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◇525 イベント初日は不安が充分?

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 会社の一室。
 最上階付近の部屋で、エルエスタは仕事をしていた。
 パソコンを前に部下から送られた資料を纏めると、確認も兼ねてディスプレイを見ながらキーを打つ。

「ふぅ、今日からですね」

 エルエスタはCUの日程を見た。
 如何やら既にイベントは開始しているらしい。
 現在の時刻が十四時。と言うことは、第三部くらいだろうか?

「第一フェーズは防衛でしたね。さて、今どうなっているんでしょうか?」
「ん? なにしてるんですか、社長」
「博信さん」

 社長室にやって来たのは男性。
 今頃CUにログインしている筈の博信だった。
 如何してこの時間に入るのか。一瞬考えるのも無理は無いが、エルエスタにその必要は無かった。

「博信さん、休憩ですか?」
「はい、はじめに変わって貰ったんで」
「始さんですね。確かに彼なら博信さんの代わりも務まりますが……」
「始は不干渉ですからねー。んで、今の状況はこんな感じで」

 博信はVRドライブを使うと、エルエスタの前にイベントの詳細を表示した。
 第一フェーズはPvPは無い。
 故になにをするのかはここに出ているが、二つの城壁の耐久率が表示されていた。

「北側と南側、両方とも耐久率は残り七十%程ですか」
「想定内ですか?」
「想定内です。ですが、主力ギルドは参加されているんですよね?」
「はい。でも、この時間だとほとんど……今丁度、龍星一揆ドラゴンダイブが一時間だけ参加していきましたよ?」
龍星一揆ドラゴンダイブが一時間だけですか……他には?」
「南は光牙忍法帳や戦慄の蝶音メトロ・バタフライが確認できたけど、今の時間は厳しそうですね」

 博信は注目プレイヤーや有力ギルドを紹介した。
 その活躍は凄まじく、この半日を耐え抜いたのも彼ら彼女らのおかげだ。
 しかしながら、今はその姿は無い。そのため、徐々に耐久率が削られていた。

「厳しそうですね」
「はい。でも、社長のお気に入りはまだですよね?」
「継ぎ接ぎの絆ですね。確かにまだ参加はしていませんが、どうでしょうか?」
「ここに来て耐久率が五十を切ると絶望的ですよ。正直、俺でも始でも諦めて帰っちゃいますね」
「私がいてもですか?」
「あっ、それは例外なんで。んで、どうするんですか?」
「このまま行きますよ」

 博信はその言葉を聞いて絶句する。
 息を飲み、痰が絡んで喉を流れる。
 目を見開くと、ついつい博信はマジレスする。

「はっ?」
「なにもおかしなことではありませんよ。このくらいの逆境を跳ね除けて貰えなければ意味がありません」
「マジで鬼っすね」
「そうですか? 実際、今回の防衛ではモンスターのレベルは一定です」
「ま、まあそうですけどね?」

 博信は顔面蒼白になっていた。
 チャラい雰囲気を吹き消すには充分。
 エルエスタは何処まで見えているのか。
 そんなこと、部下である博信には想像もできなかった。

「社長には何処まで見えて……」
「なんですか、博信さん?」
「あっ、いえ、なんでもないでーす」

 ここは無駄口は叩かない方がいい、
 博信はそう感じたので押し黙ると、たどたどしい動きを取る。
 社長室を後にしようとすると、社長に訊ねる。

「社長、社長は、なにがしたいんですか?」
「可能性ですよ」
「可能性、進化、いつものことですねー」
「不服ですか?」
「いえ、そんなことにですけど……はい、戻ります」
「頼みますよ、博信さん」

 社長であるエルエスタに期待される。
 それはとても嬉しいことだ。
 博信もなんだかんだ言いつつも、期待されていることを誇りに思い、CUに戻るのだった。



「それじゃあみんな、行くよ!」

 アキラたちはギルドホームで円陣を組んでいた。
 その際の号令はもちろんアキラ。
 少し恥ずかしかったけど、腹から声を出し切った。

「まだ一日目だぞ。こんな円陣が入るのか?」
「いいじゃんいいじゃん!」
「そうですよ。一致団結は素晴らしいことではないですか?」
「雷斬は本当にこういうの好きよね」
「はい、皆さんと協力・共闘、私は大好きです」
「呆れるわね……まあ、いいけど」

 円陣を組んだ状態で、みんな思い思いの言葉を吐く。
 後五分後にはイベント会場に転送される。
 その際の休息は今だけで、持てるだけのアイテムをインベントリに入れていた。

「Night、結局イベントの詳細は?」
「……第一フェーズは防衛だ」
「防衛? なにかにやられてるのかな?」
「SNSでも徹底した情報管理がされていた。まあ、潜ることも可能だが……」
「あれ、できるんだ?」
「私なら可能だ。ふん」
「……そっか」
「なんだ、その笑い方は」

 不服そうな表情を浮かべるNight。
 エンジンを解いて逃げようとするが、絶対に逃がさない。
 フェルノが腕を押さえつけると、転送が開始される。

「それじゃあ行くよ。本気で」
「アキラ、もう一回!」
「えっと、行くぞ!」
「「「おー!!!」」」

 アキラたちの体が粒子に変わる。
 イベント会場に向けて転送を開始されるのだ。
 青白い光が全身を包み込むと、そのまま円陣を崩す。
 いつでも戦えるように細心の注意を支払うと、アキラたちの姿はギルドホームから消えていた。
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