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◇499 赤薔薇少女と髭モジャ男性

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「うーん、依頼達成! みんなお疲れー」

 フェルノは頭の上で腕を組み、背筋を伸ばした。
 太陽の陽射しが気持ちよく、頭のてっぺんから浴びるよう。

「そうだね。でも、かなり磨かれてるんじゃない?」
「そうだな。戦い方自体は充分だろうな」

 アキラとNightも討伐依頼を終えたので、軽く体をリラックスさせる。
 全身をブルブルと震わせ、気持ちを整えた。

「にしても雷斬、その武器はなによ?」
「コレですか。コレは私の新しい刀です」
「刀って、それってどう見ても十手……」
「ベル、余計な言葉を呟いてはいけませんよ」

 ベルは雷斬の新しい刀を見て脇目になる。
 しかし余計なことを言う前に雷斬に差し止められ、喉を詰まらせたように息詰まる。

「分かってるわよ、そんなこと。それより、今日は早めに終わったけど、これからどうするのかしら?」
「どうするっていわれても……ねぇ?」
「うんうん、そんなの決まってないよー」

 アキラとフェルノは互いに顔を見合わせた。
 しかしこの後の予定は決まっていない。
 もう一つ依頼を受けるには時間も足りないので唸ろうとすると、雷斬が代わりに提案してくれた。

「それでは、街中を歩いてみませんか?」

 雷斬はにこやかな笑みを浮かべてみせる。
 依頼を無事に達成し終え、ゆとりのある時間を満喫するためだった。

「いいね。街を巡ってみるのは楽しそうかも」
「そうだな。最近は街中を歩いていないからいいかもしれない」
「そうだねー。んじゃ、行ってみよー!」

 フェルノは意気揚々と息巻いて、街中へと消えて行く。
 その後を見失わないように、アキラたちも追い掛ける。
 NPCの多い人混みを掻き分け、普段は絶対に入らない店先を覗いて回ると発見も合った。

「へぇー、この辺りに宝石屋さんがあったんだ」
「見て見て。あっちには美味しそうなパン屋さんがあるよ!」
「ここはモンスターの素材を加工しているのか。なるほど、モンスターの素材を簡単に加工して……うーん、できそうだな」

 街中にはたくさんの店があった。
 そのどれもが面白そうで、いくらお金があっても足りないくらい、興奮が胸を騒めかせる。
 キラキラとした子供のような瞳を浮かべると、適当に店に入ってみようかと思った。

「アキラ、パン屋さん入ろう」
「うん。うーん、良い香り」

 アキラはフェルノとパン屋に入ろうとした。
 扉を開けると、芳醇なバターの香りが、鼻腔を擽ってくれる。
 空腹を刺激し、吸い込まれるように焼き上がったパンが並ぶ店内に入ろうとするが、アキラとフェルノの行動を妨げるように怒号が上がる。

「なんだ、ガキが! 舐めてんのか?」

 ふと足を止めると、扉を咄嗟に閉めてしまった。
 代わりに視線を移すと、街行くプレイヤーとNPCの足が止まっている。
 一点を見つめたまま視線の先の光景を凝視すると、アキラとフェルノも追ってみる。
 そこに映し出されたのは、無精髭ともみあげをモジャモジャに生やし、腰を折って怒号を上げる男性の姿だった。

「なになに? 口論?」
「口論みたいだけど、喧嘩じゃないよね? 流石に街中だよ」
「街中だけどさー、ああいった性格の人に絡まれたら面倒だよねー」
「それはそうだけど……一体誰が?」

 怒号を上げる髭モジャ男性は誰に怒っているのか。
 視線を傾け、アキラは怒号を浴びる人影を映し出す。
 そこに居たのは少女のようで、胸当てに赤い薔薇の模様が描かれた銀色の防具を身に纏っていた。
 
 如何やらアキラたちとほとんど歳は変らない印象。
 けれど姿勢は伸ばし、むしろ強情な態度を取ってみせる。
 髭モジャ男性のことを見上げると、唇を尖らせた。

「舐めてる? なに言ってるのかしら。貴方が邪魔なの。とっととそこを退きなさい!」

 少女は正面から噛み付いた。
 髭モジャ男性のことを食って掛かると、徐々に詰め寄って威圧する。
 鎧の胸当てを髭モジャ男性に押し付けると、唇だけではなく目付きまで鋭くさせた。

「なんだと、ガキが」
「ガキガキうるさいわよ。私の前を塞ぐなんてどういうつもり? とっとと退かないと、酷い目に遭うわよ?」
「はっ! ガキの方こそ偉そうだな。酷い目? 遭わせるなら合わせてみやがれ!」

 髭モジャ男性は赤薔薇少女のことを威圧する。
 完全に挑発。こんなものに乗っても仕方ない。
 そう思ったのも束の間、赤薔薇少女は殺気をぶつけ、髭モジャ男性を威圧させる。

「うっ、な、なんだなんだ!?」
「悪いけど私、加減苦手なのよね。だから覚悟しなさいよ、私のことをガキって呼んだこと、後悔しなさい」

 赤薔薇少女は髭モジャ男性を殺す勢いだった。
 何だか嫌な予感がアキラたちにも駆け抜ける。
 胸騒ぎが全身をゾワゾワさせると、いつの間にかアキラの体は動いていた。
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