上 下
435 / 556

◇431 絶対にやってはいけない突破法1の2

しおりを挟む
 Nightはノコギリを手にしていた。
 アキラたちは顔を顰めると、無性に嫌な予感がする。
 いや、確実にヤバいことをしようとしている。
 Nightがこんな物騒なものを取り出した手前だ。声を掛けるのも烏滸がましくなる。

「Night、それなに?」
「見ての通りノコギリだが?」
「うん、それは分かるんだけどね。なにに使おうとしているのかな?」
「ノコギリを武器にして攻撃を仕掛けるんじゃないのー?」
「馬鹿か。そんな真似を私がすると思うのか?」
「思うよー」
「あのな」

 完全にフェルノに煽られていた。
 しかしNightはつまらなそうに一蹴すると、手にしたノコギリを持って近くの柱に近付く。
 もう何をするのか訊かなくても分かった。ノコギリの刃を柱に沿わせると、ギーコギーコと切り始めた。

「やっぱり……なにやってるのNight! そんなことをしたらダメだよ」
「そうよ。一応ここはモミジヤの名所の一つなのよ」
「あはは、もしかしたら文化財的に重要かもねー」
「やってはいけない冒涜行為。今すぐやめるべきです。まだ戻れます」

 みんなが必死にNightを説得仕留めようと画策する。
 けれどNightは一切聞く耳を持たない。
 ただの自己満足でやっている。そんな訳は無いが、あまりにも乱暴だった。

「もう、ちょっとは話を聞いてよ!」
「もちろん聞いているし、聞こえてもいる。だがこれでいいんだ」
「絶対よくない! 確実二百パーセント、断言できるけどダメなことだよ!」

 アキラは率先して止めに入る。自分がけしかけてしまったと罪悪感があったのだ。
 腰を掴んで引き剥がそうとするがそれでもノコギリを引くのを止めない。
 そのまま順調にノコギリの刃が入っていき、まずは一本完全に切られてしまった。
 完全に手遅れ。短くなった柱が天井を支えられなくなると、少しだけ心許なくなる。

「あーあ、やっちゃった」
「どうするのー? これって元に戻せるのかなー?」
「元に戻せるからやったんだ。それより、変化は出たか?」

 Nightはこの状況下でそんなことを言い始めた。
 あまりにも常軌を逸している。クレイジーだ。
 けれどNight自身は理解しているようで、全く動じずに周りの状況を確認する。

「変化って、なにも……あれ?」

 ベルは一応周囲を見回す。
 特に変わったことはないように見えたのはほんの一瞬で、急に視界がグニャリと捻じれたように見えた。気のせいだろうか? 一瞬の出来事に目を擦るが、確かにグニャリと捻じれていた。

「今空間が捻じれたわよ! どうなってるの、さっきまでこんなことなかったでしょ?」
「やはりか……」
「やはりって、最初から分かっていたの?」

 ベルはNightに詰め寄った。
 ノコギリを持っていて危ないが、そんなことは気にせずグイグイ詰め寄る。
 するとNightは瞬き一つせず迎え撃った。

「もちろん空間の捻じれかは分からなかった。だが、幻覚に掛けられているのが私達だとすれば、今ある状況を変化させればなにか決定的なものを変えさせすれば、幻覚から解放される可能性もある。そう踏んだだけだ」

 あまりにも賭け過ぎた。だけどその賭けに上手く打ち勝った。
 もっともNightにとっては賭けの対象ですらなかったのだろうが、兎にも角にも幻覚を打ち破る術を新たに見出したのは確かだ。

「つまり、私たちの見えているものを変えちゃえば?」
「この幻覚は破れる。そして屋敷が破壊されれば、雪将軍も姿を現すだろう」
「根拠が全然ないわね。でも、それくらいしかやれることはないんでしょ?」
「幻覚の中で常識に縛られてたらいけない。それじゃあいつまでも幻覚の中に閉ざされたまま。なんだかNightらしいね」
「なにがだ」

 Nightのことをアキラは褒めたのだが、上手く伝わらない。
 なのでここは行動で示すことにした。
 アキラは剣を鞘から抜くと、目の前の襖を「おりゃぁ」と叩いて破壊する。
 するとアキラの視界もグニャリと捻じ曲がり、奥の世界が露わになる。

「本当だ。この先に別の世界があるよ」
「これで確信に変わった。この幻覚は私たちに掛けられているわけじゃない。この屋敷全体に掛けられている。どおりで出られない訳だ。ここ自体が一つの迷宮と化していたんだからな」

