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◇495 刀よりも大事なもの
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アキラは一瞬の出来事に心が震えていた。
雷斬を飲み込む眩い雷の閃光。
雷撃をもろに喰らった寒天スライムはその巨体を震わせ、気が付けば光の中に消えていた。
その瞬間をアキラの目では追えなかった。
けれども光が無くなると、そこに立っていたのは雷斬だけ。
刀を天に突き上げると、勝利の余韻に浸り、勝ち誇る姿を讃えた。
「凄い、雷斬。あの一瞬の間になにがあったんだろう」
アキラは当然の疑問を呈する。
けれどもその事実を知っているのは、雷斬本人だけだ。
早く知りたい。訊いてみたい。そう思ってしまい、胸の鼓動を共にして、雷斬の下に戻った。
「雷斬!」
「あ、アキラさん……終わりましたね」
「う、うん……終わったけど」
アキラは雷斬の顔色を窺った。
本当ならば、一人で無事に打ち勝って勝利してみせた雷斬を労いたかった。
だけどアキラはそれをしない。何故ならば、雷斬が単なる勝利を得た訳ではないからだ。
「雷斬、大丈夫じゃないよね?」
「はい?」
「無理しているよね」
「無理はしていませんよ。それよりも見てください、この刀を。雷氣十手丸……どうやら私との相性は抜群のようです。これならば、私はもっと皆さんのことを守ってあげられます」
「雷斬!」
アキラは胸が張り裂けそうな勢いで声を上げた。
雷斬が無理をしていることに気が付いたからだ。
顔色だけじゃない。動きや仕草、何もかもが普遍的で、雷斬は麻痺でもしたのか、その事実を受け入れない。
「袖捲ってみせて」
「すみません、アキラさん。袖は……」
「いいから見せて。友達として、こんなの許せないよ」
そう言うとアキラは、雷斬の腕を強く握る。
痙攣していて力が入っていない。
抵抗しようにも成す術もなく、雷斬は利き手の袖を捲られた。
そこにあった雷斬の腕は怪我一つしていない。皮膚も無事だ。けれどずっと痙攣を続け、感覚を失いかけていた。
「これはどういうこと?」
「それは……」
「技を使ったせい? 体を酷使するような真似をして技を使うなんて愚弄だよね?」
「アキラさんの口からそんな言葉が出るなんて思いませんでした」
「ってことはやっぱりだね。技を使うの、焦ったんだ」
「……そんなことはありませんよ。私は自分の技に自信を以って繰り出しました」
雷斬は無理をしたことを認めた。
言葉の中に直結するものは無かったけれど、節々の口調の変化からか、アキラは容易く読み取れた。
「しかしながら、雷氣十手丸。この刀の刀身が許容できる電気の総量は分かりませんが、上手く逃がさなければ、その分反動が加わるそうです」
「反動ってことは、電気の反動?」
「おそらくは。私自身、【雷鳴】を連続使用すると、全身を焼ける感覚が襲うのと同じです」
雷は電撃。つまりは電気だと言ってもいい。
電気は時にとんでもない最悪を生み出すこともある。
現代社会では必要不可欠だけれども、威力も衝撃も桁違いになり、最悪死にまで至らしめることもある。
それを全身で常に受け続ければどうなるのか。ここがあくまでもGAMEであり、雷斬の種族スキルが【雷鳴】だから耐えられるだけで、常人には不可能な域だった。
「刀刃さんは、こうなることが分かっていて……」
「いえ、それは違うと思います」
「もしかして、肩を持つの? 私も疑いたくはないけど、雷斬がこんな目に遭うのは嫌だな」
アキラは矛先を刀刃に向ける。
もちろん疑いたくはない。だけどこうなったのは全て刀刃の打った刀が原因。
期待が生んだ結末。唇を噛み締め、自分が刀刃の刀に浮かれた事実も相まってか、自責の念に駆られる。
「私も、もっとちゃんとしてたら……」
「アキラさん!」
その瞬間、ソッと指先が頬に触れた。
痙攣する指先、それは誰を隠そう雷斬のもの。
ボロボロになりながらでも戦い抜く勇ましい剣士。
……だと思うこともあるけれど、アキラは逆に雷斬の感情を読み解き明かし、指を握り返した。
「分かってるよ。私だけのせいじゃないって。でも、こうなったのは私の責任でもあるから。だからね、今度はもっと上手くやろうよ」
「アキラさん……」
「私じゃなくてもいい。みんなで。だから雷斬も無茶ばかりして、自分一人が頑張らなくてもいいんだよ。その方が、絶対に楽で楽しいから」
アキラは雷斬に励まされる前に励まし返した。
本当は雷斬も伝えたい想いがあったはず。
それを押し切ってでも感情を汲み取り、アキラは眩しい笑顔を振りまく。
「そうですね」
雷斬自身、アキラの想いを汲み取った。
眩しい笑顔が煌めいて、なんとも言えない感情の嵐を吹き消す。
一刀両断にされたような黒い何かから射し込んだ光。
受取った雷斬も自然と笑みを浮かべると、二人はようやく真の勝利に近付けていた。
「とりあえず、寒天スライムの素材は……」
「ドロップしてないよね?」
「残念ながら」
そんな折、寒天スライム討伐の依頼が完了したのに、報告できないことに気が付いてしまった。
茫然自失で立ち尽くす羽目になると、アキラと雷斬は困り顔もほどほどに、大笑いをする。
