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◇493 寒天スライム

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 アキラと雷斬は困っていた。
 目の前に立ち塞がる強大な敵。
 その名は寒天スライム。通常スライムよりも、よりプルンプルンしていて、あらゆる攻撃を吸収する面倒な相手。
 一般的にはそんな認識なのだが、その脅威は実際に直面してこそ初めて理解できた。

「つ、強いよね」
「はい。単純な強さではなく、倒せない面で強さを発揮していますね」

 寒天スライムにここまで幾度となく攻撃を繰り出していた。
 アキラはパンチにキックと物理による打撃を連発する。
 
雷斬も続けるように愛刀、雷氣十手丸を叩き付ける。
十手状の刃をスルリと打ち込もうと画策するも、全く意味がない。
斬撃攻撃でトドメを刺そうにも、攻撃が弾かれてしまったのだ。

「もう一回やってみる?」
「そうですね。ここはもう一度」

 アキラと雷斬は完全に馬鹿の一つ覚えだった。
 作戦なんて巧妙なものは一切無く、攻撃を繰り出すだけ。

「【キメラハント】:【甲蟲】+【月跳】」
「私も本当は使いたくなかったですが……仕方ありませんね」

 アキラは固有スキルで武装する。
 奪い続けて来た信頼のおけるスキルを全身に纏うと、ステップを踏んで無駄に撹乱する。

 一方の雷斬もここまで温存していた技を使うことにした。
 本当は使いたくは無かった。
 けれどここまで防御特化の相手ならば、使わざるを得ないと確信したのだ。

「せーのっ!」
「濁雨!」

 アキラは飛び上がると、重力を味方にすることにした。
 パンチとキック。二つを上手く組み合わせれば、自分が弾丸になれる。
 そんなイメージを持ってして、アキラは寒天スライムに突激した。

 ボヨーン!

「嘘でしょ、これでもダメなの!?」

 アキラは寒天スライムに突撃した。
 しかし寒天の性質に阻まれてしまい、巨大なトランポリンにダイブした感覚。
 寒天のスライムの体が歪み、アキラの衝撃は全部吸収されると、そのままさっきと同様吹き飛ばされてしまった。

「アキラさん……私の技なら」

 雷斬は袈裟切りを繰り出す。
 けれどただの袈裟切りじゃない。
 刀の刀身が振動し、プルプルと震え出すと、その芯の部分を決して見せずに、寒天スライムのプルプルした体表に触れた。これなら確実に通る筈だと確信していたのだ。

「そう甘くはありませんか」

 しかし雷斬の思惑は外れてしまった。
 技を繰り出したはずが、いくら振動を味方に付けたとしても、決して攻撃は届いてくれない。
 寒天スライムの寒天性能がやけに邪魔立てしてきて、どんな斬撃も弾いてしまった。

「それでは……熱波斬!」

 雷斬は距離を取ると、刀を横に構える。
 利き足を前に出し、軸足を下げて体を支えると、そのまま刀を後方にまで下げる。
 半回転を腰から付けると、そのまま思いっきり全身を使って打ち込む。

「そりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 雷斬の斬撃は熱を帯びていた。
 空気を震わせたことで、軽い火花が起こり、着火剤の刀身を糧にして、酸素に引火し火を付ける。

 薄っすらと視界に映り込む赤い炎。
 寒天スライムの体の表面を射ると、炎で焼き払おうとする。
 いくら寒天スライムとは言えど、相手はスライム。
 水分が多いクラゲと同じならば、蒸発させてしまうのがいい。
 雷斬はあまり望んでいない幕引きを望むが、残念なことに寒天スライムは依然と無敵だった。

 プシュゥー!

「えっ、嘘ですよね? ひやっ!」

 かと思えば熱によって表膜を剥がされた寒天スライムは、体に亀裂が入ってしまった。
 ここから水が抜ければいい。
 そう思った一瞬の過ちを恥じると、強烈な水柱が雷斬のことを襲った。

「ぐはっ……げほっ、げほっげほっ!」

 全身打撲は必死の一撃を喰らってしまった。
 咳き込んだ雷斬は地面に倒れると、全身が水浸しにされる。
 着ていた服が濡れると肌が透け、柔肌がピタッとしたため露わになった。

「ううっ、雷斬、大丈夫?」
「は、はい。ですが……」
「ですがの前に、雷斬、肌が透けてるよ?」
「そうですね。ですが今は大丈夫です。ここには私とアキラさんだけ。それよりもやるべきことは……」

 雷斬は自分のみに起きた事は、一切見向きもしなかった。
 そのことにアキラは動揺するも、すぐさま意識を切り替えると、言葉を繋げた。

「やるべきこと……寒天スライム、どうやって倒したらいいんだろう」

 正直、ここまでの相手とは思っていなかった。
 完全に舐めていたアキラと雷斬の敗因。
 ここは一度で直すのも手だと思ったのも束の間、雷斬は雷氣十手丸を手に立ち上がる。

「まだ手は残されています」
「そうなの?」
「はい。今までは私達だけの、あくまでも技術的な力を見せていただけです。ともなれば、それ以外を信じるのも一つの手ではないですか?」
「つまり、武器とか地形とか、そういうこと?」
「ご名答です。流石はアキラさんです。ですので、まだ諦めるには早すぎますよ」

 雷斬は全くと言って良い程、臆してはいなかった。
 むしろここからが正念場だとばかりに楽しんでいる。

「そっか。それじゃあ頑張ってみようよ」
「はい!」

 闘志をその目に燃やしていたので、アキラも負けられないと奮起する。
 コクリと首を縦に振り、自らも立ち上がると、頑張ってみることにした。
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