上 下
444 / 559

◇441 頼もしい援軍

しおりを挟む
 空から鬼火が降って来る。
 アキラたちは魅了されてしまい、視線を釘付けになってしまった。

 とっても綺麗な火だった。
 意識がボーっとしてしまい、アキラの意識は遠のいていく。

 しかしそんなアキラのことを引き戻す声がした。
 すぐ耳元で、ふと肩に手を置かれるのが分かる。

「いける、怪我してへん?」

 聞き馴染みのある声だった。
 アキラは目を見開くと、視線の先に金髪の髪に、狐の耳と尻尾。
 それから鬼火を携えた刀を振りかざした。

「ここはうちに任せて、少し下がった方がええわぁ」

 少女=天狐はそう答えた。
 すると胸を突かれると、そのまま戦線を離脱する。
 
「えっ!? うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 離脱すると言っても全然安全じゃなかった。
 高いところから突き飛ばされてしまい、咄嗟に絶叫を上げた。
 それと同時に何を使うべきか、こここそ【幽体化】の筈だ。

「ゆ、【幽体……今度はなにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 アキラはスキルを使おうとした。
 けれどそれすら間に合わなかった。
 今度はなにが起きたのか、腰に植物に蔦が巻き付いて、反発する力で引き寄せられたのだ。

 痛い、痛すぎる。腰が裂けそうだった。
 骨が軋み呻き声を上げる。
 これは死んだなと直感で理解するが、突然柔らかい何かに受け止められた。

「うへっ!」
「ご無事ですか、アキラさん?」

 今度も聞いたことが声だった。
 目を開けて薄っすら視線を移動させると、そこに居たのはクロユリだった。

「クロユリさん?」
「ご無事ですか、皆さん?」

 クロユリは妖艶な笑みを浮かべた。
 如何やらクロユリたち妖帖の雅もここに来ているらしい。

「どうしてここに?」
「雪将軍は強いと聞いていたので、どうしても天狐が見に行きたいと言い出しましてね。乗り掛かった舟です。私たちも手伝おうと思えば、案の状強敵でしたね」

 妖帖の雅はアキラたちの行動を知っていた。逐一連絡を取り情報共有もしていた。
 だからだろうか、雪将軍の出現時間や場所、私達の行動パターンもある程度解釈を取っていた。
 おかげで私たちの窮地に駆け付けてくれたようで本当に助かった。おまけに傍には【椿蔦】を使い全員を回収してくれた椿姫の姿もある。全員無事なようで、誰もやられてはいなかった。

「皆さん、大丈夫ですか?」
「椿さん。は、はい。なんとか……って、なんですか、これ!?」

 アキラは自分を受け止めてくれたものに今気が付いた。
 巨大な黒い百合の花。それがクッションになって体を受け止めてくれていた。
 衝撃を吸収し、地面へと伝わせている。
 見ての通りだが、これがクロユリの種族スキルだった。

「これは私のスキルです。【黒百合】、実に私に合ってはいませんか?」
「は、はい。それにしても便利ですよね」
「そうですね。では、少し距離を取りましょうか」

 距離を取る? この大人数でそんなことができるのか。
 アキラとNightは互いに顔を見合わせると、クロユリは天狐に伝えた。

「天狐、五分程時間を稼げますか? 貴女の狐火が頼りですよ」
「五分でええの?」
「それでは私たちは体勢を立て直しますね。絶対に負けないでください」
「そんなん分かってんで。そやさかいみんなも無事に戻って来てな」

 クロユリはそう言うと、天狐一人を残してその場を一旦離れる。
 動ける人は足で、動けない人は蔦で掬われる。

「クロユリさん、何処まで逃げるんですか? それに天狐さん一人置いて!」
「天狐は大丈夫ですよ。それと何処までと言われればそうですね。武家屋敷の敷地内です」

 如何して武家屋敷の敷地内なのか。アキラは嫌な予感が直感した。
 まさかそんなはずと思ったのだが、椿姫は口走る。

「この武家屋敷は、入るのは簡単ですが外に出ることはできないようですよ」
「つまり外に出られないの?」
「そう言うことです。幻術ではなく、仕様みたいですよ」

 ボス戦らしかった。一度戦いに赴けば逃げることは叶わない。
 弱った状態で果たして突破できるだろうか。
 アキラは雪将軍の厄介さを見て、少しだけ弱音を吐いてしまった。

