VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?

水定ユウ

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◇438 幻術を無理矢理突破して

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 アキラたちは雷斬一人を残して逃走していた。
 あの場に居ても勝てる見込みがない。そう思った訳じゃない。
 単純に雷斬がしんがりを務めてくれたおかげで余裕ができただけだ。

「はぁはぁ……はぁはぁ、ねえ、本当に逃げてもいいのかな?」
「ん? 逃げても良いに決まっているだろ」
「雷斬だけ置いて来ちゃったんだよ! 絶対ヤバいよ!」

 雷斬一人で雪将軍を倒し切れるだろうか。もちろん信じてはいる。
 だけど雪将軍は明らかに強そうで、一人で勝てることを想定しているモンスターとは思えない。
 おまけにまだこの武家屋敷には幻術が掛けられている。
 そんな状況を見過ごして良いのか。アキラは不安が過ったが、ベルの一言が飛んで来た。

「雷斬は強いわよ。だから大丈夫」
「ベル……」
「私の親友を舐めちゃダメよ。今頃本気になっているわ。だから私達は頼りになる剣士に背中を任せて、さっさと外に出るの。そうしたら私達の方が有利でしょ?」

 ベルの言葉には信頼が強く込められていた。
 それだけ雷斬の腕を信じているのだ。
 確かに考えるだけ野暮だろう。アキラもベルの言葉と雷斬の腕を信じる。
 頭の中で意識を切り替えると、コクリと首を縦に振った。

「そうだね。それじゃあまずは……」
「外に出ることだ。とは言えマズいことはあるがな」
「マズいこと?」

 Nightがチラチラ視線を配っていた。
 顔色は前を走っているから見えないが、視線の動きから廊下や壁を気にしている。
 その瞬間アキラだけではなく全員の脳裏に嫌な予感が走る。
 まさかとは思うが、そんなベタなことが待っているとは思わなかったのだ。

「もしかして出られない?」
「そう言うことだ。どうやら幻術が強まっているな」
「それじゃあ外に出られないよー」

 フェルノが嘆いた。だけどそうなりたくもなる。
 武家屋敷の廊下をひたすらグルグル回っていた。
 こんなことをしていたら、いつか居るかも分からないが追っ手に追い付かれる。
 グッと奥歯を噛むと、Nightは縁側を見た。庭には白い雪が降り積もって来ている。

「仕方ないか。おい、さっきと同じことをやるぞ!」
「さっきってなに? もしかして幻術を強制的に突破するの?」
「それしかないだろ。本来こんな突破法は推奨されていないんだろうが、その方が私達らしいだろ?」

 確かにそうだった。今までも運営が意図していない無理矢理な突破口で窮地を脱して来たのだ。アキラたちはそれならばと思い、いっそのこと無理矢理ととことん追求することにした。
 廊下をグルグル回るのは止めだ。庭が見える縁側で立ち止まると、それぞれスキルを使って幻術を物理的かつ無茶なやり方で破壊しようとする。

「【キメラハント】:【甲蟲】! そらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「【吸炎竜化】! せーのっ!」

 アキラとフェスタは拳を突き出した。
 すると幻術が具現化し、壁となって阻んでしまう。
 唇を噛み締め単純に物理だけで突破できるとは思えない。
 もしかすると、鼻っから運営陣も考えを巡らせ、物理的な突破を否定しているのだろうか。

「なるほどな。ここに来て私たちの行為を否定して来る。それならばやることはシンプルで良い」
「そうね。私も何射か射てみるわ」

 ベルは弓を構えて矢を射る。
 しかし物理的に具現化した幻術の前には矢が透過しているのかも分からない。
 もっと言えば、本当に目の前に広がるのは庭で、アキラたちは闇雲になっているのではないかと悟った。

「チッ、ダメね!」
「庭だろうが庭でなかろうが関係無い。とにかく壊す……叩き壊す。今回は私もコレを使う」

 Nightは面白いと思っているのか、それとも気が立っているのか、十字架状の剣を取り出す。
 両手でしっかりと支え、突き出して庭に向かって叩き込む。
 しかしカーン! と切っ先が何かにぶつかって阻まれてしまう。
 やっぱりダメ。そう思ってしまったが、Nightはニヤリと笑みを零す。

「なるほど。ここだな」

 不敵な言葉を呟いた。するとNightは果敢に同じところを十字架状の剣で突き刺す。
 カーン! カーン! 木片にぶつかるような音だった。
 だけど固い。隙間に潜り込むようにNightは十字架状の剣を叩き込むと、そのままスライドさせようとする。

「Nightなにやってるの!」
「そんなことしている暇ないでしょー?」
「そう思うのなら手伝え。とにかくここだ。ここを体当たりでぶち破るぞ!」
「「「はぁ!?」」」

 意味が分からなかった。誰一人として理解できなかった。
 けれどNightは真剣な様子そのもので、とにかく必死に剣を叩き付け続ける。
 一体なにがあるのか。アキラたちは分からないが、それでもやってみるしかないと思い、一斉に体当たりをする。

「それじゃあ行くよ。せーのっ」
「「「うわぁ!」」」

 アキラたちは揃って体当たりをした。
 すると堅い何かに肩を強く打ち痛みが一瞬走る。
 けれどその瞬間バキバキと砕けるような音と共に、体がやけに軽くなる。
 否、軽くなったんじゃない。アキラたちがそう認識した時には、体は倒れ込むように武家屋敷の外へと弾き飛ばされていた。
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