上 下
456 / 559

◇453 雷斬・天狐VS雪将軍2

しおりを挟む
「それでどうやって本気出さすの?」

 天孤は雷斬に訊ねた。
 雪将軍の本気を出させるとは言っても、如何にして本気を出させるのか。
 中途半端な力じゃ雪将軍を倒すことはできない。
 となれば、ちゃんと雪将軍を煽るしかない。

「そうですね。とりあえず、けしかけてみましょうか」

 雷斬は黒刀を握りしめると、今一度【雷鳴】を呼んだ。
 全身に雷を纏わせると、鋭く駆け出す。
 雪将軍の体勢に隙は無い様に見える。全身から迸る殺気にもムラはない。
 けれどどんな相手にもほんの一瞬、隙は生まれるので、雷斬は的確に懐に忍んだ。

「そこです!」

 雷の電光と共に姿を現しにした雷斬。
 雪将軍の鳩尾が目と鼻の先にある。

「アマイ! ソノテイドデワシヲヤレルトオモウナ!」

 雪将軍は雷斬の姿を見つけると、太い腕を伸ばした。
 ゴツくて大きな手を使い、雷斬のことを投げ飛ばそうとする。
 けれど雷斬は一切避ける気はない。投げられる前に仕留めるのだ。

 雷斬が突き立てた黒刀は腕の中に隠されていた。
 左腕の丁度死角。クルンと回して、肘打ちをするみたいに鳩尾に突き刺す。

 グサリ!

 黒刀の切っ先が雪将軍の鳩尾を貫く。
 相当のダメージがあるはず。確信を持った雷斬だったが、如何やらそう上手くも行っていない。視線を上げ、頭上のHPバーに目を凝らすのだが、何故かHPが減っていなかった。

「えっ!? ぬあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 驚いている間に雪将軍に捕まった。
 そのまま握り潰されると思ったが、そんな残酷なことにはならずに済んだ。
 変わりに思いっきり投げ飛ばされると、雷斬は受け身を取ることに全力になる。

「ここで受け身を取れば……」
「トラセヌ! ツラヌケ、ワガヤイバヨ!」

 雪の上に綺麗に受け身を取ろうとする。
 けれど雪将軍は読んでいたようで、雷斬が受け身を取ろうとした雪の上に仕掛ける。
 着地を目の前にした瞬間、降り積もった雪が盛り上がる。
 すると地面の中から鋭く尖った氷の刃が突き出て、雷斬のことを貫こうとする。

「そんなことまでできるんですね! それなら私もやることをするだけです」

 雷斬は瞬時に理解すると、頭を使って必要な数の刃を生み出す。
 【陣刃】が展開され、突き出た氷の刃をカンカンと軽快な音を立てながら、弾いていく。
 まるでピンボールのようで、雷斬のことを意図的に吹き飛ばした。

「おっとっと! これは流石に堪えますね」

 雷斬は何とか離れた場所で受け身を取った。
 しかし体を変に捻ってしまったせいで、HPとは関係なく体を痛める。
 使っていない右腕を犠牲にしつつ、雷斬は何とか即死を切り抜けた。

「いける、雷斬?」
「天狐さん。はい、大丈夫ですよ」

 天孤は姿を消していたようで、素早く雷斬の下へとやって来た。
 フッと沸いた天狐に雷斬は目を開くが、心配されているので心配は無いと答える。
 けれど腕を抑えているせいか、あまり大丈夫とは言えない。
 天孤は雷斬の体を心配しつつ、余計に心労を掛けないように配慮した。

「まさか防御力も上がっているなんてね、ちょいやりすぎかな」
「そうですね。それにしても雪刃せつじんをあしらわれてしまうなんて、少しだけですが屈辱的ですね」

 雷斬は久々に繰り出した技が容易く防がれたことに、若干だが精神的なダメージを受けていた。
 けれどそれだけ警戒されていた。否、雪将軍が先程戦っていた時よりも強くなっていることに感銘を抱く。怒りで強くなる行為。よくある話だ。
 雷斬も理解は示すものの、流石に同意はできない。

「怒りの感情で強くなったとしても、それは本当に強くなったとは言えません。即ち、雪将軍の全力は既に果たされている。残った原動力は、怒りによる強制だけですか」
「せつないな」
「せつないですか。確かにそうも見えてしまいますね。では私たちが解放して差し上げましょうか」

 雷斬はインベントリからアイテムを取り出した。
 注射器のような形をしているが、中には液体が入っていた。
 透明度の高いもので、毒とは思えない。

 けれど雷斬は注射器を握ると、それを自分の右腕に打ち込んだ。
 天孤は突然の奇行に、雷斬の精神状態を心配せざるを得なくなる。

「それなに?」
「なに言って、アドレナリンを打って一時的に痛みを飛ばしたんですよ」
「そんなんまであるの?」
「はい。アドレナリンとして使われているのはこの世界の野草ですが、この使いきりの注射器はNightさんに託されたものです。なにかあれば痛みを飛ばせ。今がその時です」

 Nightに渡されていたアイテムがここに来て役に立つとは思わなかった。
 いつも以上にHPの消費が多く、【ライフ・オブ・メイク】の回数を減らしていたのはこのためだった。
 しかしこれを使った以上、雷斬も負けるわけには行かなくなる。
 黒刀を強く握りしめると、雪将軍に突き付ける。

「イタミヲクスリデトバシタカ! ダガソウナガクハモタナイハズダ」
「そうですね。確かに長くは持ちません。ですが薬が切れる前に倒してしまえばいいんですよ」
「ワシヲタオス?」
「はい。どんな相手でも、例え大きく開いたレベル差があったとしても、倒せない相手はいませんから。そうですよね、天狐さん」
「そうやな」

 時間的にも十分くらいが限界だろうか。
 雷斬は腕の痛みが引いて来たので、刀を両手で握ってみせる。
 雪将軍は太刀を構えていると、全身から迸る殺気を剥き出しにして飛ばした。
 だが二人は威圧如きではやられる気はなく、むしろ冷たい殺気で雪将軍の殺気を押し返し、拮抗した状況を作り上げる。

「ナルホドノ。ナラバオモイシラセテヤロウ!」

 雪将軍の目付きと口調が変わった。
 何をしようと言うのか。雷斬と天狐は警戒心を剥き出す。
 けれど雪将軍の行動は突飛なもので、太刀を雪の上に突き立て静止する。
 静観を装うつもりだろうか? そう思える程思考回路は停止していないが、雪将軍の見た目や動きに変化が出ることはなく、代わりに動いたのは環境だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……!

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

チート級スキルを得たゲーマーのやりたいことだけするVRMMO!

しりうす。
ファンタジー
VRゲーム【Another world・Online】βテストをソロでクリアした主人公──────雲母八雲。 βテスト最後のボスを倒すと、謎のアイテム【スキルの素】を入手する。不思議に思いつつも、もうこのゲームの中に居る必要はないためアイテムの事を深く考えずにログアウトする。 そして、本サービス開始時刻と同時に【Another world・Online】にダイブし、そこで謎アイテム【スキルの素】が出てきてチート級スキルを10個作ることに。 そこで作ったチート級スキルを手に、【Another world・Online】の世界をやりたいことだけ謳歌する! ※ゆるーくやっていくので、戦闘シーンなどの描写には期待しないでください。 ※処女作ですので、誤字脱字、設定の矛盾などがあると思います。あったら是非教えてください! ※感想は出来るだけ返信します。わからない点、意味不明な点があったら教えてください。(アンチコメはスルーします)

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

処理中です...