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◇434 力だけじゃ勝てない!
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アキラたちは一斉にその場から逃げ出した。
取り残されたのは雷斬と怒号を荒げる雪将軍だけ。
玉鋼の刀と氷を纏った刀。二つの刃がぶつかり合い、ギシギシと異様な音を奏でる。
正直に言えばかなりマズい状況だった。
雷斬の表情は澄ましたままだが、腕に掛かる力がいつもの比ではない。
少しでも気を緩めれば簡単に体勢を崩される。
それは雪将軍も同じことで、いつでも寝首を掻く準備を雷斬は忘れずにする。
それもそのはず、互いの力が拮抗していた。
体長二メートルはありそうな雪将軍の重たい一撃を技術でしっかり防ぎ切る雷斬。
こんな芸当、普通の剣士にはできやしない。ましてや第二、第三の斬撃、および不意打ちまで警戒している。これら全てを雷斬はたった一人で行っているのだ。
到底できやしない神業に、雪将軍ですら驚いていた。
「ソノウデサスガダナ。ワシノヤシキニムダンデシンニュウシ、アマツサエハカイシタモノノショギョウトハオモエンナ」
雪将軍は片言で聞き取れない言葉を綴った。
しかし雷斬は雷斬で、芯の目をしたまま刀を弾き返す。
「ありがとうございます。ですが幻術を使う卑怯者に手を貸すなど、武士としては風上にも置けませんね」
「ゲンジュツ? タブラカサレルヨワキモノニキョウミハナイ」
雪将軍はそう答えた。ここまでの雷斬その少しばかりの慈悲が掻き消された。
それもそのはず、雷斬はここまでの幻術は第二の宿敵。即ち、雪将軍を操り入れ知恵をした何者かだとばかり思っていた。否、期待をしていたのだ。
しかし雪将軍の口から飛び出したのは、まさかの肯定とも取れる一言。
雷斬は表情に影を落とすと、雪将軍の刀を弾いた一瞬の隙を見逃さず、懐に飛び込んで肩の刃を叩き込もうとする。
鋭い一閃。目にも止まらぬとはまさにこのこと。
身長は大きく、その分体重もある。体格の恵まれすぎている雪将軍にとって、一度でも体勢を崩されれば整えるのは容易ではない。
ましてや雷斬は体勢を整えられないよう、ベストな位置に潜り込んで、崩したままの体に刀を叩き込もうとするのだ。
動く隙すら与えず、反撃の余地など有りはしない。
「終わりです」
「ドウカノ?」
雷斬は渾身の一撃を胴に打ち込んだ。
確実に上半身と下半身の繋ぎ目を切断したはずだ。
しかし実際には三分の一も入っていなかった。
もちろん邪魔をしたのは丈夫な甲冑で、雷斬自身見過ごしていない。
だからこそ留め具の脆い部分を狙ったのだが、残念なことに白い甲冑に阻まれただけじゃなかった。なにか硬いものに受け止められてしまったのだ。
「まさか骨!?」
「イカニモ」
筋肉が凄まじく、まるで鎧のようになっている。そんなアクション映画をイメージした。
けれど実際には筋肉どころか肉、皮膚にすら触れた感覚はない。
刀の刃が透き通るように入っていき、体の中で硬いものにぶつかったのだ。
如何やら骨、特に肋骨に受け止められたと、この時初めて分かった。
「どれだけ強靭な肋骨なんでしょうか?」
「ガハハ。オドロクヒマハナイゾ、コンドハワシノバンダ。ワルイガテカゲンハセンノデナ!」
雪将軍は氷の刀を振り下ろした。
流石に逃げられない。雷斬は懐に入り込んだことでピンチを迎える。
目の前に氷を纏った刀があり、今にもサスツルギが放たれようとしていた。
(喰らえばひとたまりもありませんね)
こんな時でも雷斬は冷静だった。否、こんな時だからこそ冷静な思考が大切なのだ。
刀を鞘に納めて踵を返して逃げ出す。そんなことをすれば背中を切られ、氷によって動きを封じられる。ましてや下半身を壊死させられるだろうと、容易に想像ができた。