 確かにここは迷宮。もはや普通のことをしても出られる気配がない。
 それにしては手の込んだ真似をする。
 これもまた雪将軍の仕業なのだろうか? もしかすると優秀な軍師でも付けているのではないか。様々な思考が巡る中、それならそうとアキラたちもやり返すことにした。

「流石に許せませんね」
「戦法としては間違ってはいない。だが、やり返すことができるぞ」
「やり返す……そうですね、やりましょうか」

 雷斬も覚悟が決まったらしい。
 そうと決まれば早速行動に移してみる。
 アキラたちはそれぞれ武器を手にした。斬撃系の武器を手に近くの柱を切って回る。
 後で怒られることは確定してしまったが、アキラたち自身はもはやそんなことを気にする余裕は無く、完全に仕返しのつもりで幻覚を強引に破るのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結済み】VRゲームで遊んでいたら、謎の微笑み冒険者に捕獲されましたがイロイロおかしいです。<長編>

BBやっこ
SF
会社に、VRゲーム休があってゲームをしていた私。 自身の店でエンチャント付き魔道具の売れ行きもなかなか好調で。なかなか充実しているゲームライフ。 招待イベで魔術士として、冒険者の仕事を受けていた。『ミッションは王族を守れ』 同僚も招待され、大規模なイベントとなっていた。ランダムで配置された場所で敵を倒すお仕事だったのだが? 電脳神、カプセル。精神を異世界へ送るって映画の話ですか?!

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

病弱な私はVRMMOの世界で生きていく。

べちてん
SF
生まれつき体の弱い少女、夏凪夕日は、ある日『サンライズファンタジー』というフルダイブ型VRMMOのゲームに出会う。現実ではできないことがたくさんできて、気が付くとこのゲームのとりこになってしまっていた。スキルを手に入れて敵と戦ってみたり、少し食事をしてみたり、大会に出てみたり。初めての友達もできて毎日が充実しています。朝起きてご飯を食べてゲームをして寝る。そんな生活を続けていたらいつの間にかゲーム最強のプレイヤーになっていた!!

また、つまらぬものを斬ってしまった……で、よかったっけ? ~ 女の子達による『Freelife Frontier』 攻略記

一色 遥
SF
運動神経抜群な普通の女子高生『雪奈』は、幼なじみの女の子『圭』に誘われて、新作VRゲーム『Freelife Frontier(通称フリフロ)』という、スキルを中心としたファンタジーゲームをやることに。 『セツナ』という名前で登録した雪奈は、初期スキルを選択する際に、0.000001%でレアスキルが出る『スーパーランダムモード』(リセマラ不可)という、いわゆるガチャを引いてしまう。 その結果……【幻燈蝶】という謎のスキルを入手してしまうのだった。 これは、そんなレアなスキルを入手してしまった女の子が、幼なじみやその友達……はたまた、ゲーム内で知り合った人たちと一緒に、わちゃわちゃゲームを楽しみながらゲーム内トップランカーとして走って行く物語!

チート級スキルを得たゲーマーのやりたいことだけするVRMMO!

しりうす。
ファンタジー
VRゲーム【Another world・Online】βテストをソロでクリアした主人公──────雲母八雲。 βテスト最後のボスを倒すと、謎のアイテム【スキルの素】を入手する。不思議に思いつつも、もうこのゲームの中に居る必要はないためアイテムの事を深く考えずにログアウトする。 そして、本サービス開始時刻と同時に【Another world・Online】にダイブし、そこで謎アイテム【スキルの素】が出てきてチート級スキルを10個作ることに。 そこで作ったチート級スキルを手に、【Another world・Online】の世界をやりたいことだけ謳歌する! ※ゆるーくやっていくので、戦闘シーンなどの描写には期待しないでください。 ※処女作ですので、誤字脱字、設定の矛盾などがあると思います。あったら是非教えてください! ※感想は出来るだけ返信します。わからない点、意味不明な点があったら教えてください。(アンチコメはスルーします)

Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~

NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。 「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」 完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。 「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。 Bless for Travel そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

ーOnly Life Onlineーで生産職中心に遊んでたらトッププレイヤーの仲間入り

星月 ライド
ファンタジー
親友の勧めで遊び、マイペースに進めていたら何故かトッププレイヤーになっていた!? ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 注意事項 ※主人公リアルチート 暴力・流血表現 VRMMO 一応ファンタジー もふもふにご注意ください。

処理中です...