446 / 582
◇443 天孤が強すぎる件
しおりを挟む
アキラたちは準備を整え、再び雪将軍のところに戻る。
今度こそは負けない。
いや、まだ負けてはいない。アキラたちは勝つ気満々だった。
ただ勝ちたい理由。それだけではなかった。
一人で頑張って時間を稼いでくれている天狐の加勢。
そのためにも頑張らないとダメだ。いや、頑張りたいと思った。
「天狐さん、大丈夫かな?」
「どうだろうな。流石に一人で二体を相手にするのは厳しいだろ」
Nightも同感だった。
天孤一人で雪将軍とツユヨミを抑え込むのは大変だ。
だけどそれすら余裕だとばかりに、クロユリは心配を一掃する。
「ふふっ、本当に天狐に心配は要らないのよ」
「どうしてそんなに呑気なんですか? 確かに天狐さんは強いですけど」
「それは見たれば一目瞭然の筈ですよ」
クロユリは不敵な笑みを浮かべていた。
目の前には武家屋敷が浮かび上がる。
カキーン! カキーン! 金属を叩く音がした。
きっと今も戦っているはずだ。
天孤の加勢には間に合うはず。
アキラたちはスキルを全力で発動すると、雪将軍の姿を視界の端に捉えた。
「見えたよ! 天孤さ……ん?」
アキラは唇を噤んだ。喉が震え、言葉を出すことができない。
一体なにが起きているのか。目の前で起っているはずのことが捉えられない。
いや、理解しようとすることはできる。
だけどあまりにも逸脱していて、これが本当にこの五分の間に起きた出来事なのかすら怪しい。
「ん? あー、もう五分経ったんやな。なんか早いわぁ」
天孤は飄々としていた。というよりも平然としていた。
携えている刀とは違う、より短い、短刀で雪将軍の懐を刺していた。
一体何が起きたのか。あんなに接近できるなんて信じられない。
刺されたことを認識し、雪将軍は腹を抑えている。
押さえつけるように呻き声を上げると、天狐のことを兜の隙間から睨みつける。
「コノ、ヨクモ、ヤッテ……」
「おお、やっぱしまだ立ち上がれるんやな。凄いわぁ」
雪将軍は膝を使って立ち上がり、太刀を振り下ろそうとする。
しかし力がまるで入らず、容易く天狐に躱されて太刀は空を裂く。
しかし余裕そうな天孤とは対照的にクロユリは呆れていた。
何かを危惧したのか、一瞬だけアキラたちのことをチラ見すると、少しだけ怒っていた。
「天狐、流石にやりすぎですよ? 私たちが出番を攫ってどうするんですか?」
「かんにんかんにん。そやけど時間稼ぎはしたわぁ?」
「それはそうだけど……うん、時間稼ぎよくやってくれたわね。お疲れ様」
「ええわぁ。それよりみんな行けそう?」
天孤は短刀が突き刺さったままの雪将軍を眺めていた。
けれどそのまま放置すると、クロユリたちの下へと戻って来る。
満足したような表情を浮かべていた。
しかしやっていることは非常に惨たらしい。
その証拠に雪将軍は蠢き苦しんでいた。
「時間稼ぎありがとうございます。あの、大丈夫ですか?」
「うん、行けるで。心配してくれておおきに」
「えっと、本当ですか? 無理してませんか?」
「無理してへんで? 逆に無理してるように見えるん?」
天孤はやはり飄々としている。
アキラたちにもにこやかな笑みを浮かべたままで、そこが知れない人だった。
けれどその実力は確かなもの。
アキラと雷斬は直接スキルの効果を喰らったことがあるけれど、それをここまで上手く使われると今、目の前で起きていることが否応にも飛び込んでくる。
きっと壮絶な幻術に掛けられたはずだ。
そのせいだろうか。雪将軍だけではなくツユヨミまでダウン寸前。
完全にアキラたちの出番は存在していなかった。
「天狐さん、強すぎますよ」
「あはは、かんにんや。そやけどこれで良さそうやで」
天孤は完全に勝利を確信していた。ように見せてまだまだ目は笑っていなかった。
同じく視点としては雷斬と同じだ。
雪将軍は膝を使って立ち上がり、腹部に刺された短刀を抜いて、地獄の目を浮かべていた。
アキラたちではない。天狐のことを完全に敵視していて、本気で殺す気だった。
「コロシテヤル。コロシテクレル」
口からも殺気が零れていた。
ただでさえ寒いのに余計にひんやりとして、首筋を切られたみたいに恐怖が渦巻く。
「ちょっと、これヤバいわよ?」
「天狐、貴女はどれだけのことをしたんですか? ちゃんと説明して欲しいですよ」
ベルは弓を構えて応戦する構えを見せる。
しかし雪将軍から溢れる殺気はベルの矢すら弾いてしまいそうだ。
この状況は最悪と見た。椿姫は根本にある天狐がやった行いが気になる。
