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◇521 あの槍の正体は?

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 温泉に入ると、最初はもの凄く熱かった。
 火傷に沁みて、痛々しく、本当なら入ってなんていられなかった。
 けれどアロエロレのおかげもあってか、アキラたちはすっかり湯船に浸かっていた。

「ふぅー、なんだかぬるく感じるね」
「そうだねー。本当はもの凄―く熱いのにねー」

 不思議なこともある。それだけアドレナリンが出ているのかもしれない。
 アキラはそう思ったのだが、端的に言ってアロエロレのおかげだった。

「なにバカなことを言ってるんだ。アロエロレが無ければ、こんな長時間熱湯のような湯船に浸かれるわけないだろ」
「そうなの?」
「当り前だ。アロエロレは火傷を癒すだけじゃない。全身の熱を吸収し、冷却効果を高めてくれるんだ。まあ、本来自然薬の一種だから、湯船に浸かりながら使うのは良くないがな」

 Nightはそう言いながらも、アロエロレを頼りながら、湯船に浸かっていた。
 顔を掬ったお湯で洗い流すと、珍しく気持ちよさそうにくつろいでいる。

「Nightさん、くつろいでいますね」
「そうね。あんな顔されると、なんだか逃げ帰って来たのも悪くない気がするわ」

 ベルの言う通りだった。
 アキラたちは調査を放棄して逃げ帰って来た。
 あの後、シャープドラゴンがどうなったのか、当然知るはずもない。
 だからだろうか。罪悪感が残っていた。

「えっ、逃げて来たん?」
「「「うっ!」」」

 天孤に言われて嗚咽を漏らす。
 するとクロユリの視線が痛く突き刺さる。
 それもそうだ。アキラたちは逃げて来たのだ。

「皆さん、逃げられたのですか?」
「それ言わないで欲しいわね」
「そうだな。あの状況、逃げる以外に道は無かった」
「うん。私たち、間欠泉に攻撃されちゃったもんね」
「「間欠泉に攻撃?」」

 天孤もクロユリも意味不明な顔をする。
 とは言え、こうなることは予想済み。
 一体何が起きたのか、アキラたちは噛み砕きながら説明した。

「実は、龍顎山の源泉の調査中に、ドラゴンに襲われちゃったんです」
「ドラゴン!?」
「それは大変でしたね。ですが今まで逆境を覆して来た皆さんが、逃げ帰るなんて珍しいですね?」
「それ言わないでよー。まあ、私と雷斬は早々に離脱したけどさー」
「申し訳ございませんでした」

 フェルノの余計な一言に雷斬は傷付く。
 自責してしまうと胸を押さえるので、そんなことは無いと励ます。
 実際、アキラたちがあれだけの時間シャープドラゴンの相手ができたのは、一重に雷斬のおかげだった。

「そないに強かったん?」 
「はい、とても敵いませんでした」
「大変やったなぁ」
「はい。ですがあの状況、私たち全員の機動力が生きていれば……」
「まあ、善戦はできただろうな。早々に攻撃役がいなくなったのは、確かに痛かった」

 アキラたちは火傷だけじゃない。
 火傷によって狂わされた連携の乱れに苦汁を舐めさせられた。
 しかしこれも一つの経験だ。アキラたち、継ぎ接ぎの絆は少数精鋭すぎるが故に、崩されれば脆かった。

「経験になったね」
「そうだな。とは言え、次は無いぞ。イベントでは誰一人落とされたらお終いだ」
「そうだねー。みんな、頑張ろうー」

 アキラたちはそこで折れたりしなかった。
 全員の顔色が生き生きとすると、クロユリは優しく微笑む。

「それで、その後は如何したん?」
「えっと、空から槍が降って来たんです」
「ん? 槍」

 天孤にその後のことを聞かれたので素直に答える。
 ここからはフェルノと雷斬も知らない話だ。
 アキラはNightとベルに視線を預けると、話を上手い具合にすり合わせる。

「そうね、急に空から槍が降って来たわね」
「あの槍が守ってくれなければ、私たちは死んでいたな」
「うん。あの槍、一体誰が投げてくれたんだろ?」
「少なくとも、源泉近くに付いていた草鞋の跡だな。あれがあった以上、槍の持ち主も絞れるだろうが……」

 一体誰が槍を投げて守ってくれたのか。
 アキラたちには皆目見当も付かない。
 けれど守って貰ったのは事実で、感謝しかなかった。

「ちなみに槍の形状はどのような形でしたか」?」
「か、形?」
「装飾品ってことよね」
「はい。本当は長さや質量、材質も知りたい所でしたが……」
「そんなものを見ている時間は無かった」
「ですよね。すみませんでした」

 雷斬は何故か謝った。
 しかし謝る必要なんて何処にもない。
 アキラたちは雷斬のことを宥めると、自分たちを助けてくれた槍の存在すら読めずに終わった。

「なぁなぁクロユリ。槍って確か……」
「ええ、彼女たちですね」
「やっぱし? あれ、アキラたちやけやなかったん?」

 天孤はクロユリに訊ねていた。
 しかもクロユリは小声になり、アキラたちには聞かれないように配慮する。

「ええ、彼女達にも声を掛けておいたんです」
「そうなん? でもなんで」
「単純です。彼女達なら、雷斬さんたちの味方をしてくれる筈だと踏んだんです」
「味方をしてくれる? 訳分からへんけど、ちゃんと考えとったんやな」
「ええ、考えていますよ。ところで天狐、ログアウトしたらちゃんと課題を……」
「あー、それね、あはははは。うっぷ!」

 天孤はクロユリに言われる前に耳を塞ぐ。
 湯船に顔を埋め一切聞く耳を持たない。
 大概だと思いながらも、無事に調査が終わったことをクロユリは安堵していた。
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