VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?

水定ユウ

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◇504 合成獣VS赤薔薇3

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「な、なに?」
「これが私のスキルって言ったでしょ?」

 赤薔薇少女は真っ赤な髪が炎に変わった。
 膨れ上がった炎が火花を散らし、巨大な獣の姿へと変わる。
 姿は人のまま、ただし全身が燃えている。にもかかわらず、背後では髪が揺らめいて蜥蜴のような姿を映し出していた。

「これが貴女の種族スキル」

 アキラはゴクリと喉を鳴らした。
 あまりの威圧感と熱量に気圧されそうになってしまう。
 全身が焼けるように痛い。近付くことさえできず、アキラは息を荒くする。

「酸素が、どんどん減ってる……」
「私はスリップダメージよ。ここからは短期決戦だから」
「た、短期決戦。それなら……はっ!」

 アキラは赤薔薇少女の提案めいた言葉を受け取った。
 踵を地面に叩き付け、一気に蹴り上げ赤薔薇少女に近付く。
 短期決戦なら先手を取って仕留め切る。
 かと思いきや、赤薔薇少女はニヤリと笑みを浮かべるだけで、一切動かない。

「どうして……動かないの?」
「ふん、燃えなさい!」

 赤薔薇少女は嘲笑うように、アキラの前で手を広げる。
 胸ががら空き。ここだと思い、拳を叩き込もうとした。
 しかし赤薔薇少女は近付いて来たアキラに、両腕を擦って火花を散らせると、小さな火球を撃ち込んだ。

「熱っ!? 熱い熱い熱い熱い……はぁはぁはぁはぁ」

 アキラは火花に押し切られ、地面を転げ回った。
 【甲蟲】に触れた瞬間、とんでもない熱がアキラの全身を回る。
 頭のてっぺんまで燃えてしまったと勘違いするほどで、スリップダメージでHPが一気に削れる。

「ふふっ、どうかしら? これが私の種族スキルよ」
「つ、強い……それに熱い」
「当り前よ。私の炎は四大精霊サラマンダーのものよ? ただの炎と一緒にしないで」

 アキラは膝を付いて何とか立ち上がった。
 正直、満身創痍とまでは行かないが、危機的状況ではあった。
 だからだろうか。余裕な態度で胸を貸す赤薔薇少女の言葉に、耳を傾けるしかなかった。

「四大精霊サラマンダーは分からないけど、近付くこともできない」
「当り前よ。私に触れられるなんて思わない方がいいわ」
「武器も溶かされそう……」
「そうね。私よりも高温でもない限り、私の炎は超えられないのよ。おっと、弱点でもなかったわね」

 赤薔薇少女は勝利を確信している。
 故に注意が散漫になり、アキラのことを下手に見ていた。

 普通なら悔しい。腹が立って負けたくないと心が馳せる。
 けれどアキラは態度を変えない。
 自分がやるべきことを見定めると、再び構えを取ってみせた。

「なにやってるのよ? もう勝負は付いたでしょ」

 諦めないアキラが気に食わないのか、赤薔薇少女は訝しい表情を浮かべる。
 けれどアキラは一切負ける気は無かった。
 まだHPが残っている。赤薔薇少女は常に微かなスリップダメージでHPが削れている。
 回復手段を持ち合わせていない以上、アキラにも勝利を掴み取るチャンスは残されていた。

「諦めない気? 舐めてるわね。この状況で勝てると思っているの?」
「勝てると思ってるとか負けると思ってるとかは無いよ。やるなら勝ちたいし、負けたくもない。だけど今はそれだけじゃないんだ」

 表情を見せないアキラ。垂れ下がった髪を掻き分け、垣間見えた目を見て、赤薔薇少女はゾッとした。
 そこには殺意なんて悍ましい物は無い。嬉々とした憂いもない。
 あるのはただひたすらで、純粋な感情。
 アキラの本音が意識を切り替えても尚、この状況を楽しんでいた。

「た、楽しんでいるの? この絶望的な状況を?」
「楽しんでいるのかな? よく分からないけど、ワクワクはしてるよ」
「ふざけてるわ。ふざけ切ってる。ああ、もう……それじゃあ特別に見せてあげる。種族スキルを見られただけありがたいと思っていなさい。私の私だけのスキルをねっ!」

 赤薔薇少女は種族スキルではなく固有スキルを発動する。
 右手を前にかざすと、手のひらから赤い炎の塊が出る。
 種族スキル【炎精化】の能力の一部? かと思ったのも一瞬、形が変わり炎の薔薇が浮かび上がった。

「ば、薔薇が燃えてる!?」
「これが私の固有スキルよ。さあ、避けられるかしら!」

 赤薔薇少女は特大の炎を薔薇として放った。
 赤薔薇少女の固有スキル、【炎の薔薇】だ。
 バチバチと酸素を消費しながら巨大な炎の塊となり、目の前でよろけるアキラを捉える。
 あまりの巨大さに逃げることはできない。絶体絶命のピンチの中、アキラは白い歯を噛み、最後の最後まで諦めないで錯綜する。

「考えろ。まだ考える時間はある筈……」

 アキラは今にも全身が焼け落ちてしまいそうになる中、頭の中をクリアにしながら掻き回す。
 無数に存在する絶望的な意識を瞬時に切り替え続ける。
 視線が右往左往する。何処かにこの状況を打開するなにかがあると信じている証拠だ。

「無駄よ。私の炎で爆ぜないさい!」

 炎の薔薇がアキラの目の前で爆ぜる。
 花弁を散らし、熱風と一緒に炎を撒き散らす。
 飲み込まれたアキラはひとたまりもない。
 全身が焼け焦げ、炎の薔薇が消え始める頃には、そこにアキラの姿は無く、消し炭になった跡が残るだけだった。
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