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◇428 落ち武者の風上にも置けない
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「せやっ!」
アキラは珍しく鞘から剣を抜き、両手に構えると、迫る落ち武者を切り伏せた。
腐った頭蓋骨を真っ二つにすると、剣を介してアキラ自身に罪悪感を与える。
これも精神攻撃。唇を噛むと、あまりの気持ち悪さに身を引いた。
「気持ち悪いよぉ」
「そんなこと言っている場合か」
「そうよ。とっとと蹴散らしなさい! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ、おんどるらぁ!」
泣き言をいうアキラにNightは威圧する。
その横で薙刀モードになり、荒々しい性格に変わったベルが落ち武者を薙ぎ払う。
ガツガツ横っ腹を引き裂くと、落ち武者たちが次々倒れて行く。
「切りがないわね」
「そうだよー! 一度頭と心臓? を壊せば復活はしないけど、それにしても数が多すぎるってー」
フェルノが嘆くのも無理はない。落ち武者は次から次へと湧いてくる。
頭と心臓を壊せばもう起き上がってくることはない。それだけは幸いだ。
だけど難しい。相手は甲冑を着ていて、本体は弱いのに甲冑のせいで阻まれてしまった。
「硬い。おまけに湧きも速い!」
「そうですね。ですが私たちは負けませんよ【雷鳴】!」
雷斬は雷を自分に纏わせた。
そのまま駆け出すと、たった一歩の間で落ち武者を一掃する。
しかも全部頭を落としていた。首を狩り取ると、落ち武者の湧き数が減った。
「このまま押していきます」
雷斬はとっても頼もしかった。疲れもまだ見えない。
本来なら爆発的に運動能力を増す代わりに全身を相当酷使するはずの【雷鳴】をここまで技として昇華で来ているのは、ずっとこのスキルを使い続けて来たからだ。
未だに見えない雷斬だけの固有スキル。アキラたちは今から楽しみだった。
「皆さん、ニヤけていないで戦ってください」
その様子を雷斬に叱咤されてしまった。
見れば落ち武者はドンドン湧き、アキラたちへ距離を詰めている。
振るい上げた刀を叩き折ると、素早く頭や心臓を潰した。
落ち武者が動かなくなるのを確認するが、これだと全然減ってくれない。
「ちょっと待ってよ。さっきから全然数が減らないよ!」
「それは分かり切っている」
「一体何人いるのかな? 分からないねー」
いくら倒して倒しても切りがない。無限に湧き続け、アキラたちの精神を擦り減らす。
一人一人は弱いのに、完全に数の暴力で襲い掛かるのだ。
「あれ?」
「どうしたアキラ?」
そう言えばおかしなことに気が付く。
おかしなこととは何かといわれれば漠然としているが、そもそも如何してこんな数が居るのかだ。
開いている襖の数は知れている。部屋の広さが何畳かは知らないが、それでも人数には制限が付くはずだ。
戦い始めてからおよそ十五分。既に五人で百人斬りは達成している。にもかかわらず落ち武者は出て来ていて、部屋の中に用意していた数が全体的に合わなくなった。
「もしかして、そう言うこと?」
「……まさかとは思うが、アキラの考えていることは」
Nightもアキラの考えを予測してあり得ないと罵りたかった。
けれどこの状況を鑑みるに、そうとも言っていられない。
もしそうなら、アキラたちは無駄にHPと精神力を擦り減らしていることになる。
けれど洗礼を思い返せば、可能性は極めてゼロよりも遠い。
「みんなよく聞いて!」
「なんですか、アキラさん!」
「どうしたの、アキラー?」
戦いながら全員がアキラの声に耳を傾けた。
何か気が付いたことがあるのか、アキラも落ち武者に応戦しながら答えた。
「例えばなんだけど、ここにいる落ち武者のほとんどがただの怨念だとしたらどうかな?」