隣に居る天狐に説明を申し入れると、空を見上げて下唇に指を当てた。
「説明って言うてもな。うちはうちができることを最大限の幻術を以ってして、徹底的に陥れただけやわぁ」
それを聞くだけで悍ましかった。
アキラたちの想像は固いが、天狐はペラペラ喋ってくれた。
自分の活躍を披露すると、雪将軍をより苛立たせるだけだった。
今度こそは負けない。
いや、まだ負けてはいない。アキラたちは勝つ気満々だった。
ただ勝ちたい理由。それだけではなかった。
一人で頑張って時間を稼いでくれている天狐の加勢。
そのためにも頑張らないとダメだ。いや、頑張りたいと思った。
「天狐さん、大丈夫かな?」
「どうだろうな。流石に一人で二体を相手にするのは厳しいだろ」
Nightも同感だった。
天孤一人で雪将軍とツユヨミを抑え込むのは大変だ。
だけどそれすら余裕だとばかりに、クロユリは心配を一掃する。
「ふふっ、本当に天狐に心配は要らないのよ」
「どうしてそんなに呑気なんですか? 確かに天狐さんは強いですけど」
「それは見たれば一目瞭然の筈ですよ」
クロユリは不敵な笑みを浮かべていた。
目の前には武家屋敷が浮かび上がる。
カキーン! カキーン! 金属を叩く音がした。
きっと今も戦っているはずだ。
天孤の加勢には間に合うはず。
アキラたちはスキルを全力で発動すると、雪将軍の姿を視界の端に捉えた。
「見えたよ! 天孤さ……ん?」
アキラは唇を噤んだ。喉が震え、言葉を出すことができない。
一体なにが起きているのか。目の前で起っているはずのことが捉えられない。
いや、理解しようとすることはできる。
だけどあまりにも逸脱していて、これが本当にこの五分の間に起きた出来事なのかすら怪しい。
「ん? あー、もう五分経ったんやな。なんか早いわぁ」
天孤は飄々としていた。というよりも平然としていた。
携えている刀とは違う、より短い、短刀で雪将軍の懐を刺していた。
一体何が起きたのか。あんなに接近できるなんて信じられない。
刺されたことを認識し、雪将軍は腹を抑えている。
押さえつけるように呻き声を上げると、天狐のことを兜の隙間から睨みつける。
「コノ、ヨクモ、ヤッテ……」
「おお、やっぱしまだ立ち上がれるんやな。凄いわぁ」
雪将軍は膝を使って立ち上がり、太刀を振り下ろそうとする。
しかし力がまるで入らず、容易く天狐に躱されて太刀は空を裂く。
しかし余裕そうな天孤とは対照的にクロユリは呆れていた。
何かを危惧したのか、一瞬だけアキラたちのことをチラ見すると、少しだけ怒っていた。
「天狐、流石にやりすぎですよ? 私たちが出番を攫ってどうするんですか?」
「かんにんかんにん。そやけど時間稼ぎはしたわぁ?」
「それはそうだけど……うん、時間稼ぎよくやってくれたわね。お疲れ様」
「ええわぁ。それよりみんな行けそう?」
天孤は短刀が突き刺さったままの雪将軍を眺めていた。
けれどそのまま放置すると、クロユリたちの下へと戻って来る。
満足したような表情を浮かべていた。
しかしやっていることは非常に惨たらしい。
その証拠に雪将軍は蠢き苦しんでいた。
「時間稼ぎありがとうございます。あの、大丈夫ですか?」
「うん、行けるで。心配してくれておおきに」
「えっと、本当ですか? 無理してませんか?」
「無理してへんで? 逆に無理してるように見えるん?」
天孤はやはり飄々としている。
アキラたちにもにこやかな笑みを浮かべたままで、そこが知れない人だった。
けれどその実力は確かなもの。
アキラと雷斬は直接スキルの効果を喰らったことがあるけれど、それをここまで上手く使われると今、目の前で起きていることが否応にも飛び込んでくる。
きっと壮絶な幻術に掛けられたはずだ。
そのせいだろうか。雪将軍だけではなくツユヨミまでダウン寸前。
完全にアキラたちの出番は存在していなかった。
「天狐さん、強すぎますよ」
「あはは、かんにんや。そやけどこれで良さそうやで」
天孤は完全に勝利を確信していた。ように見せてまだまだ目は笑っていなかった。
同じく視点としては雷斬と同じだ。
雪将軍は膝を使って立ち上がり、腹部に刺された短刀を抜いて、地獄の目を浮かべていた。
アキラたちではない。天狐のことを完全に敵視していて、本気で殺す気だった。
「コロシテヤル。コロシテクレル」
口からも殺気が零れていた。
ただでさえ寒いのに余計にひんやりとして、首筋を切られたみたいに恐怖が渦巻く。
「ちょっと、これヤバいわよ?」
「天狐、貴女はどれだけのことをしたんですか? ちゃんと説明して欲しいですよ」
