VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?

水定ユウ

文字の大きさ
上 下
432 / 601

◇429 武家屋敷は迷路

しおりを挟む
 アキラたちは落ち武者を全員打ち払った。
 なかなかの強敵で苦戦を強いられた。
 全員インベントリから回復ポーションを取り出すとマズいながらも飲み干して、HPを全回復させる。安全を期したところでようやく先に進めるようになった。

「とりあえずこれで進めますね」
「そうだな。とは言え、武家屋敷はこれでいいのか?」
「分からないわよ。けれどもうボロボロね」

 武家屋敷の廊下に面した襖という襖が落ち武者の刀のせいで貫かれている。
 大きな穴が幾つも空き、襖も倒され、完全に畳張りの部屋と言う部屋が露わにされていた。
 これでは部屋じゃない。アキラたちは戦略に呆れてしまった。

「もしかしたら、物量で押し切れる算段だったのかもねー」
「だとしたら怠慢だな」
「そんないい方したら可哀そうだよ。それより、もしも他の仕掛けがあったら大変だよ。この武家屋敷は、真っ向勝負じゃなくて、精神攻撃をしてくるから」

 ここまでほとんど精神攻撃だった。
 アキラたちは苦い思いをしたので、余計に警戒をする羽目になった。
 ピリピリと神経を擦り減らし、眉根を寄せて皺を作る。
 それでもここまで来た以上は先に行くしかないので、廊下をまずは漁ってみる。

「とりあえず廊下を歩いてみるぞ」

 Nightはそう言った。部屋の中よりは安全だと思ったのだ。
 それにもし攻撃が来るようなら、適当に部屋に逃げ込めばいい。
 甘い算段ではあったが、一応自分たちを餌にして雪将軍の動向も窺う。
 危険も合わさるがナイスアイデアだと感じ、アキラたちは視線を常に配り続けた。

「そう言えば、この武家屋敷って平屋だけど、どれくらいの大きさなのかな?」
「敷地面積的な話か? 全体図は見えないが、最低でも三百から四百は坪数があるだろう」
「そんなにあるんですか!?」
「凄いわね。結構な大豪邸じゃない……それが落ちぶれるなんて、時間って皮肉よね」
「全くだ。そうならように、常に準備を怠ってはいけない訳だな」

 武家屋敷の総面積はもっとあるはずだ。けれど建物だけでその規模となると、かなりのものだろう。
 しかし時間とは儚いもので、こうして大きな豪族や武家でも落ちぶれてしまうことがある。
 そのためにしっかり準備をすることが大事だと、Nightが言うからこそ説得力は増した。

 アキラたちは敵に軽快しながらも、広い武家屋敷を歩いて回る。
 一歩歩く度に、しみじみとさせられ、心が訴え掛ける。
 廊下の木目が視界に飛び込み、古い建物らしい音が足の裏から響いた。
 
ギシィ……ギシィ……ボスン!

「うわぁ!」

 フェルノが叫んだ。廊下が抜けて足が埋まった。
 片足で済んだものの突然すぎてビックリした。
 流石にアキラたちも心配し、無事で済んだことに胸をソッと撫で下ろす。

「痛たたたぁ、ああー、ビックリしたー」
「大丈夫フェルノ?」
「うん、大丈夫だよ。だけどさー、老朽化しすぎでしょ? 取り壊した方が良いってー」

 廊下が抜けるということはシロアリに喰われている可能性が浮上した。
 けれど長年竹林の中に放置されてきたんだ。それくらい無い方がおかしい。

 その上この屋敷が残されているのには理由もあった。
 歴史を思わせるため、運営がイベントとして使うため、様々な思惑がGAMEと現実をかき混ぜる。

 だがしかし入らなければ如何と言うことはなかった。
 さっきもフェルノの体重に耐えられなかっただけで、実際には使える部分も多い。
 雪将軍と戦ったら、すぐにでも退散した方がこの建物のためだと思い、少しだけ急ぎ足になった。

「今度は落ちないようにするぞー」
「おい、フラグを立てるな。そんなことを言っていたら……」
「大丈夫だって。えーっと、うわぁ!」

 フェルノの悲鳴がまたしても上がった。
 頭を抱えるNightだったが、今回は足は落ちていない。
 むしろ片足で体と支えると、穴を器用に避けていた。

「ふぅ、セーフ」
「紛らわしいことをするな!」

 流石に落ちたと思っていた。けれどフェルノの体感の前に、二度目の被害は出なかった。
 今度は安堵することはなく、アキラたちは更に奥へと行ってみることにした。
 随分と歩いてはみたものの、未だに一番奥に辿り着けない。
 そんな中、フェルノだけは穴の前に立ち止まり、「ねぇ?」と疑問符を付けていた。

「フェルノ、先行くよ」
「それはいいんだけどさー」
「どうかしたか? なにかあったのか?」
「うん。みんな、この穴変じゃない?」

 変とは何が変なのか。
 開幕で言われても判らず、一瞬頭を使う。
 するとアキラとNightは真っ先に気が付いた。雷斬とベルも嫌な予感がするとばかりに表情を引き攣らせる。

「ちょっと待って。もしかしてだけど……」
「その先は無しよ。まさかこれも……」
「いや、可能性はあります。私たちは既に……」

 如何やら同じ答えに辿り着いたらしい。
 アキラたちはゴクリと喉を鳴らすが、よく見てみれば間違いなかった。
 項垂れるというよりも怖くなる。なにせここは……

「この穴、さっきから空いてたよね? 私たち、もしかしてだけど同じ場所回ってるのかなー?」

 フェルノのだらんとした声が響いた。
 耳にしたくなかった。脳がフリーズする音がした。
 もしもそうならアキラたちはまたしても、いやこの武家屋敷に入った時から既に、考えれば考えるほど坩堝に嵌っているようで、まるで誑かされているように思えてしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

処理中です...