか。装甲車以上の硬度ってことだな」
「ど、ど、ど、どうするの!?」
「どうにもできない。少なくとも、私たちは飛べない。だから無理だ」
Nightの言葉はアキラにも響いた。
“飛べない”ただそれだけで、目の前に居るモンスターを倒しに行けない。
辛い、これこそが苦汁だ。アキラは奥歯を噛むと、コーカサス相手に使えるスキルを頭の中で並べていた。けれど、そう上手く合致するスキルは見当たらない。
「私が飛べるスキルを手に入れてたら……」
後悔したって仕方がない。アキラは自分でも分っていた。
だけどせっかくここまで頑張ったのに。
残りの時間、ただ指を加えて見ているしかないのかな。
コーカサスの姿を追い続けると、ふと視界にフェルノの姿が映る。
「フェルノ、なにしてるの?」
「ん~」
フェルノは軽くストレッチを始めていた。
一体何をする気なんだろう。
腕を十字に組み、アキレス腱を伸ばしている。全身を柔らかくすると、「よし!」と吠えた。
「まさか娘っ子よ、行く気か!?」
「うん、私ちょっと戦って来るね」
「えっ、フェルノ本気で言ってるの!?」
「うんうん、本気も本気。って書いて、ガチのマジで」
フェルノはニヤついた笑みを浮かべていた。
もの凄く楽しそうにしていて、ギラギラとした瞳がアキラたちに注がれる。
とは言え、流石に無謀だ。絶対に何の策も考えていないのを見破ると、Nightは速攻で止める。
「バカか。いくらお前は飛べるとは言っても、相手はボスだぞ」
「そうだよー。でも、飛べる人じゃないとダメなんでしょー」
「それはそうだが……考えでもあるのかな?」
「無い無い、ある訳が無い」
ダメだダメのダメだった。あまりにも信頼できず、アキラたちは呆れを通り越して笑ってしまう。
けれどそれが何より欲しかったのか、フェルノは嬉しそうだ。
「いいじゃんいいじゃんかー。そうじゃないとGAMEは楽しくないよねー」
「そうだね。でも、勝手に行かせたりしないよ」
「そうだ。お前がここで落ちれば、第二・第三フェーズが絶望的になる。そのリスクが分かっているのか?」
「分かってない! だから行くんだよ。私には殴るしかないから」
もはやキマっていた。決めるんじゃなくて、アドレナリンがドパドパ出てキマってしまっていた。
こうなった以上、どんな言葉を掛けても聞いてはくれない。
アキラはそう悟ると、フェルノの背中を撫でる。
「フェルノ、無理はしないでね」
「分かってるよー。それじゃ、ちょっと行って来るね」
その振る舞いはもはや熱血バトルアニメの主人公だった。
全身を竜に変え、後先を何も考えていない。
無謀とも言える強硬策に勝ち目があるとも思えない。それでも今は信じるしかない。
フェルノの翼に望みを託すと、赤き吸炎竜は飛び立った。
その大きさはここまでの比じゃない。
他のモンスターとは一線を画す存在なのは明らかで、プレイヤーたちに激震が走った。
「な、なんだ、あれ」
「おい嘘だろ」
「頭、痛い」
「クッ、なんだアイツ。なんなんだよ、うえっ!」
プレイヤーたちは震え上がっていた。
正直、まともに動けるプレイヤーの数が半分以上を切った。
圧倒的な威圧感。ただそれだけなのに、プレイヤーは絶望し、戦う気力を削がれた。
「ど、どうしたんだろう、みんな?」
「ボス戦だな」
「ボス戦!? ここに来てボス戦なの」
アキラはNightに訊ねる。
如何やら今からボス戦になるようで、自然と視線が奪われる。
あの黒い点は一体何か。単眼鏡を介して覗いてみると、その巨大なモンスターは昆虫型だと分かった。
「なにが見えた?」
「カブトムシ」
「「「えっ?」」」
「大きなカブトムシ。多分、コーカサスオオカブトって奴だよ」
アキラの視界に収まったのは、巨大なコーカサスオオカブトだった。
全身が苔生していて、背中から花が生えている。
あまりにもコーカサスオオカブト過ぎる。その姿をそのまま答えると、Nightたちは唖然とした。
「あれ? どうしたのみんな。嘘じゃないよ、嘘じゃないからね!」
「そんなことはどうでもいい。問題は、どうやって倒すのかだ」
「どうやってって?」
「飛べるのか、落とせるのか、そのコーカサスを」
