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◇511 源泉の調査(二回目)

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 アキラたち継ぎ接ぎの絆は、クロユリに条件として出された源泉の調査に向かう。
 場所は前回とはまた違う場所。
 同じなのはモミジヤのすぐ近くの山と言うだけで、名前を龍顎山と言うらしい。

「ここが龍顎山」
「なんだか物騒だねー。おまけに高いし、霧が掛かってるよー?」

 アキラたちがこの山に辿り着くまでに、モミジヤから片道三時間もかかった。
 麓でポータルを踏み登録をする頃には、既に山は真っ白に近い。
 前も上手く見えず、薄っすらとした山の輪郭があるのみだ。

「気を付けろよ。この山は火山だ」
「「だよね」」
「だよねじゃないだろ。ここは活火山だ。ちゃんと防護マスクは付けておけ」

 Nightは浮かれているアキラとフェルノを咎める。
 それから全員に【ライフ・オブ・メイク】で新たに作った防護マスクを配布する。
 麓でもこの量の霧だ。硫黄が混じり、体に毒。
 デバフが掛かるのは酷い惨劇を生みかねないので、今から装着を義務付けられた。

「ううっ、苦しい」
「Night、ベルトの部分、少し緩くならないの? 頭が破裂しそうなくらい痛いんだけどー」
「無理だ。そこまでの調整はしていない」

 Nightに渡された防護マスクは苦しかった。
 多分Sサイズでできており、Nightに合わせてあった。
 おまけに今回の代物は、性能重視でちょっとした気心は無い。
 多少自分の手で細工を加えた様子はあるものの、それでも性能と見た目以外は雑だった。

「皆さん、お待たせしました」
「全く、管理人が居るなら教えておいて欲しいわね」

 そうこうしていると雷斬とベルも姿を現した。
 二人には龍顎山から少し下山した、麓の麓。
 そこに小さく建てられた木組みの小屋で、管理人の人と話を付けて貰っていたのだ。

 如何やらこの龍顎山は一種の観光地らしい。
 そのおかげか、龍顎山は火山の観光で来山するNPCが多く、おまけにちょっとした温泉街も発展していた。モミジヤとはまた違う、自然の恵みを直で感じられる。

 と、ガイドブックに掛かれていることを改めて復唱してみせた。
 何度も聞いたことのある設定を噛み締めるも、今回はそこに依頼が発生していた。

「どうやら依頼の引き継ぎが上手くできていなかったみたいです」
「難航したわね。でも無事に話が付けられて早めに解放されたわ」

 雷斬とベルは少し疲れた素振りを見せる。
 肩をポンポンと叩き、鈍って固まった体に鞭を打っている。

「お疲れ様、雷斬、ベル。二人のおかげで助かったよ」
「助かったのもなにも、依頼を引き継いだのは私たちだからね」
「実際、これが無ければここまで早くは済みませんでしたよ」

 そう言って雷斬が取り出したのは、小さな木の板だった。
 これこそが許可証で、クロユリから預かって来たものだ。
 見せなければ、現状の龍顎山に立ち入ることはできない。
 だからこそ、許可証を見せたことで早めに解放されたことに繋がった。

「これが許可証……木の板なんだね」
「当り前だ。金属質のものを使えば酸化する」
「そうですね。木でできた許可証も、少し黒ずんでしまっています」
「湿気だな。カビが繁殖する前にインベントリに仕舞っておけ」

 許可証一枚でこれだけの有り様だ。
 社交的にも自然由来に寄るものも、アキラたちの敵になる。
 一歩間違えればここは死ぬ。そんな場所であることを叩き付けた。

「それから防護マスクも付けておけ。ここは危ないぞ」
「この間の火山より?」
「当り前だ。噴火はしないが、活火山なのは間違いない」
「ううっ、怖いね。それがフラグにならないよね?」

 アキラは嫌な想像を働かせる。
 けれど「バカか」とNightに罵られてしまった。
 あまりにも直球な悪口。そう受け取ってもいいのだが、Nightなりに励ましてくれたのは伝わる。

「そんなことになる前に、原因を究明して、即刻叩いて終わらせる。それだけだ」
「おお、カッコいい! 主人公っていうか……上官?」
「ふん。主人公はお前の横にいるだろ」
「私の横ー? ああ、確かにー」

 壇上を捗らせていると、アキラに視線が集中した。
 みんな何か言いたげな顔色を浮かべている。
 如何やら号令を待っているようで、Nightに急かされる形で、アキラは腕を振り上げた。

「それじゃあみんな行こうー!」
「「「おー!!!」」」

 アキラの号令に合わせ、みんなの相槌が重なる。
 元気一杯なフェルノ、怠そうなNight、真面目な雷斬に、一応合わせるベル。
 それぞれ違う。だから面白い。そう思ったアキラがスッと腕を振り下ろし、正面の山を目指して歩き出す。

「あっ、待ってくださいアキラさん」
「えっ?」

 最初の一歩を踏み出したアキラ。
 その行く先を止めたのは雷斬だった。
 急に拍子抜けしてしまい、首を横に捻ると、雷斬が前に出た。

「この先、柵がしてあるみたいです」
「さ、柵!?」
「はい。毎日柵の鍵を開けるそうですが、本日はまだのようで」

 そう言うと、雷斬はポケットから鍵を取り出した。
 分厚い木の鍵で、今の時代見る影もない代物だ。
 これも金属が酸化しないための工夫なのだが、随分と年季が入っており、少しだけ黒ずんでいる。

「それが鍵?」
「はい。ですがこの鍵は私かベルでなければ使ってはいけないようで」
「管理人から借りて来たものだからね。責任が取れなくなると困るから、借りた本人だけが使えるそうよ」
「そうなんだ。それじゃあ勝手に行ったらダメなんだね」

 アキラは戦闘を雷斬とベルに譲ることにした。
 数歩先を行って貰うと、Nightとフェルノの横に戻る。

「二人共生き生きしているね」
「そうだねー。楽しそうだよねー」
「そうだろうか。あれは完全に責任感の重圧だろ。変にさせているのはクロユリの仕業だ」
「ううっ、それを言われたらこっちにも責任が……はぁ。でも今は関係無いよね。頑張ろう!」

 アキラは意識を切り替えることにした。
 雷斬とベルの背中を見つめ、覇気のある様子が浮かび上がる。
 一歩一歩に力が入り、ドンドン山を駆け上がって行く。

「あっ、見えてきましたよ、柵です」
「柵……あっ、ここは金属なんだ」
「鍵だけが木……それは意味があるのか?」

 山を登っていくと、見えて来たのは柵だった。
 きっとここも昔ながらの木でできた柵。
 そう思ったのも束の間。現れたのは有刺鉄線で組まれた錆びだらけの柵で、強度銃士にされていた事実に呆気に取られてしまった。
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