VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?

水定ユウ

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◇490 刀を選ぼうの時間

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 アキラと雷斬はギルドホームを飛び出した。
 目指すはDeep Skyの営むアイテム屋。
 雷斬は初めて立ち寄るので少し興奮気味で、緊張しているようだ。

「緊張しますね」
「口にも出してる。そう言えば初めて行くもんね」
「はい。一体どんな店構えを……ここですか?」
「ここだよ」

 アキラと雷斬はソウラたちDeep Skyのアイテム屋にやって来た。
 ウッド調過ぎる店構えを前にすると、何故だろう。少しだけ足が竦む。
 しかしこうしている間にもソウラがジッと待っている。そう思うと早く会うべきだと心が馳せ、見せの扉を開けようとした。

「あれ?」
「どうしましたか?」
「……開かない」
「えっ? お留守でしょうか?」

 アキラは首を捻ってしまった。
 正直ソウラから連絡が前持ってきた上、今日行くことも伝えていた。
 にもかかわらず居ない。もちろんログインもしている。なのに店は開いておらず、完全に行き違ってしまったらしい。

「どうしよう」
「仕方ありませんね。一度出直しましょうか」
「う、うん。そうするしかないね」

 アキラたちは諦めて帰ろうとした。
 せっかく出て来たのに、馳せていた心が無に帰する。
 溜息が零れそうになると同時に申し訳ない気持ちにもなると、不意に訊き馴染みのある声が聞こえた。

「アキラ、雷斬」
「「この声は……ソウラさん!」」

 振り返ってみると、そこに居たのはソウラだった。
 いつの間に後ろに居たのか。全く気が付かず、正直驚いてしまう。
 けれどこうして会えただけで救いだ。
 ホッと胸を撫で下ろすと、ソウラはアキラたちに寄る。

「ごめんなさい。今、お店の棚卸中で」
「だから閉まっていたんですね」
「ええ、そうなの。少し散らかっているから、入るのもやっとで」

 何故このタイミングなのか。まるで計ったようで怖い。
 アキラと雷斬は約束を取った見ではあるものの、怪訝な表情を隠せない。
 頑張って顔に出さないようにしつつ、ソウラのことを見つめると、代わりに別の場所を提案する。

「この近くに公園があるでしょ? そこで話しましょ」
「公園ですか? いいですね」
「私は構いませんよ。それでは皆さん行きましょうか」

 ソウラの提案もあり、急遽場所を移すことになった。
 ここから一番近い公園。もちろん噴水広場のことじゃない。
 少し離れた場所にある、緑豊かな公園だった。

「ここなら大丈夫そうですね」
「ええ。ここならコレを見せても大丈夫ね」

 アキラたちは迷わず公園にやって来た。
 遊具が幾つかあり、プレイヤーやNPCの影もチラホラ。
 けれど欲しかった屋根付きの円形ベンチは開いていて、アキラたちは独占するように腰を下ろした。

「それでソウラさん、刀刃さんは?」
「それがアキラの名前を口にした後、店にコレを置いて行ったのよ。お代は良いって言って、余ったものは売り物にしてもかまわないらしいわ」
「売り物にしてもいい? 上機嫌ですね」

 どうせならその調子で刀を直接売って欲しかった。
 アキラは内心では不平不満を垂らしてしまうが、決して言葉にはしない。
 押し黙ったままソウラが取り出すのを待つと、インベントリを整理して、円形の机の上に五つの黒い箱を置いた。

「それじゃあ受け取ったものを出すわね」
「お願いします……なんですか、これ?」
「箱でしょうか? それにしてもかなり頑丈な……」

 現れたのは五つの黒い箱。しかもかなり近代的な代物だ。
 まるでジェラルミンケース。アキラがジッと眺めていると、ソウラは続ける。

「ここに五つの箱があるでしょ? この中から一つだけをランダムに開けて、その中に入っていた刀を使うように伝言を残していったわ」
「ラ、ランダムですか? それは流石に運ゲー過ぎませんか?」
「そうよね。出会いは必然。刀との出会いも偶然が引き合いになって生まれた必然とでも言いたいのかしらね?」
「……ソウラさん、ちょっと詩人っぽいです」
「そうかしら? ありがとう、アキラ」

 ソウラは嬉しそうに微笑んでくれた。
 けれどこれは大問題で、五つの黒い箱全ては同じ形。ましてや同じ大きさ。重さも変わらない特注品。
 中身が何かも分からず、その中から相性の良いものを引き当てるのはかなりの豪運が必要になる。

「選ぶのは当然雷斬だよね?」
「そうね。使い手が選び取らないと意味がないわね」
「……責任重大ですね。ですがそうですね……一体どれを開ければいいのか?」

 まるで宝箱だ。それとも昔流行ったゲームでポケ……とかあったけど、それとは全然違う。
 ゴクリと喉を鳴らすと、緊張感が一層強まる。
 瞬きを何度もしてしまうと、血流もやけに速く感じた。

「ちなみに鍵は付いてるんだね」
「あっ、これは飾り。普通に開くけど」
「そうなんですか? 雷斬、簡単に開いちゃうから気を付けて……あれ?」

 黒い箱にはそれぞれが鍵が掛かっていた。
 多分振ってもすぐには開かない。四桁の数字になっていて、これは慎重に選べそうだ。
 そう思ったのも束の間。この鍵はただの飾りだったようで、簡単に開いてしまう代物らしい。
 雷斬が勝手に開けないように忠告しようとするが、視線を飛ばすと、雷斬は適当に手にしていた黒い箱を開けてしまっていた。

「ら、雷斬?」
「す、すみません。何故か体が勝手にこの箱を開けていて……」
「パ、パッションって奴? 直感は信じていいけど、一回開けたら……」

 もう手遅れだった。今更箱は閉まらない。
 そんな代物になっていて、頭を抱えて悩まされる。
 しかしこれが何かの縁かもしれない。そう思った方が心には優しく、アキラは掛ける言葉を選んだ。

「とりあえず信じてみようよ」
「そうですね。私もそのつもりです」

 如何やら雷斬は何かを感じ取っているらしい。
 恐らくは雷斬なりの直感が働いたに違いない。
 ここは意識を切り替えよう。アキラは迷いを切り離すと、雷斬が箱を開けて中身を取り出すのを一緒になって覗き込むのだった。
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