ならばこのまま押し切るのも手だ。けれどそれもダメだと悟った。
肋骨は硬く強靭。このまま力任せに叩き切れるとも思えない。
完全に力では雪将軍が有利であり、雷斬は有利な点、それは小さいことと小回りの利くことだけだった。
「シネィ!」
雪将軍の一文字切りが炸裂する。
雷斬の本の目の前、目と鼻の先だ。
確実に眉間を切られ、ここでログアウトは必至。
奥歯を噛み、如何したら良いのか考えていたが、もはや答えは出ていた。
「ふぅ」
「ナニッ!?」
雷斬は力を抜いた。諦めの境地。そうとも思える行動に雪将軍は呆れる。
これほどまでの剣士だからこそ力の差を感じた。そうとは思えない。
何か裏があるのではないかと、一瞬の躊躇いが脳裏を過り邪魔をする。
それは見事な思考で予想は的中していた。しかしギリギリまで雷斬はそこから動かずに、雪将軍の目に雷斬の存在を強く認識させ続ける。
「カンガエルノハヤメダ! オラァァァァァァァァァァァァァァァ!」
荒々しい一振りだった。雷斬は氷を纏った刀を避けることができなかった。
渾身の一閃が炸裂し、雷斬の体を通過する。
確実に切った感触はあった。けれどおかしなことに、氷の刀がビリビリと電気を纏って振動を繰り返す。腕にまで痺れが通達し、刀を握る手に違和感さえ覚えた。
「コノカンカクハ……」
雪将軍は自分の手の異常を確かめる。
握ったり閉じたりして見るがやはり痺れていた。
激しい刀のぶつかり合いに麻痺してしまったのか。そう考えるのが無理やりだが自然だ。
けれど雪将軍は全身を雷で打たれたような殺気を背後から感じて振り返った。
「マ、マサカ!」
首だけ振り返ってみると、そこには人影があった。
ポニーテールをたなびかせ、全身からビリビリと雷の電流を放出する。
畳の床が焼けたような黒い焦げ跡。雪将軍は全身に悍ましい殺気を感じ取り苛まれると、人影=雷斬の殺伐とした眼が飛び込んできて、恐怖を感じて硬直するのだった。
取り残されたのは雷斬と怒号を荒げる雪将軍だけ。
玉鋼の刀と氷を纏った刀。二つの刃がぶつかり合い、ギシギシと異様な音を奏でる。
正直に言えばかなりマズい状況だった。
雷斬の表情は澄ましたままだが、腕に掛かる力がいつもの比ではない。
少しでも気を緩めれば簡単に体勢を崩される。
それは雪将軍も同じことで、いつでも寝首を掻く準備を雷斬は忘れずにする。
それもそのはず、互いの力が拮抗していた。
体長二メートルはありそうな雪将軍の重たい一撃を技術でしっかり防ぎ切る雷斬。
こんな芸当、普通の剣士にはできやしない。ましてや第二、第三の斬撃、および不意打ちまで警戒している。これら全てを雷斬はたった一人で行っているのだ。
到底できやしない神業に、雪将軍ですら驚いていた。
「ソノウデサスガダナ。ワシノヤシキニムダンデシンニュウシ、アマツサエハカイシタモノノショギョウトハオモエンナ」
雪将軍は片言で聞き取れない言葉を綴った。
しかし雷斬は雷斬で、芯の目をしたまま刀を弾き返す。
「ありがとうございます。ですが幻術を使う卑怯者に手を貸すなど、武士としては風上にも置けませんね」
「ゲンジュツ? タブラカサレルヨワキモノニキョウミハナイ」
雪将軍はそう答えた。ここまでの雷斬その少しばかりの慈悲が掻き消された。
それもそのはず、雷斬はここまでの幻術は第二の宿敵。即ち、雪将軍を操り入れ知恵をした何者かだとばかり思っていた。否、期待をしていたのだ。
しかし雪将軍の口から飛び出したのは、まさかの肯定とも取れる一言。
雷斬は表情に影を落とすと、雪将軍の刀を弾いた一瞬の隙を見逃さず、懐に飛び込んで肩の刃を叩き込もうとする。
鋭い一閃。目にも止まらぬとはまさにこのこと。
