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◇502 合成獣VS赤薔薇1

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 アキラと赤薔薇少女は互いに対峙する。
 一定の距離感を保つと、それぞれ合図があるのを待った。
 後六十秒。カウントが一つずつ減っていく。

「勝負の方法はどうするの?」
「どちらかが負けを認めるか、致死量に匹敵するダメージを受けるか、でどう?」
「分かりやすいね……ああ、嫌だな」
「なに? 小言? ウザっ……さぁ、やるわよ!」

 赤薔薇少女は血気盛んだった。
 もはや戦う以外の選択肢は避けられない。
 そんな中、アキラの名前を呼ぶ声がした。

「アキラ、なにやってる!」
「その声、もしかしなくてもNightだよね!? なにって言われても、その……」
「お前、ソイツが誰か分かってるのか!」
「誰って知らないよ! もしかして有名人なの?」

 Nightはアキラの身を案じていた。
 如何やらアキラが対峙している相手はNightも知っている有名人らしい。
 そんな相手に喧嘩を売られてしまったとなれば話は別だ。
 アキラは動揺するも、それと同時にゴングが鳴った。

 ゴーン!

「ヤバッ、ちょ、ちょっと待って!」
「落ち着けアキラ。ソイツはもう……」

 Nightが焦るアキラに叫んだ。
 それと同時にアキラの顔半分に影が差し、咄嗟に危険を感じる。

「危ない!」

 バシュン!

 目と鼻の先、アキラの髪を優しく撫でながら、銀の剣がすり抜ける。
如何やら赤薔薇少女は問答無用で襲い掛かって来ていた。
危うく切られる寸前で、アキラが咄嗟に気付けなければ避けられなかった。

「私の一撃を躱すなんて、大したものね」
「ありがとう。だけど貴女って、有名人だったんだ。ごめんね、知らなくて」
「はっ、やっぱり私を舐め腐り切ってるわね。ここでその口、縫わせて貰うわねっ!」

 アキラは地雷を踏んでしまった。
 本当のことを言って、正直に謝ろうと思ったのだ。
 しかしそれが災いし、赤薔薇少女はギラリと光る眼をかざして襲い掛かる。

 スパッ、スパッスパッ、スパパッ!

 赤薔薇少女の剣が宙を切り付ける。
 アキラの顔を目掛けて何度も何度も切り付けようとする。
 熱を帯び、今にも焼け焦げてしまいそうだった。

「おっと、よっ、結構速いね」
「どうして一撃も当てられないのよ! 私で遊んでるの!」
「そんなつもりは無いよ。私はただ避けてるだけで」
「私の剣技を軽くいなすなんて、腹が立つわね」
「えー、避けてるだけなのに」

 アキラは赤薔薇症状の無数の攻撃を全て避けきっていた。
 あまりにも軽やかで、喋る余裕さえ見せている。
 赤薔薇少女にはそれは遊ばれているように感じてしまい、無性に腹が立っていた。

「ちょこまかちょこまかと、逃げ回らないでよ!」
「逃げ回るよ。……でもこのままだと」

 アキラは気が付いていた。
 もしかするとこれも赤薔薇少女の作戦では無いかと考えていた。
 それもそのはず、徐々に距離を詰められ、特設ステージの端へと追いやられていた。

「やっぱりこうなるよね?」

 アキラは背後を見る。
 透明な壁があり、アキラはそれ以上後ろに下がれないことを悟る。
 無理に出ようとすれば、アキラの負けになってしまう。
 つまり、逃げ道を封じられてしまい、これ以上下がることはできなかった。

「もう逃げられないわね。これで終わりよ!」
「……それなら、私も行くよ」

 赤薔薇少女は逃げ場を失ったアキラに容赦なく剣を叩き込む。
 頭のてっぺんからかち割るような豪快で力強い一撃。
 これを喰らえば終わり。そう悟った瞬間、アキラも本気になる。

「今更本気になった所で遅いのよ!」
「それっ!」

 アキラは赤薔薇少女の手首に向かって蹴りを喰らわせる。
 ゴツン! と骨を叩く音がした。
 すると赤薔薇少女の手の中から剣が弾かれると、赤薔薇少女は目を見開く。

「えっ……」
「驚いている暇は無いよ!」

 アキラは間抜けな顔をしている赤薔薇少女に更に攻撃を繰り出す。
 手の中から武器を手放させ、次の攻撃を繰り出させる前に、アキラの方が早く動く。
 それが相手を極力傷付けずに最小の力で倒す、アキラなりの配慮だった。

「それっ!」

 アキラは武器を一切使わない。
 拳のみの攻撃を繰り出すと、赤薔薇少女の胴体に叩き込む。

 HPは……削れない——

 さも当然の如くアキラの拳を防ぎ切る銀の鎧。
 胸板の赤い薔薇が爛々と輝いて見える。
 如何にも、アキラのパンチ攻撃では、赤薔薇少女を脅かす程度だった。

「痛い! ふぅふぅ……これ、普通にやったら手が真っ赤だよ」

 アキラは自分の右拳を見る。
 真っ赤に腫れ上がっていて、現実だったらこれでは済まない。
 苦い表情を浮かべると、そんなアキラを嘲笑うように、赤薔薇少女は忌むした目を剥きだした。

「やってくれたわね。この私を、本気で怒らせるなんて……貴女、認めてあげるわ。私が少しだけ本気を出してもいい相手だってねっ!」

 そう宣言すると、赤薔薇少女の真っ赤な髪が揺らめく。
 まるで炎のようで、フェルノのそれとはまた違う。竜の形を取り留めることも無ければ、その姿形は炎と一体だ。
 パチパチと大気中の酸素を破裂させ、青くはならないが轟々と燃える。
 その姿はまるで炎そのもの。赤薔薇少女は全身を真っ赤に彩ると、その本質を露わにするのだった。
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