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◇472 配信するらしい

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  二月も終わりになると少し暖かい。
 そう思えるのももう少しで三月。初春になるからかもしれない。
 とは言え昨今の季節柄、季節感も元に戻りつつある。
 だからもう少し寒くて、梅が咲く頃かなと思い始めていた。

「ううっ、寒いのか寒くないのか分からないよー」
「うん。でも私は暖かいよ」

 とは言えまだコートは羽織っておきたい。
 明輝と烈火はいつも通り一緒に学校に向かいつつ、季節の風に煽られていた。


「あー、早く遊んでみたいね」
「確かに、面白そうかも」

 学校に着くと、教室で由里乃と祭が話していた。
 その周りには何人かクラスの男女が集まっている。
 話の種をいつも抱えている由里乃の周りでは当然のことだけど、なんだか今日はギャラリーが多い。

(なんの話をしているのかな?)

 明輝はそう思いつつ、烈火と一緒に教室に入る。
 すると烈火が由里乃の周りのギャラリーにいち早く食い付くと、そのノリで強行突破した。
 話の輪の中にすんなり混ざってしまう。

「おはよー。って、なんの話?」

 烈火はリュックサックを机の端に掛けると、早速訊ねる。
 その輪の中に上手く入り込んだ明輝も「なんの話をしてるの?」と訊ねた。
 すると由里乃は手を挙げて明輝たちを招き入れると、話しの大筋をサラッと説明する。

「二人は知ってる、CUって」
「「CU? Creatures Unionのこと?」」

 明輝と烈火は互いにアイコンタクトを交わすと、もしかしても何も知っていたので答えた。
 すると由里乃はパチンと指を鳴らすと、「流石に知ってるわよね。って、確かもう遊んでいるんだっけ?」と烈火のことを指さす。
 その動きに周りも視線を奪われると、烈火は気圧されることもなく首を縦に振った。

「もっちろん! 私も明輝も遊んでいるよ」
「うん。楽しいよ。普通のGAMEじゃないから、なんでもできる気がする」

 明輝がそう説明すると、由里乃は目をキラキラさせた。
 周りの視線も一斉に集まり、何だか怖い。
 そう感じた明輝だけど、由里乃は「いいなー」と呟く。

「まだロット数少ないから、早く再販して欲しいな」
「そう?」
「もう、祭も一緒に遊ぶんだよ。ねえ、二人共。私たちも始めたら、一緒に遊ぼう!」
「もちろんいいよ。私たちのギルドメンバーも紹介したいな」
「そうだねー。個性強いもんねー」

 二人とそんな約束をした。だけど友達と遊ぶGAMEはやっぱり楽しい。
 仲の良い人たちと一緒に遊べ、顔馴染みでもない人と距離を置くかもしれない蒼伊のことも懸念しつつも、やっぱり楽しみたかった。

 そんな話をしていると、やっぱり気分的にも盛り上がる。
 そんな中、由里乃は天を仰ぎ、何事もなく呟いた。

「うーん、この調子で配信にも載れたりして」
「配信に載りたいんだ。って、配信ってなに?」

 突飛なことを由里乃が呟く。
 一瞬明輝も烈火もスルーしたが、やっぱりスルーしきれない。
 配信ってなんのことなのか全く分からず、首を横に捻ってしまう。

「あれ、知らないの? この間公式SNSで告知があったって、ネットニュースになってたよ?」
「それってBIRDのこと?」
「えーっと、あっ本当だ!」

 烈火はすぐにスマホで調べた。
 すると固定されているみたいですぐに見つかると、明輝にも見せた。
 確かに〔公式配信開始! 第一回は次回イベントの名場面を切り抜きにしてお届けするよ〕と書かれている。

「えっと、切り抜きを配信するの? 今の時代?」
「今の時代だからじゃないかな?」
「昔流行ったらしい」
「昔って、何十年昔なの? って、技術は進歩しても、名残を残している部分もあるのかなー?」

 烈火は一人で納得をした。
 確かにこの時代、昔のものをリバイバルすることが多い。
 特にこの街では多いことで、この街、この市を中心に抜け出せない。

「でも次回イベントの切り抜きってなに?」
「うーん。それは分からないかな。でも、最近イベントが多いみたいでしょ?」
「確かに多いかも。でも、モンスターの討伐が多いかな?」
「確かにねー。でも楽しいよー」

 多分モンスターの討伐シーンを切り抜くんだ。
 明輝は何となくそんな予想をしつつも、もしかしたら対人戦かもと思った。
 別に明輝は対人戦は好きじゃない。だからあまり乗り気ではないけれど、由里乃は配信を楽しみにしていた。

「うーん。私も載ってみたいな」
「だったら遊ぶしかないよ」
「VRドライブは有っても、GAMEが無いのよ。うーん、早く春にならないかな」

 由里乃と祭はいつものように軽口を叩き合う。
 お互い親友らしく、フランクな態度だった。

「それにしてもどんなイベントなのかな?」
「どのみちやってみるしかないよー。あはは」

 明輝も烈火に軽口を叩いた。
 けれど口論になることも予想することもない。
 とりあえずやってみるしかない精神はまさしくハングリー精神で、その気持ちに感化された明輝も何だかんだ楽しみに思った。
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