Nightは険しい表情を浮かべていた。
なにせこれだけ披露しているんだ。
まともに戦えるとは限らない上に、飛んでいるモンスターを倒せるとは思えない。
なにせ、相手はボス戦だ。足場も壁と要塞の上しかなく、現状打つ手があるのは飛び道具だけだった。
「とにかく射るしかないわね」
ベルは弓を構えると、弦を引き絞った。
鉄製の矢を番えると、壁に向かって真っ直ぐ飛ぶコーカサスへと射た。
「俺達もやるぞ」
「撃て撃て、ジャンジャン撃て!」
「とにかく当てればいい。HPを削るんだ」
ベルに呼応するように、何本もの矢が射られる。
もちろんスキルを使った攻撃も飛び交う。
火球が宙を舞い、水弾が飛んで行く。当たれば確実にダメージは与えられる筈だ。
「上手く行くだろうか」
「Night、不穏なこと言わないでよ」
「いや、実際……」
「あっ!?」
「「今度はなに」なんだ!」
Nightは不穏な言葉を吐いた。
しかしその不穏が実際に不安に繋がる。
フェルノがコーカサスの動向を窺っていると、指を指して叫んでいた。
「クソッ。あのモンスター、ビクともしねぇぞ」
珀琥の言葉にまさかとは思った。
しかし視線を奪われてしまっているので、今更言われなくてもプレイヤーには伝わった。
「嘘でしょ? あんなに攻撃したのに……」
「やっぱり効かないか。装甲車以上の硬度ってことだな」
「ど、ど、ど、どうするの!?」
「どうにもできない。少なくとも、私たちは飛べない。だから無理だ」
Nightの言葉はアキラにも響いた。
“飛べない”ただそれだけで、目の前に居るモンスターを倒しに行けない。
辛い、これこそが苦汁だ。アキラは奥歯を噛むと、コーカサス相手に使えるスキルを頭の中で並べていた。けれど、そう上手く合致するスキルは見当たらない。
「私が飛べるスキルを手に入れてたら……」
後悔したって仕方がない。アキラは自分でも分っていた。
だけどせっかくここまで頑張ったのに。
残りの時間、ただ指を加えて見ているしかないのかな。
コーカサスの姿を追い続けると、ふと視界にフェルノの姿が映る。
「フェルノ、なにしてるの?」
「ん~」
フェルノは軽くストレッチを始めていた。
一体何をする気なんだろう。
腕を十字に組み、アキレス腱を伸ばしている。全身を柔らかくすると、「よし!」と吠えた。
「まさか娘っ子よ、行く気か!?」
「うん、私ちょっと戦って来るね」
「えっ、フェルノ本気で言ってるの!?」
「うんうん、本気も本気。って書いて、ガチのマジで」
フェルノはニヤついた笑みを浮かべていた。
もの凄く楽しそうにしていて、ギラギラとした瞳がアキラたちに注がれる。
とは言え、流石に無謀だ。絶対に何の策も考えていないのを見破ると、Nightは速攻で止める。
「バカか。いくらお前は飛べるとは言っても、相手はボスだぞ」
「そうだよー。でも、飛べる人じゃないとダメなんでしょー」
「それはそうだが……考えでもあるのかな?」
「無い無い、ある訳が無い」
ダメだダメのダメだった。あまりにも信頼できず、アキラたちは呆れを通り越して笑ってしまう。
けれどそれが何より欲しかったのか、フェルノは嬉しそうだ。
「いいじゃんいいじゃんかー。そうじゃないとGAMEは楽しくないよねー」
「そうだね。でも、勝手に行かせたりしないよ」
「そうだ。お前がここで落ちれば、第二・第三フェーズが絶望的になる。そのリスクが分かっているのか?」
「分かってない! だから行くんだよ。私には殴るしかないから」
もはやキマっていた。決めるんじゃなくて、アドレナリンがドパドパ出てキマってしまっていた。
こうなった以上、どんな言葉を掛けても聞いてはくれない。
アキラはそう悟ると、フェルノの背中を撫でる。
「フェルノ、無理はしないでね」
「分かってるよー。それじゃ、ちょっと行って来るね」
その振る舞いはもはや熱血バトルアニメの主人公だった。
全身を竜に変え、後先を何も考えていない。
無謀とも言える強硬策に勝ち目があるとも思えない。それでも今は信じるしかない。
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