ベルは弓を構えて応戦する構えを見せる。
しかし雪将軍から溢れる殺気はベルの矢すら弾いてしまいそうだ。
この状況は最悪と見た。椿姫は根本にある天狐がやった行いが気になる。
隣に居る天狐に説明を申し入れると、空を見上げて下唇に指を当てた。
「説明って言うてもな。うちはうちができることを最大限の幻術を以ってして、徹底的に陥れただけやわぁ」
それを聞くだけで悍ましかった。
アキラたちの想像は固いが、天狐はペラペラ喋ってくれた。
自分の活躍を披露すると、雪将軍をより苛立たせるだけだった。
10
お気に入りに追加
223
あなたにおすすめの小説
後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~
夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。
多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』
一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。
主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!!
小説家になろうからの転載です。
【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました
鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。
だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。
チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。
2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。
そこから怒涛の快進撃で最強になりました。
鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。
※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。
その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~
青空顎門
SF
病で余命宣告を受けた主人公。彼は介護用に購入した最愛のガイノイド(女性型アンドロイド)の腕の中で息絶えた……はずだったが、気づくと彼女と共に見知らぬ場所にいた。そこは遥か未来――時空間転移技術が暴走して崩壊した後の時代、宇宙の遥か彼方の辺境惑星だった。男はファンタジーの如く高度な技術の名残が散見される世界で、今度こそ彼女と添い遂げるために未来の超文明の遺跡を巡っていく。
※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。
【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
スキル【縫う】で無双します! 〜ハズレスキルと言われたけれど、努力で当たりにしてみます〜
藤花スイ
ファンタジー
コルドバ村のセネカは英雄に憧れるお転婆娘だ。
幼馴染と共に育ち、両親のように強くなることが夢だった。
けれど、十歳の時にセネカが授かったのは【縫う】という非戦闘系の地味なスキルだった。
一方、幼馴染のルキウスは破格のスキル【神聖魔法】を得て、王都の教会へと旅立つことに⋯⋯。
「お前、【縫う】なんていうハズレスキルなのに、まだ冒険者になるつもりなのか?」
失意の中で、心無い言葉が胸に突き刺さる。
だけど、セネカは挫けない。
自分を信じてひたすら努力を重ねる。
布や革はもちろん、いつしか何だって縫えるようになると信じて。
セネカは挫折を乗り越え、挑戦を続けながら仲間を増やしてゆく。
大切なものを守る強さを手に入れるために、ひたむきに走り続ける。
いつか幼馴染と冒険に出る日を心に描きながら⋯⋯。
「私のスキルは【縫う】。
ハズレだと言われたけれど、努力で当たりにしてきた」
これは、逆境を乗り越え、スキルを磨き続けた少女が英雄への道を切り拓く物語!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる