VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?

水定ユウ

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◇517 星降る槍

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 アキラたちは時間稼ぎをすることになった。
 しかし、そんなアキラたちの覚悟を嘲笑うように、シャープドラゴンは再びエネルギーを溜め出す。いつビームを 繰り出してくるかは既に逆算できる。
 けれど攻撃を止める手段は無く、アキラたちはあたふたする

「どうしよう、Night!?」
「問題ない。攻撃を封じる手はある。そうだな、ベル!」
「分かってるわよ。【風読み】。それから【心射必中】」

 ベルは弓を構えると、弦を目いっぱい引き絞る。
 特大の銀の矢がシャープドラゴンを捉え、絞り取る。
 鋭く細めた眼光。ベルの目はシャープドラゴンの一点だけを狙い澄まし、弦を放った。

「行きなさい!」

 ビュン!

 空気を切り裂き、放たれた矢が空を切る。
 火山地帯の熱気に当てられ、風圧で吹き飛ばされそうになる。
 矢が弛み、クネクネとした動きと一緒に狙いを外れるも、ベルは非常に落ち着いていた。

「べ、ベル! 外れてるよ」
「分かっているわよ。これくらい私の想定内」
「想定内?」

 アキラはやせ我慢かなと思った。
 もしかして意地を張っているのかもしれない。
 そんなことを思ってしまうが、Nightもベルを信じている。

「いや、これで正しいぞ」
「正しい!? なにを狙って……あっ!」

 アキラは声を上げてしまった。ようやく矢の軌道と狙いが分かったからだ。
 風圧に弛み、吹き飛ばされた矢だったが、シャープドラゴンの頭に飛んで行く。
 しかも矢の鏃はシャープドラゴンの目を捉え、グサリと痛々しく突き刺さる。

「ドラララララララララララララララララァ!」

 あまりの痛みに吠え捲る。
 耳の奥が痛くなり、アキラたちは耳を塞ぐ。
 それでも鼓膜を突き破りそうで、アキラたちは軽い脳震盪を起こしそうになった。

「な、なに、う、うるさい」
「当り前だ。目を撃ったんだぞ」
「ううっ、怖いね。恐ろしい……」
「そう言って私を見ないでよ。一応目を撃ったのよ。罪悪感はあるわ」
「そうだよね。ご苦労様、ベル」
「ご苦労の前にこれからどうするの? ビーム攻撃は封じたけど、一時的、しかも状況は最悪よ」

 ベルの言う通り、現状ビーム攻撃を封じることはできた。
 とは言えあくまでも一瞬のみ。
 目を撃った痛みで視力を固め分失うと、シャー応ドラゴンは苦しみあぐねる。
 けれど二の手、三の手は通じはしない。むしろシャープドラゴンを怒らせてしまったようで、暴れ出す度に源泉の中で暴れ回る。

「マズいマズいマズいマズい! 絶対マズいよね!?」
「ああ、マズいな。多分、次は無い」
「次は無いの前に、勝てるの?」
「勝つ必要は無い。私たちの役目は時間稼ぎだ。ゆっくり後退するぞ」
「「うん」」

 ベルの牽制によって時間ができた。
 早速逃げるための退路を確保しようとするが、如何やら許してくれるほどシャープドラゴン甘くはない。


 ドスン! ドスン! ドスン! ドスン!

 けたたましく地響きが走る。
 アキラたちは経っていられなくなり、四つん這いになって堪える。

「な、なにが起きてるの!?」
「なにもないだろ。見ての通りだ」
「見ての通りって、そんな簡単に言わないでよ」

 アキラが抗議するのも無理は無かった。
 突然の地響きの正体。それはシャープドラゴンの仕業。体をバタバタ動かすと、源泉の中で暴れ回る。
 その衝撃が振動波となって地面を伝い、呑気にも逃げようとするアキラたちを攻撃したのだ。

「これって攻撃?」
「いや、単純に暴れているだけだろ」
「それって殺気より酷くない?」
「酷いだろうな」
「そうね。明らかに酷さが増しているわね」

 Nightはともかく、こういう時だけベルは冷静だった。
 若しかしなくても、弓術フォームの仮面を纏って、冷静沈着な振りをしている。

「ベル、こういう時だけ見捨てないでよ!」
「見捨てるも何もないでしょ? って、ヤバくない」

 ベルは不意に振り返ってしまった。
 そこには見たくもないものがある。
 暴れ狂うシャープドラゴンが再びビームを溜め込む姿があった。

「ちょっと待ってよ。もし、もし次の攻撃が来たらどうするの?」
「終わりだな」
「終わりね」
「そんな単純な……私は逃げられるけどさ」
「「逃げればいい」わ」
「はい!?」

 この状況下において、Nightとベルは非常に冷静。
 しかも自分たちのことは微塵も考えていない。
 退路が断たれたわけではないが、逃げられる様子じゃない。
 何処に向かってビームが放たれるかは分からないものの、こう立ち尽くしている訳にも行かない。

「と、飛び道具。飛び道具……って私は持ってない」
「閃光球が一つと、簡易的な爆弾が一つ、これだけだと足りないか」
「私の矢もこれだけの本数だと足りないわね。ちょっと……痛いけど、走るしかないかしら」
「そうだな。走るしかない。行くぞ」

 アキラたちは振り返り逃げ去った。
 退路がまだ残っている以上、逃げられる可能性はある。

「に、逃げられる?」
「逃げられるかは知らん」
「痛い……くっ、痛い」
「頑張って、逃げるしかないよ」

 アキラたちは勝てないと分かっていた。
 レベル差とかの問題じゃない。体が痛すぎて逃げる体力だけで精一杯なのだ。
 あまりにも退屈な幕引き。そう傍から見れば思うだろうが、アキラたちは必死だった。

「はぁはぁはぁはぁ」

 荒い息遣いを立てている。
 急いで下山をするため、逃げ伸びようととするが、時すでに遅し。シャープドラゴンは怒りのままビームを吐き出す。

「ドラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 蒼い閃光が迸る。背後が明るく、超速度で襲い掛かる。
 このままじゃ飲まれる。アキラたちはしゃがんで逃げようとするも、それすら間に合わなかった。

(ああ、ここで強制ログアウトかー)

 アキラたち、全員がそう悟った。
 目を深く瞑り、せめて少しでも苦しまないように配慮する。
 今頃は雷斬とフェルノが無事に下山できている頃だろう。そう願うと少しだけ心が満たされ、アキラたちは本望に思う。が、しかし……

 ズドン!

 背後で別の音が聞こえた。
 硬い何かが地面に突き刺さるような音で、放たれたビームがぶつかる。
 音だけで察知すると、変なことが起きた。
 アキラたちに向けられて放たれたビームが変に軌道を変え、真横をすり抜けて行く。
 まるでアキラたちを守るように弾かれたので、気になって逃げることよりも振り返ることを優先した。

「一体なにが起きたの?」
「どうやら私たちは守られたみたいだな」
「守られた? もしかして、ビームの中にあるあの棒に?」
「そうとしか考えられないだろ。それとあれは棒じゃない。棒は棒でも槍だ」
「「槍?」」

 一本の槍に守られた。そんな事実、初見では受け入れ難い。
 おまけに何処から降って来たのかも分からない槍だ。
 持ち主は居るのだろうが。何もかもが不明。
 まるで星のように降り注がれた一本の強靭な槍は、アキラたちを守る反面、疑心を募らせるだけだった。
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