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◇474 どんぐりで捕まえろ

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 アキラたちはシマリスを追いかけ、森の中へと入った。
 森の中は針葉樹ばかりかと思っていたが、如何やら落葉樹もある。
 けれど茶色になった葉っぱが枝に付いたままで、地面には木の実も落ちていた。

「うーん、餌は豊富だな」
「そうだね。でもあの子、いなくなっちゃったよー?」
「シマリスのりっぴーだよ、フェルノ。何処に行っちゃったのかな?」

 アキラたちはキョロキョロと視線を見回す。
 けれど一見してみれば、シマリスの姿は何処にもない。
 きっと広大な森の中で身を潜めてしまったんだ。
 こうなった以上、見つけて捕まえるのは骨が折れそうだった。

「すみません、私が捕まえ損ねてしまい」
「雷斬のせいじゃないよ。それより、りっぴーを探してみよう。もしかすると、まだ近くにいるかもしれないから」

 アキラは落ち込む雷斬を励ますと、全員で近くの木の上や草むらの中を探してみる。
 けれどシマリスの体は小さい。おまけに色合いも景色に同化している。
 中々見つけることはできず、ましてやこうして悪戯に時間を消費するのも危険だった。

「うーん、全然見つからない」
「マズいな。このまま時間を浪すれば、モンスターに食われるかもしれないぞ」
「ええっ!? そんなことになったらマズいよ」
「だろうな。だから闇雲に探すのは無しだ」

 そう言うと、Nightは探すのを止めた。むしろ諦めてしまった。
 マントに付いた草や枝を掃うと、インベントリの中からアイテムを取り出す。
 何か良いアイテムがあるのかな? アキラは期待していると、Nightが手にしていたのは大きめのどんぐりだった。

「コレを使う」
「えっ、はっ? Night、おかしくなっちゃった?」

 アキラはドン引きしてしまった。それもそのはず、冷静沈着なNightらしくなかった。
 完全に馬鹿になったのかなと、Nightを心配してしまう。
 けれどNight自身は大真面目らしく、本気でどんぐりを手にしていた。

「悪いが大真面目だ。私はどんぐりを使って捕まえる」
「ど、どんぐりで捕まるの? りっぴーが!?」
「りっぴーがどうかじゃない。私はリスを捕まえるためにここに来たんだ」
「それはそうだけど……本当に大丈夫?」
「無論だ」

 あまりにも自信満々で、アキラは眉根を寄せてしまう。
 余計に心配になってしまうと、Nightは不敵な笑みを浮かべた。
 まるで「付いて来い」と言っている様子で、アキラはこの場所をフェルノたちに任せ、Nightに付いて行く。

「あっ、待ってよNight!」

 アキラはNightを追い掛けた。
 雷斬とベルは気が付いているかもしれないが、何も言わない。
 きっとアキラたちが別の方面に探しに行ったと思ったのだ。
 そのおかげか、変に気を遣わせることもなく上手く抜け、アキラはNightの背中を捉える。

「Night、どんぐりを使ってなにするの?」
「なにをするもなにも、改めて言わせるな。どんぐりを餌に捕まえるに決まっているだろ」
「決まっているだろって……どうやって、ただのどんぐりでしょ?」

 アキラはそう言うと、Nightは表情を訝しめる。
 眉根を寄せて皺を額に作ると、今にも溜息を吐きたそうにする。
 もしかして、ただのどんぐりじゃない? そう思ったのも束の間、Nightはアキラにどんぐりを見せた。

「よく見てみろ」
「見てみろって言われてもただのどんぐり……じゃない!?」

 アキラは見せつけられて気が付いた。
 Nightが手にしていたのは大きめのどんぐり。
 形も色艶も何もかもどんぐりだけど、何処となく栗っぽい。
 もしかして、どんぐりっぽい栗? はたまた栗っぽいどんぐり? 微妙な差だけど、絶妙に間違えちゃダメそうだった。

「もしかしなくても、特別などんぐりってことだよね?」
「当り前だ。コレはどん栗だ」
「どん、栗? えっ、それってどんぐりじゃなくて、栗じゃないの?」
「いや、コレは栗じゃない。正式にどんぐりだ」
「えー」

 何だかギャグ要素が強い木の実だった。
 アキラは口をポカンと開けそのままひしゃげてしまう。
 けれど鼻の頭を摘まむと、考えるのも止めた。一旦意識を切り替え、余計なことは置き去りにする。

「うん、分かったよ。それじゃあそういうことにしよ」
「お前、今適当にあしらったな」
「もちろんあしらったよ? でもさ、それも仕方ないよね? だってこのタイミングでどん栗だよ? もう少しで一年経つのに、そんなギャグ要素満点のアイテムが出て来るなんて、普通思わないでしょ?」

 アキラは思っていたことをNightに言った。
 けれどNightは今一度溜息を吐きそうになる。
 アキラのことを愕然とした態度で視線に収めると、首を横に振った。

「いいか、アキラ。忘れるのは勝手だが、ここはGAMEだぞ」
「それは分かってるよ?」
「それじゃあ改めるが、ここは別に本格派のダークファンタジーじゃない。大衆的、けれど何処か謎が多いファンタジーMMORPGだ。少しはギャグの要素が有っても不思議じゃないだろ」
「それはそうだけど……って、効果の方だよ。本当に使えるの?」

 アキラは風向きが悪くなり始めたので、素早く話題をすり替える。
 するとNightも分かっていたけれど、アキラに合わせた。
 手にしていたどん栗をクルリと回転させると、「見ていろ」と言って森の真ん中に罠を仕掛けた。

 あまりにも単純な罠で、引っかかるかは五分五分。
 アキラはNightらしくないなと思った。

 けれどNight自信満々で、気の裏に隠れると待機し始める。
 アキラも罠にかかってくれることを一応信じつつ、ゴクリと息を飲むのだった。
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