VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?

水定ユウ

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◇475 本当に捕まるの!?

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 アキラは正直不安だった。いや、めちゃくちゃ不安だった。
 それもそのはず、目の前には罠がある。
 けれどあまりにも原始的な罠で、成功するのかどうかすら分からない。

 大きな箱の中にどんぐりを一つ設置。どん栗の芳醇な甘い匂いを漂わせている。
 如何やらNight曰く、どん栗の匂いはリスにとって好物らしい。
こうして匂いに釣られ、箱の中に入った所が最大のチャンス。自動的に箱の扉が閉まり、捕獲できる仕組みらしい。

「ねぇNight。本当に上手く行くの?」
「さぁな」
「さぁな、って。さっきまで見ていろって言ったよね!?」

 アキラはNightに問いかけた。
 するとNightは根拠があるのか、自分の言葉を訂正するわけではなく、続ける形で口にする。

「まあ落ち着け。確かにお前の言う通り、箱罠は一般的な罠の部類に入る。私らしくないと言えば私らしくないかもしれない」
「そうだよ!」
「だが、それはお前の認識の問題だ。実際、箱罠を選んだ理由はある」
「そうなの? 単純に楽だからじゃないんだ」
「当り前だ。箱罠は現代でも多々使われるれっきとした害獣捕獲用の罠だ。下手に手をこまねいていても仕方ないだろ。ここは適材適所、現代でも有効活用されるよりシンプルな方法を試すのが一番だ」

 アキラはNightの言葉を噛み砕いた。
 要するに、現代でも使われる箱罠を使えば、捕獲できる可能性が上がる。おまけに下手に罠を作る過程も省略できる。まさに一石二鳥の作戦って訳だ。

「うーん、それはいいんだけど……あんな見え見えの罠に引っかかるの?」
「それはそうだが……一応草を上から塗している。隠せてはいないだろうが、視認性は悪いだろ」

 問題なのは罠の隠し方だった。そのまま放置してしまえば、ただの鉄檻だと判り警戒される。そのため上から草を塗して自然のもののように見せていた。
 けれどそれが通用する場所じゃない。あまりにも開けすぎていて、逆に目立っている。
 こんな罠に本当にりっぴーが引っかかってくれるのかな? アキラは心配でならない。

「やっぱり別の作戦も考えた方が……」
「黙れ。来たぞ」
「ほえっ!? あっぷ!」

 アキラは作戦を変えようとした。否、作戦を追加しようとした。
 別の作戦も同時に考えた方が効率も良さそうだからだ。

 けれどそんな必要は無かった。Nightに諭され視線を向けると、そこにはシマリスの姿。赤いリボンもしているから、間違いなくりっぴーだ。
 まさか本当に来てくれるなんて。私は声を上げそうになるが、バレてしまうと困るので急いで口を閉じた。

「ほ、本当に来たよ!」
「当り前だ。どん栗の匂いは特別強いからな。私たちには分からないが、シマリスにとっては格好の餌だ」

 ようやく全てに合点が行った。如何してどん栗に大層な自信を抱いていたのか。
 もちろん意味があることなのは分っていたが、リスにとってはの部分が引っかかっていた。
 如何やらどん栗は私たち人間には効果が無い。けれどリス系の生物にとっては強烈で芳醇な、それこそ行動を制限できるだけの匂い効果があるらしい。そこまで分かっていたからこそ、こうして作戦は無事に成功し、Nightは大層な自信を抱いていたのだ。

「キッキッ!?」

 シマリスはどん栗に釣られて箱罠に近付く。
 如何したらいいんだろうと不安になっている。
 けれどどん栗の匂いは強烈で、シマリスはキョロキョロし始めるが、ゆっくりゆっくり近付く。

「入るぞ」
「本当に捕まるの?」
「見ていろ……ほら、入った!」

 ガチャン! 箱罠が閉じる音がした。
 それと同時に箱罠の中からは「グルルルルゥ!」とシマリスが威嚇する鳴き声を発している。如何やら見事に捕まってしまったようで、シマリスは箱罠の中で暴れている。

「悪いな。飼い主に下に返すまでだ。辛抱してくれ」
「ごめんね。でも少しの辛抱だから安心して」

 アキラとNightは警戒されてはいるものの、優しい言葉を投げ掛ける。
 これも全てりっぴーと飼い主のため。アキラたちは悪者になることにして、箱罠を回収する。
 上部の取ってにNightが手を掛けた。インベントリの中に入れることができないので、このまま持って帰るのだ。

「よし。それじゃあさっさと撤退だ」
「下手にモンスターに遭遇したら面倒だよね」
「おい、ここまで来てフラグを立てるな」
「あっ、ごめん。やっぱり今のはフラグになっちゃうのかな?」
「それを決めるのはお前だ。実際、周囲に敵の気配は無さそうだ」
「うーん、雷斬とベルみたいに殺気は分からないけど……ん!?」

 アキラたちは箱罠を回収して、早く合流することにした。
 けれど周囲の警戒は怠ってはいけない。
 いつモンスターに出遭うか分からないのだ。

 とは言えモンスターの姿は無い。ここまで来たら無事に帰れるかも。
 胸を撫で下ろそうとしたアキラだったが、その瞬間嫌な気配を周囲から感じ取る。

「どうした、アキラ?」
「Night、急いでみんなの所に戻ろう。なんだか嫌な予感がする」
「嫌な予感? そうだな。とは言え私は体力は無いぞ」
「そんなの分かってるよ。それじゃあ行こ……はっ!?」

 アキラはNightの手を握った。すると背中から悪寒を感じた。
 近くに何か居る。明らかにモンスターの気配だ。

 ドスンドスン!

 けたたましい音が森の中を掻き分ける。
 枯葉の残った落葉樹から、振動で枯葉を奪い、チラチラと地面に落ちる。
 針葉樹も振動で幹が軋んでいた。周りの枝に止まっていた鳥たちが騒めいて、ガサガサと飛び立ち、空を黒い影で覆った。ここまで来ると流石に分かるが、モンスターとの接敵は免れない。

「Night、ちょっと下がってて。ここは私が……って、なにこのモンスター!?」

 アキラはNightとシマリスのことを思ってしんがりと努めようと決めた。
 Nightの手を振り切って立ち止まり踵を返す。両腕を【キメラハント】:【甲蟲】で武装する。どんな相手も掛かって来い。その気持ちで迎え撃とうとしたのだが、残念ながら上手く行きそうにない。

 目の前に現れたそれはとにかくデカい。
 エイのような形をした傘を被ったモンスター。第一印象はそんな感じで、ポカンと口を開く。
 気持ち悪い見た目をしていて、アキラは脚を竦ませそうになった。
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