「落ち武者の怨念? 現に怨念なのではないですか?」
「そうだよー。落ち武者って、そもそも怨念でしょ?」
アキラの突拍子もない推測に流石の雷斬ですら半信半疑だ。
それもそのはず根拠はない。何処にも決定づける物が落ちていない。
だからアキラは納得してもらおうと思考を巡らせる。
「そうじゃなくて、落ち武者は誰かに操られているだけで、数が増えているように見えるのは怨念が形を持っているだけだとしたら?」
「どういうことよ? それじゃあまるで私たちが相手をしているのは、実体のないものみたいでしょ」
「そう言うことだよ。だからこの人たちの攻撃は……ほらね!」
言葉だけで足りないのなら行動で示す。
アキラはそうと言いたげに落ち武者の攻撃を一撃貰う。
捨て身な行動。けれど賭けには打ち勝ち、HPがミリも減っていない。
刀がアキラの腕を通り抜けると、攻撃はまやかしだと悟らせた。
「嘘でしょ! 攻撃が効かないってこと?」
「それなら全然怖くないねー」
「安心するのは早いぞ。中には実態を持った落ち武者もいる。用心を怠るな」
Nightは叱咤激励を浴びせた。
けれどこれで一段と戦いやすくなる。
落ち武者の攻撃をしっかり捌き切り、一撃で落ち武者を仕留める。
もはやノーガード戦法に切り替えつつあり、にじり寄る落ち武者の群れに対し、雷斬は正々堂々と答えた。
「まやかしで誑かすなど、落ち武者とは言え武士の風上にも置けませんね」
雷斬は怒っていた。同じ剣士として許せないのだろう。
見事に決まる台詞に、アキラたちは感応する。
けれど冷静になればこうなった原因は別にある。
「仕方ないでしょ? 誰かが操っているかもしれないんだから」
「となると元凶は雪将軍だな」
「もっと言えば運営だけど……流石にこのやり方は酷いね。絶対に打ち負かしてみせるよ!」
こんな精神に訴えかけるような攻撃に何て負ける気はない。
アキラたちは落ち武者たちをバッタバッタと切り伏せ、気が付けば並みのように襲い掛かる群れは消えていた。
襖の先にあった光景。それは落ち武者たちを苦戦しながらも打ち負かすアキラたちの姿だった。
アキラは珍しく鞘から剣を抜き、両手に構えると、迫る落ち武者を切り伏せた。
腐った頭蓋骨を真っ二つにすると、剣を介してアキラ自身に罪悪感を与える。
これも精神攻撃。唇を噛むと、あまりの気持ち悪さに身を引いた。
「気持ち悪いよぉ」
「そんなこと言っている場合か」
「そうよ。とっとと蹴散らしなさい! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ、おんどるらぁ!」
泣き言をいうアキラにNightは威圧する。
その横で薙刀モードになり、荒々しい性格に変わったベルが落ち武者を薙ぎ払う。
ガツガツ横っ腹を引き裂くと、落ち武者たちが次々倒れて行く。
「切りがないわね」
「そうだよー! 一度頭と心臓? を壊せば復活はしないけど、それにしても数が多すぎるってー」
フェルノが嘆くのも無理はない。落ち武者は次から次へと湧いてくる。
頭と心臓を壊せばもう起き上がってくることはない。それだけは幸いだ。
だけど難しい。相手は甲冑を着ていて、本体は弱いのに甲冑のせいで阻まれてしまった。
「硬い。おまけに湧きも速い!」
「そうですね。ですが私たちは負けませんよ【雷鳴】!」
雷斬は雷を自分に纏わせた。
そのまま駆け出すと、たった一歩の間で落ち武者を一掃する。
しかも全部頭を落としていた。首を狩り取ると、落ち武者の湧き数が減った。
「このまま押していきます」
雷斬はとっても頼もしかった。疲れもまだ見えない。
本来なら爆発的に運動能力を増す代わりに全身を相当酷使するはずの【雷鳴】をここまで技として昇華で来ているのは、ずっとこのスキルを使い続けて来たからだ。
未だに見えない雷斬だけの固有スキル。アキラたちは今から楽しみだった。
「皆さん、ニヤけていないで戦ってください」