「出る方法は無いのか?」
「Nightさんなら分かると思いますよ?」
「やはりか」

 Nightが分かり切っていることを口走る。
 クロユリも同感のようで、お互いに唇を噛んでいた。
 
 そうこうしていると、ほんの少しだけ距離を取った。
 まだ武家屋敷の中、入り口付近ではあるが、何やら障壁が張られていてこれ以上先には行けない。
 本当に外に出て逃げおおせることは不可能になっていた。

「本当に出られない」

 武家屋敷の外には出られない。
 となればやれることは限られる。
 アキラもそれを痛感すると、動けないでは行けなかった。

「それじゃあ倒さないとですね」
「当り前だ。落とし前はきっちりつける。もちろん勝利で終わらせるぞ」

 Nightはそう答えると、【ライフ・オブ・メイク】で何かを作った。
 形的には如何やら即興の刀。
 誰用かなど問う必要もない。

「立てるか雷斬」
「もちろんです。ここで終わらせます。ですので私が終わる気はありませんから」

 全回復ではないが雷斬は立ち上がった。
 まだ全身に痺れが期待している。満足には動けないだろう。
 それが分かっているのに立ち上がる姿は感慨深く、アキラたちも負ける気になれない。

「それじゃあ行くよ、みんな」
「私たちもここまで来たからには手伝います。共に打ち勝ちましょう」

 アキラとクロユリ、双方のギルドマスターが宣言した。
 雪将軍もツユヨミもここで倒すと決め、武家屋敷へと戻る。
 そのために回復をしっかり摂り、五分後に動き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

Select Life Online~最後にゲームをはじめた出遅れ組

瑞多美音
SF
 福引の景品が発売分最後のパッケージであると運営が認め話題になっているVRMMOゲームをたまたま手に入れた少女は……  「はあ、農業って結構重労働なんだ……筋力が足りないからなかなか進まないよー」※ STRにポイントを振れば解決することを思いつきません、根性で頑張ります。  「なんか、はじまりの街なのに外のモンスター強すぎだよね?めっちゃ、死に戻るんだけど……わたし弱すぎ?」※ここははじまりの街ではありません。  「裁縫かぁ。布……あ、畑で綿を育てて布を作ろう!」※布を売っていることを知りません。布から用意するものと思い込んでいます。  リアルラックが高いのに自分はついてないと思っている高山由莉奈(たかやまゆりな)。ついていないなーと言いつつ、ゲームのことを知らないままのんびり楽しくマイペースに過ごしていきます。  そのうち、STRにポイントを振れば解決することや布のこと、自身がどの街にいるか知り大変驚きますが、それでもマイペースは変わらず……どこかで話題になるかも?しれないそんな少女の物語です。  出遅れ組と言っていますが主人公はまったく気にしていません。      ○*○*○*○*○*○*○*○*○*○*○  ※VRMMO物ですが、作者はゲーム物執筆初心者です。つたない文章ではありますが広いお心で読んで頂けたら幸いです。  ※1話約2000〜3000字程度です。時々長かったり短い話もあるかもしれません。

ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜

八ッ坂千鶴
SF
 普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。  そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……!

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

チート級スキルを得たゲーマーのやりたいことだけするVRMMO!

しりうす。
ファンタジー
VRゲーム【Another world・Online】βテストをソロでクリアした主人公──────雲母八雲。 βテスト最後のボスを倒すと、謎のアイテム【スキルの素】を入手する。不思議に思いつつも、もうこのゲームの中に居る必要はないためアイテムの事を深く考えずにログアウトする。 そして、本サービス開始時刻と同時に【Another world・Online】にダイブし、そこで謎アイテム【スキルの素】が出てきてチート級スキルを10個作ることに。 そこで作ったチート級スキルを手に、【Another world・Online】の世界をやりたいことだけ謳歌する! ※ゆるーくやっていくので、戦闘シーンなどの描写には期待しないでください。 ※処女作ですので、誤字脱字、設定の矛盾などがあると思います。あったら是非教えてください! ※感想は出来るだけ返信します。わからない点、意味不明な点があったら教えてください。(アンチコメはスルーします)

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

処理中です...