誰にも聞こえない。他に誰の姿も無い草原。
アキラと雷斬は一幕の余韻に浸ると、結局依頼は未達成に終わってしまった。
雷斬を飲み込む眩い雷の閃光。
雷撃をもろに喰らった寒天スライムはその巨体を震わせ、気が付けば光の中に消えていた。
その瞬間をアキラの目では追えなかった。
けれども光が無くなると、そこに立っていたのは雷斬だけ。
刀を天に突き上げると、勝利の余韻に浸り、勝ち誇る姿を讃えた。
「凄い、雷斬。あの一瞬の間になにがあったんだろう」
アキラは当然の疑問を呈する。
けれどもその事実を知っているのは、雷斬本人だけだ。
早く知りたい。訊いてみたい。そう思ってしまい、胸の鼓動を共にして、雷斬の下に戻った。
「雷斬!」
「あ、アキラさん……終わりましたね」
「う、うん……終わったけど」
アキラは雷斬の顔色を窺った。
本当ならば、一人で無事に打ち勝って勝利してみせた雷斬を労いたかった。
だけどアキラはそれをしない。何故ならば、雷斬が単なる勝利を得た訳ではないからだ。
「雷斬、大丈夫じゃないよね?」
「はい?」
「無理しているよね」
「無理はしていませんよ。それよりも見てください、この刀を。雷氣十手丸……どうやら私との相性は抜群のようです。これならば、私はもっと皆さんのことを守ってあげられます」
「雷斬!」
アキラは胸が張り裂けそうな勢いで声を上げた。
雷斬が無理をしていることに気が付いたからだ。
顔色だけじゃない。動きや仕草、何もかもが普遍的で、雷斬は麻痺でもしたのか、その事実を受け入れない。
「袖捲ってみせて」
「すみません、アキラさん。袖は……」
「いいから見せて。友達として、こんなの許せないよ」
そう言うとアキラは、雷斬の腕を強く握る。
痙攣していて力が入っていない。
抵抗しようにも成す術もなく、雷斬は利き手の袖を捲られた。
そこにあった雷斬の腕は怪我一つしていない。皮膚も無事だ。けれどずっと痙攣を続け、感覚を失いかけていた。
「これはどういうこと?」
「それは……」
「技を使ったせい? 体を酷使するような真似をして技を使うなんて愚弄だよね?」
「アキラさんの口からそんな言葉が出るなんて思いませんでした」
「ってことはやっぱりだね。技を使うの、焦ったんだ」
「……そんなことはありませんよ。私は自分の技に自信を以って繰り出しました」
雷斬は無理をしたことを認めた。
言葉の中に直結するものは無かったけれど、節々の口調の変化からか、アキラは容易く読み取れた。
「しかしながら、雷氣十手丸。この刀の刀身が許容できる電気の総量は分かりませんが、上手く逃がさなければ、その分反動が加わるそうです」
「反動ってことは、電気の反動?」
「おそらくは。私自身、【雷鳴】を連続使用すると、全身を焼ける感覚が襲うのと同じです」
雷は電撃。つまりは電気だと言ってもいい。
電気は時にとんでもない最悪を生み出すこともある。
現代社会では必要不可欠だけれども、威力も衝撃も桁違いになり、最悪死にまで至らしめることもある。
それを全身で常に受け続ければどうなるのか。ここがあくまでもGAMEであり、雷斬の種族スキルが【雷鳴】だから耐えられるだけで、常人には不可能な域だった。
「刀刃さんは、こうなることが分かっていて……」
「いえ、それは違うと思います」
「もしかして、肩を持つの? 私も疑いたくはないけど、雷斬がこんな目に遭うのは嫌だな」
アキラは矛先を刀刃に向ける。
もちろん疑いたくはない。だけどこうなったのは全て刀刃の打った刀が原因。
期待が生んだ結末。唇を噛み締め、自分が刀刃の刀に浮かれた事実も相まってか、自責の念に駆られる。
「私も、もっとちゃんとしてたら……」
「アキラさん!」
その瞬間、ソッと指先が頬に触れた。
痙攣する指先、それは誰を隠そう雷斬のもの。
ボロボロになりながらでも戦い抜く勇ましい剣士。
……だと思うこともあるけれど、アキラは逆に雷斬の感情を読み解き明かし、指を握り返した。
「分かってるよ。私だけのせいじゃないって。でも、こうなったのは私の責任でもあるから。だからね、今度はもっと上手くやろうよ」
「アキラさん……」
「私じゃなくてもいい。みんなで。だから雷斬も無茶ばかりして、自分一人が頑張らなくてもいいんだよ。その方が、絶対に楽で楽しいから」
アキラは雷斬に励まされる前に励まし返した。
本当は雷斬も伝えたい想いがあったはず。
それを押し切ってでも感情を汲み取り、アキラは眩しい笑顔を振りまく。
「そうですね」
雷斬自身、アキラの想いを汲み取った。
眩しい笑顔が煌めいて、なんとも言えない感情の嵐を吹き消す。
一刀両断にされたような黒い何かから射し込んだ光。
受取った雷斬も自然と笑みを浮かべると、二人はようやく真の勝利に近付けていた。
「とりあえず、寒天スライムの素材は……」
「ドロップしてないよね?」
「残念ながら」
そんな折、寒天スライム討伐の依頼が完了したのに、報告できないことに気が付いてしまった。
茫然自失で立ち尽くす羽目になると、アキラと雷斬は困り顔もほどほどに、大笑いをする。
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