その様子を雷斬に叱咤されてしまった。
見れば落ち武者はドンドン湧き、アキラたちへ距離を詰めている。
振るい上げた刀を叩き折ると、素早く頭や心臓を潰した。
落ち武者が動かなくなるのを確認するが、これだと全然減ってくれない。
「ちょっと待ってよ。さっきから全然数が減らないよ!」
「それは分かり切っている」
「一体何人いるのかな? 分からないねー」
いくら倒して倒しても切りがない。無限に湧き続け、アキラたちの精神を擦り減らす。
一人一人は弱いのに、完全に数の暴力で襲い掛かるのだ。
「あれ?」
「どうしたアキラ?」
そう言えばおかしなことに気が付く。
おかしなこととは何かといわれれば漠然としているが、そもそも如何してこんな数が居るのかだ。
開いている襖の数は知れている。部屋の広さが何畳かは知らないが、それでも人数には制限が付くはずだ。
戦い始めてからおよそ十五分。既に五人で百人斬りは達成している。にもかかわらず落ち武者は出て来ていて、部屋の中に用意していた数が全体的に合わなくなった。
「もしかして、そう言うこと?」
「……まさかとは思うが、アキラの考えていることは」
Nightもアキラの考えを予測してあり得ないと罵りたかった。
けれどこの状況を鑑みるに、そうとも言っていられない。
もしそうなら、アキラたちは無駄にHPと精神力を擦り減らしていることになる。
けれど洗礼を思い返せば、可能性は極めてゼロよりも遠い。
「みんなよく聞いて!」
「なんですか、アキラさん!」
「どうしたの、アキラー?」
戦いながら全員がアキラの声に耳を傾けた。
何か気が付いたことがあるのか、アキラも落ち武者に応戦しながら答えた。
「例えばなんだけど、ここにいる落ち武者のほとんどがただの怨念だとしたらどうかな?」
「落ち武者の怨念? 現に怨念なのではないですか?」
「そうだよー。落ち武者って、そもそも怨念でしょ?」
アキラの突拍子もない推測に流石の雷斬ですら半信半疑だ。
それもそのはず根拠はない。何処にも決定づける物が落ちていない。
だからアキラは納得してもらおうと思考を巡らせる。
「そうじゃなくて、落ち武者は誰かに操られているだけで、数が増えているように見えるのは怨念が形を持っているだけだとしたら?」
「どういうことよ? それじゃあまるで私たちが相手をしているのは、実体のないものみたいでしょ」
「そう言うことだよ。だからこの人たちの攻撃は……ほらね!」
言葉だけで足りないのなら行動で示す。
アキラはそうと言いたげに落ち武者の攻撃を一撃貰う。
捨て身な行動。けれど賭けには打ち勝ち、HPがミリも減っていない。
刀がアキラの腕を通り抜けると、攻撃はまやかしだと悟らせた。
「嘘でしょ! 攻撃が効かないってこと?」
「それなら全然怖くないねー」
「安心するのは早いぞ。中には実態を持った落ち武者もいる。用心を怠るな」
Nightは叱咤激励を浴びせた。
けれどこれで一段と戦いやすくなる。
落ち武者の攻撃をしっかり捌き切り、一撃で落ち武者を仕留める。
もはやノーガード戦法に切り替えつつあり、にじり寄る落ち武者の群れに対し、雷斬は正々堂々と答えた。
「まやかしで誑かすなど、落ち武者とは言え武士の風上にも置けませんね」
雷斬は怒っていた。同じ剣士として許せないのだろう。
見事に決まる台詞に、アキラたちは感応する。
けれど冷静になればこうなった原因は別にある。
「仕方ないでしょ? 誰かが操っているかもしれないんだから」
「となると元凶は雪将軍だな」
「もっと言えば運営だけど……流石にこのやり方は酷いね。絶対に打ち負かしてみせるよ!」
こんな精神に訴えかけるような攻撃に何て負ける気はない。
アキラたちは落ち武者たちをバッタバッタと切り伏せ、気が付けば並みのように襲い掛かる群れは消えていた。
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