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◇481 合成獣と吸炎竜の拳 

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 アキラとフェルノは首領栗フィッシュを目の前に拳を作ると、臨戦態勢を取った。
体を少しだけ前屈みになると、触手が打ち出されるタイミングで素早く飛び出す。
 一瞬の間に打ち出されたはずの触手は、うねらせてはいたものの、フェルノの手によって乾燥してしまう。動きがやけに遅く、アキラたちが立っていた場所に到達する頃には、首領栗フィッシュの周りを取り囲んでいた。

「アキラ、同時に行くよ!」
「うん。それじゃあ、私は上から攻めるね!」

 フェルノは地面を蹴り上げ、拳を炎で燃やした。
 鋭い爪を生やすと、メラメラと燃える炎が首領栗フィッシュの肌を焼く。
 触手がみるみる内に萎んでいくと、首領栗フィッシュはフェルノを敵視して視線を向けた。

 そうするとアキラの姿が見えなくなる。
 これは好都合な囮と思い、【月跳】を使って高く跳び上がる。
 首領栗フィッシュの視界から完全に外れると、容易に真上を取ることができた。

「おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 眼下ではフェルノが果敢に攻め立てていた。
 炎に燃える拳を引っ提げ、次から次へと攻撃を容赦なく叩き込む。
 首領栗フィッシュは触手を使って何とか応戦するものの、水分が抜け、動きも遅いので一瞬しか捌けない。
 完全にフェルノのペースになっていると、アキラも負けじと落っこちる。

「【キメラハント】:【甲蟲】+【灰爪】!」

 アキラは武装すると、重力に任せて首領栗フィッシュの脳天目掛けて拳を叩き込みに向かう。
 頭を下にしたまま体を右回転し、グルグルとスクリューを描いた。
 遠心力も加わり、完全に死角からの攻撃。
 拳を突き出すと、首領栗フィッシュのどんぐり状の傘に向かってパンチが繰り出された。

「ブルッタラァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」

 首領栗フィッシュは絶叫を上げ、HPが一気に失われる。
 先程までの微かなダメージじゃない。
 半分以上をごっそりと奪い去り、頭の上を星が回る。
 脳震盪を起こしたみたいな状態になり、目を回したまま首領栗フィッシュはフラフラと今にも倒れそうだった。

「アキラ、やってんね! んじゃ。私も行ってみよう。おんどりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 続けざまにフェルノは拳を叩き込んだ。
 炎に燃える竜の拳は首領栗フィッシュにとっては天敵で、鋭い一撃が突き刺さると、全身の水分を蝕んで搾り取る。
 乾燥肌になってしまった体は追いうちの炎に燃えてしまい、火傷によるダメージを受けてしまう。

「おっおっ!? これってスリップダメージってこと? やった。アキラ、後ちょっとで終わるよ」
「そうだね。それじゃあ一気に勝負を決めて……ん!?」

 アキラとフェルノは首領栗フィッシュを倒し切ろうとした。
 視線を預け、一気に押し切ってしまおうと画策する。
 けれど首領栗フィッシュの動きがやけにおかしい。炎に燃えながら苦しむ体を引き伸ばし、触手を四本共ピンと鋭く伸ばしていた。

「なにこの形態?」
「知らないよー。それに一番無防備な足下が開けてるよー」
「そ、それはそうなんだけど……嫌な予感がする」

 アキラは唇をひん曲げると、首領栗フィッシュの異様な行動に怯えた。
 しかしフェルノはこの隙を逃すまいと思い地面を蹴り上げ直行する。
 炎を捲し上げて鋭い拳を叩き込もうとするが、そんなフェルノを嘲笑うみたいに首領栗フィッシュは奇怪な行動、突然回転を始めた。

「な、今度はなに!? うわぁ!」
「フェルノ!?」

 フェルノは鋭く伸ばした四本の足に阻まれ弾き飛ばされる。
 顔面を強く打ち付けたことで、体勢を崩されてしまい、地面に転がり込んでしまう。
 おまけに回転する触手のせいで動くことができない。立ち上がることさえままならず、防御を取ることしかできなかった。

「マズい、マズい、マズいって!」
「フェルノ、大丈夫。動かないで、私がなんとかするから……って言っても、どうすればいいの?」

 アキラは近付きたくても近付けなかった。
 触手がグルグルと回ってしまい、プロペラ攻撃を敢行すると、衝撃波もとんでもなくアキラも吹き飛ばされてしまう。このままだとフェルノは助けることもできない上に、一向にダメージを与えることもできなかった。

「このままじゃ……」

 苦汁を舐めるアキラ。眉根を寄せ、皺を寄せてしまうと悔しさを露わにする。
 拳を握ったままのアキラだったが、嘲笑うみたいに首領栗フィッシュは回転を強めて行く。
 このまま何もできないまま? そんなことさせてたまるか。でも如何したらと悩むと、ビリリと肌を焼いた。

「今のなに!?」

 アキラがパッと踵を返して振り返ると、青白い光が発光していた。
 しかも徐々に近付いて来ていて、アキラの髪をパチパチと掻き揚げると、鋭い熱が頬を焼き通り過ぎる。

「もしかして雷斬?」

 アキラは何となくの想像で雷斬だと断定する。
 その証拠を掴むため、クルリと振り返ると、首領栗フィッシュの足下に雷斬の姿があった。
 全身に雷を纏い、手刀で触手攻撃をいなしてしまう。

「ら、雷斬!?」
「皆さん大丈夫ですか? 私がいなしている隙に、このモンスターを倒してください。お願いします、そう長くは持ちませんよ!」

 雷斬は死ぬ気で時間を稼いでくれていた。
 余裕はそこまで無いようで、武器もなく手刀だけで相手をしているせいだ。
 あまりにも危険な真似をしてまでアキラたちを援護してくれている。その思いを汲み取ったアキラとフェルノは立ち上がり、急いで首領栗フィッシュの足下に潜り込んだ。

「行くよ、フェルノ!」
「アキラもちゃんと合わせてね」
「「せーのっ!」」

 アキラとフェルノは武装した拳を首領栗フィッシュの真下から叩き込む。
 一番無防備かつ好きしかない場所。そんな場所に攻撃を叩き込まれ、触手で軽減もできない。反撃の余地すら与えられなかった、首領栗フィッシュは悲鳴にもならない絶叫を上げると、炎による火傷ダメージを受けてか、HPがみるみるうちに減って行く。

「「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」」

 アキラとフェルノは腹から声を出して叫んだ。
 強い思いを糧にしてここまでの苦労を全うする。
 突き刺さった言葉は痛みに変わり、首領栗フィッシュの残ったHPを失わせるには十分すぎて、全身が粒子に変化していくのだった。如何やら勝利はアキラたちの手に有ったようで、安堵して胸を撫で下ろしたかった。
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