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◇491 雷氣十手丸

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 雷斬は自分が選んだ箱を開ける。
 開ける選択肢しか用意されておらず、ゆっくり慎重に黒い箱を開けた。

「どんな刀が入っているのかな?」
「そうね。できれば当り障りのない知りものの方が良いと思うわよ?」
「それはそうですけど……雷斬ならピーキーな代物でも扱える気が……」

 とは言え、どんな刀が出て来るのか完全ランダム。
 恐る恐る黒い箱を押し開け、パカーンと中身を露わにする。

「これは……」
「な、なにコレ?」

 黒い箱を押し開けると、何か演出がある訳でもない。
 煙が出て来ることも無く、瞬きをしてしまうと、そこに納まっていたのは一振りの刀。
 とは言え、その見た目は不思議で仕方がない。
 稲妻が走る模様の施された黒塗りの鞘に納まっているが、如何にも一部余ってはみ出している。

「はみ出しているよ? こんな刀ってあるの?」
「うーん、普通は無いと思うけど……」
「ですが見てください。この部分、刀身の一部の様ですよ。むしろ鞘の方が付けたされています」
「さ、鞘が付けたされるってなに?」

 つまり、この刀のためだけに専用の鞘が用意された。
 そんな話は当たり前かもしれないけれど、一体本体がどんな性能か気になる。
 ゴクリと息を飲み見守る中、手にした雷斬は刀を試しに鞘から抜く。

「貴方のことを見せていただきましょうか……えっ?」
「なんだろ、この変な形」
「十手かしらね?」
「「十手……確かに、十手かも」」

 
 〇雷氣十手丸
 分類:武器(刀) レア度:不明
 攻撃力:+125
 性能:十手の形をした謎の刀。雷の電力を刀身に貯めておくことができ、放つことも可能。ただし扱いは非常に困難で、並みの腕では疲労が蓄積される。


「と書かれていますね」

 ちゃんと設定が施された刀だった。
 雷氣十手丸。確かに十手の形をしているだけに、名前も凝られていた。
 けれども一番目を惹くのはそこじゃない。
 気になるのは心機一転された説明欄で、かなり見やすくなっていた。

「まだアプデが入ったんだ」
「一体いつ入っているんでしょうね?」

 感心するを通り越して、あまりにも凄すぎた。
 CUを作って、運営してくれている会社の人を讃えたくなる。
 そうなるのも無理はない程忙しなく、何気なくGAMEを遊んでいても痛感した。

「いや、そこじゃないと思うけど……」
「「他に見るところがあるんですか?」」

 ソウラだけはそんなアキラと雷斬の感心とは別の部分を見ていた。
 まさしく関心で、如何やらこの刀は相当凄い物らしい。
 確かに見た目も上手くまとまっていて、頭の中にあるイメージの十手をそのまま刀サイズにまで伸ばしたみたいで美しい。

「雷斬、重さはどう?」
「少し軽いですね。ですが扱えますよ」
「そっか。ちなみに十手の短い部分はなに?」
「これは鉤ですね。この部分に相手の刀を挟み込むことで、武器を奪ったり動きを封じたりするんですよ。知らなくても無理はないことなので、訊いていただきありがとうございます」

 雷斬はテキパキと説明してくれた。
 しかも謙虚な態度を取り、興奮を極力抑え込む。
 それだけ手にした刀が自分に合っているのか、目線が完全に奪われている。

「それでソウラさん」
「ん、なに?」
「この刀の関心の部分は一体何処なのでしょうか?」
「そう言えば、この武器の凄みって何処なんですか? もしかして雷を貯められるとか……」
「気が付いているのなら必要ないわね」
「「はぁ?」」

 正直、アキラも雷斬も気が付いてはいた。
 けれど他に目を惹く部分がありすぎ、ましてや雷斬自身が雷になれる。
 そのせいも有り見劣りしていたが、この刀の凄みとは、つまり雷斬との圧倒的な相性の良さにあった。

「確か雷斬は雷を纏えるのよね?」
「はい。私の種族スキルは確かに雷に関連していますよ」
「それなら好都合ね。雷を貯めることができるのなら、それだけ攻撃力に加算できるはずよ」
「確かに……今まで私が無理にしていたことを現実的に行えるとなると、より洗練された動きで相手を翻弄できますね。それは私には理に適っているかもしれません」

 雷斬もこの刀の強みを自らの手で見いだせていた。
 おかげで頭の中が空っぽになるほど、順調な想像が肌に染み付く。

「良かったね、雷斬。この刀があれば、雷斬はもっと……」
「そうですね。皆さんのために、皆さんの刃として全うできそうです」
「あっ、そこは自分のためじゃないんだ……雷斬っぽい」

 なんだかんだ言っても、雷斬は雷斬。
 それ以上でもそれ以下にもなることは無く、自分自身の役目を全うすることに全力になる。
 それが雷斬の性格であり、本望であると容易に想像が付く。

「ソウラさんもありがとうございました。刀刃さんから受け取ってくれて」
「ふふっ。それくらい良いわよ……でも、一つだけ気になるのよね」
「気になるってなにがですか?」

 何故かソウラは薄い笑みを浮かべていたものの、ソッと目を逸らしてしまった。
 一体何を見ているのか。まるで空になったグラスを覗き込むようだ。

「刀刃……あれだけの技術を持ったプレイヤーが、どうして表に出ないのかしらね」
「それって人見知りとか?」
「そうだとしても、名前の一つや二つは出て来ていてもおかしくはないわよ。これだけのポテンシャルのある武器を打てる生産職、本当なら何処にもお抱えがいておかしくはないわ」
「そ、そんなに……凄い」

 もうそれしか出なかった。
 アキラにはそれ以外に言えることは無い。
 けれど刀刃と対面して、一つだけ気が付いたのは、職人気質であり、人目を避けるような態度を取る、まさに本物の武器職人である一面だった。それを痛感して受け止めると、アキラも空を見上げて、心が空になるのだった。
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