身長は大きく、その分体重もある。体格の恵まれすぎている雪将軍にとって、一度でも体勢を崩されれば整えるのは容易ではない。
ましてや雷斬は体勢を整えられないよう、ベストな位置に潜り込んで、崩したままの体に刀を叩き込もうとするのだ。
動く隙すら与えず、反撃の余地など有りはしない。
「終わりです」
「ドウカノ?」
雷斬は渾身の一撃を胴に打ち込んだ。
確実に上半身と下半身の繋ぎ目を切断したはずだ。
しかし実際には三分の一も入っていなかった。
もちろん邪魔をしたのは丈夫な甲冑で、雷斬自身見過ごしていない。
だからこそ留め具の脆い部分を狙ったのだが、残念なことに白い甲冑に阻まれただけじゃなかった。なにか硬いものに受け止められてしまったのだ。
「まさか骨!?」
「イカニモ」
筋肉が凄まじく、まるで鎧のようになっている。そんなアクション映画をイメージした。
けれど実際には筋肉どころか肉、皮膚にすら触れた感覚はない。
刀の刃が透き通るように入っていき、体の中で硬いものにぶつかったのだ。
如何やら骨、特に肋骨に受け止められたと、この時初めて分かった。
「どれだけ強靭な肋骨なんでしょうか?」
「ガハハ。オドロクヒマハナイゾ、コンドハワシノバンダ。ワルイガテカゲンハセンノデナ!」
雪将軍は氷の刀を振り下ろした。
流石に逃げられない。雷斬は懐に入り込んだことでピンチを迎える。
目の前に氷を纏った刀があり、今にもサスツルギが放たれようとしていた。
(喰らえばひとたまりもありませんね)
こんな時でも雷斬は冷静だった。否、こんな時だからこそ冷静な思考が大切なのだ。
刀を鞘に納めて踵を返して逃げ出す。そんなことをすれば背中を切られ、氷によって動きを封じられる。ましてや下半身を壊死させられるだろうと、容易に想像ができた。
ならばこのまま押し切るのも手だ。けれどそれもダメだと悟った。
肋骨は硬く強靭。このまま力任せに叩き切れるとも思えない。
完全に力では雪将軍が有利であり、雷斬は有利な点、それは小さいことと小回りの利くことだけだった。
「シネィ!」
雪将軍の一文字切りが炸裂する。
雷斬の本の目の前、目と鼻の先だ。
確実に眉間を切られ、ここでログアウトは必至。
奥歯を噛み、如何したら良いのか考えていたが、もはや答えは出ていた。
「ふぅ」
「ナニッ!?」
雷斬は力を抜いた。諦めの境地。そうとも思える行動に雪将軍は呆れる。
これほどまでの剣士だからこそ力の差を感じた。そうとは思えない。
何か裏があるのではないかと、一瞬の躊躇いが脳裏を過り邪魔をする。
それは見事な思考で予想は的中していた。しかしギリギリまで雷斬はそこから動かずに、雪将軍の目に雷斬の存在を強く認識させ続ける。
「カンガエルノハヤメダ! オラァァァァァァァァァァァァァァァ!」
荒々しい一振りだった。雷斬は氷を纏った刀を避けることができなかった。
渾身の一閃が炸裂し、雷斬の体を通過する。
確実に切った感触はあった。けれどおかしなことに、氷の刀がビリビリと電気を纏って振動を繰り返す。腕にまで痺れが通達し、刀を握る手に違和感さえ覚えた。
「コノカンカクハ……」
雪将軍は自分の手の異常を確かめる。
握ったり閉じたりして見るがやはり痺れていた。
激しい刀のぶつかり合いに麻痺してしまったのか。そう考えるのが無理やりだが自然だ。
けれど雪将軍は全身を雷で打たれたような殺気を背後から感じて振り返った。
「マ、マサカ!」
首だけ振り返ってみると、そこには人影があった。
ポニーテールをたなびかせ、全身からビリビリと雷の電流を放出する。
畳の床が焼けたような黒い焦げ跡。雪将軍は全身に悍ましい殺気を感じ取り苛まれると、人影=雷斬の殺伐とした眼が飛び込んできて、恐怖を感じて硬直するのだった。
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