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◇478 一人スキルの応酬

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 首領栗フィッシュは依然としてアキラのことを敵視し、執拗に触手を伸ばして攻撃する。
 鋭い槍のように尖らせると、アキラの腹に風穴を開ける勢いだ。
 それを全部躱すのも骨が折れる作業で、アキラは感覚だけで躱し続けて披露していた。

「効くとか効かないの前に、まずは安定して攻撃を回避できないと……やってみようかな」

 アキラは試してみたいことがあった。けれどあまりにも危険。失敗をすれば命は無い。
 そんな荒業的な賭けをせざるを得ず、アキラはあまり乗り気じゃない。
 けれどこのまま横軸だけを使っていても、アキラ本来の味は活かせない。
 自分でも納得していたアキラは、スキルを更に重ねる。

「やってみよう。【キメラハント】:【月跳】!」

 アキラはスキル【月跳】を使い、足全体を白いふさふさとした兎の毛で覆い隠す。
 これで必要な跳躍量を得られたはず。縦軸の動きも取り入れて翻弄しよう。
 アキラの魂胆は見え見えだったが、首領栗フィッシュはそんなこと知る由もなく、動きが止まったアキラ目掛けて触手を槍にして飛ばした。

 シュパン!

「その攻撃は見えているよ。せーのっ!」

 アキラは触手が到達する寸前に大きく飛んだ。
 地面を蹴り上げ素早く空中に避難すると、首領栗フィッシュを真上から見下ろす。
 正直気持ち悪い見た目をしていた。アキラは「うっ」と嗚咽を漏らすも、すぐさま次の動作に入る。空中に逃げる行為。あくまでもこれは一時凌ぎでしかなく、問題はこの先にある。

「そうだよね。そうなっちゃうよね?」

 首領栗フィッシュは空中に逃げたアキラのことを追った。
 触手を今にも飛ばしてくる雰囲気で、少しでも目を離せば殺される。

 アキラはこうなることを分かっていた。分かっていてもそうするしかなかった。
 あのまま膠着状態が続いていてもアキラにはジリ貧。
 打開策を模索する暇もなく、今はこれしかできないからそうした。

 しかしそれがより一層ピンチを招いていた。
 空中に逃げたアキラは体を捻ることしかできず、このまま攻撃をされれば避けることはまずできない。そんなピンチが今まさに起こっていて、アキラは如何しようと焦る。

「ど、どうしよう。このままじゃ攻撃を……うなぁっ!?」

 そうこうしているうちに触手が飛んで来た。
 余りにも速い。体勢も悪い。反転して見えた攻撃はまさに変幻自在。
 体をギリギリのところで半分捻りなんとか躱すが、アキラは墜落してしまった。

「ヤバいヤバいヤバいヤバい! ど、ど、ど、どうしよう!?」

 アキラは縦軸も横軸ですら活用したにもかかわらず、まるで相手になっていなかった。
 ただ混乱と困惑の罠に落ち、パニックになってしまう。
 こうなった時、一体何をすればいいのか。少しでも冷静になろうとするも上手く行かない。
 普通なら……あくまでも普通ならの話だが。

「一回意識を切り替えて……」

 何万分の一にまで圧縮された時間を、アキラはただただ繰り返す。
 一瞬の時間を前にして、意識だけを切り替え続ける。
 もちろんこんな真似をしても、Nightのように作戦が思いつくこともなければ、雷斬のような卓越した技術もない。けれど、いや、だからこそだろうか。アキラは拳を叩き込みに行く。

「そうだよね。別に倒す必要はない……だったら、出し惜しみなんてしなくてもいいんだよねっ!」

 意識が纏まった。形の無い線のような無数の意識が一つになる。
 束ねられた感覚を全身を研ぎ澄まして確認すると、視界の中に触手が伸びるのが分かる。
 もう狙って来ている。この体勢だと逃げることはできない。となればやれることは限られた。

「【幽体化】は奥の手だから取っておきたいよね。あと、【半液状化】は使ったばかりだから使えない。となると……まともなスキルもないかな」

 アキラは最近【キメラハント】でスキルを奪えていない。
 今あるスキルだけだと心許ない。
 となれば使えるスキルを総動員するだけ。飛んで来た触手攻撃もものともしない立ち回りを見せるしかない。

 シュパン!

「槍じゃなくて鞭? だったら好都合だよ!」

 首領栗フィッシュは槍として飛ばさず、触手をアキラの真上に配置。
 鋼鉄の鞭に変えて一撃で仕留める模様だ。

 しかしアキラにとっては好都合だった。
 槍なら速すぎて躱すので精一杯。しかし鞭なら掴まえられる。

 バシュン!!

 首領栗フィッシュの触手鞭がアキラに襲い掛かる。
 正直見えない。目では追えない。振動だけが空気を引き先、当たっていないのに肌を貫く。
 鋭い痛みと共にHPが削れていないのに死を連想させるも、アキラは一切退く様子もなく、むしろその鞭を掴んでいた。

「ありがとう。おかげで近付けるよ」

 アキラは首領栗フィッシュの触手に【灰爪】を突き立てていた。
 グサリと奥まで深く入り、少し振り回されても決して抜けない。
 もちろん恐怖心は拭い切れないが、アキラはそれでも抗った。
 ほんの少しの可能性があるのなら、アキラは役目を全うする。

「そんなに振っても絶対負けないよ!」

 首領栗フィッシュは鬱陶しいアキラを振り払おうとする。
 触手での攻撃を止め、振り回すことしかできない。
 すると水分が抜けて来たのか、徐々に触手が本体に引き戻され始める。
 目の前には狙っていた首領栗フィッシュの胴体があり、この距離なら攻撃も一発だけなら叩き込めそうだ。

「見えた。せーのっ!」

 こんな絶好のチャンス逃すわけにはいかない。体勢は悪いけれど、アキラは渾身の一発を腕を引き寄せて叩き込む。
 【甲蟲】と【灰爪】で武装した左腕は確実に首領栗フィッシュの胴体へと入り、ほんの少しだけHPを削った。

「ブルラララララララララララララララッ!?」
「えっ、そんなに?」

 たった一発良いパンチを入れただけなのに、首領栗フィッシュは悲鳴を上げた。
 もしかすると防御力自体は低いのかもしれない。
 勝ちの目が見えて来た。アキラは嬉しくなり笑顔を浮かべると、急に【灰爪】が触手から外れて吹き飛ばされた。

「えっ、ぐはっ!?」

 叫ぶ暇なんて無かった。地面に叩き付けられると痛い上にHPも削れる。
 自分で作ったチャンスを自分の手で棒に振った。
 何だか居た堪れない気持ちになりながらも、アキラはすぐに立ち上がり首領栗フィッシュを見る。
 完全に怒っていて、アキラはマズいと思いつつも、【甲蟲】をかち合わせ負けん気を見せるのだった。
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