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◇417 天孤の朧火

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 アキラと雷斬は見かけた天弧を追いかけることにした。
 こっそり姿を眩ますと、雪道の上に足跡だけを残す。

「天狐さんは神出鬼没だからね。こういう見かけた時に声を掛けておかないと」
「そうですね。きっとクロユリさんたちでは知り得ないことも知っているはずです」

 如何してそう思うのか。これは明らかに勘だった。
 けれど天狐が自由気ままで神出鬼没は当たっている。
 面倒臭がるタイプでボーッとすることも多そうなので、話していないこともありそうだった。そこを直接本人の口から聴ければ尚良し。あまりにも漠然としているが、二人は気にしていなかった。

「こっちに来ましたよね?」
「うん。なんだろう、私たち探偵みたい?」
「探偵にしてはバレバレですがね」
「そうだね。それじゃあ続きを……これ天狐さんの足跡だ」

 やっていることは完全に一昔前の探偵の真似事だった。
 アキラと雷斬はちょっとだけ楽しくなった。
 この調子で追いかけてみよう。そう思って天狐の足跡を追いかけると、この先には階段があった。研磨された石を積み上げられていた。そこに繋がる足跡は幾つかあるが、降り積もった雪の後だからか、一つだけ上に重なっていた。

「この石階段の上ってことかな?」
「そうでしょうね。行ってみますか?」
「ここまで来たら探偵ごっこを続けてみようよ」
「そうですね。たまには遊び心があっても良いですよね」
「それじゃあ行こっか」
「はい、アキラさん」

 アキラと雷斬は一緒に石階段を上がった。
 降り積もった薄い雪の上に新しい足跡を二つ付ける。
 夏と違い積もった雪に足を取られて歩き難い。
 ムッとした表情を浮かべては見たものの、周りの景色を見ると幻想的で美しかった。

「この辺、竹が多いね」
「そうですね。もしかしすると嵐山をモデルにしているのかもしれませんよ」
「嵐山? そう言えば竹の道が有名だもんね。実際に行ったことはないけど」

 京都や奈良には観光名所が非常に多い。
 モミジヤはそんな観光名所をたくさんモデルにしている節がある。
 そのおかげか古都の雰囲気も相まってか楽しい。ちょっとした修学旅行のようで、冬のモミジヤは余計に幻想的で美しかった。

「それにしても天狐さんいなくなったね」
「そう言えばそうですね。何処に行ってしまったのでしょうか?」

 そこまで感覚を開けてはいないはずだ。
 けれどキョロキョロ視線を巡らせても、どれだけ追いかけても一向に天狐に追い付けない。
 むしろおかしさを際立たせるのは足元の足跡だ。雪の上には先陣を切ったと思しき天狐の足跡がある。これが続いている限り、天狐がこの先を行ったのは確かなのだが、ふと見れば少し開けていた。

「ふぅ。五分くらいかな?」
「そうですね。流石に天狐さんでも少しは……うっ」
「どうしたの、雷斬?」
「アキラさん……なんでも、ありま、ん?」

 雷斬の目の動きがおかしかった。
 見れば目の中に青紫色をした炎が灯っている。

(目の中に炎? いや、これは鬼火かな?)

 不思議な現象だった。鬼火が浮かび上がっているのにいくら振り返ってもアキラには見えない。
 だけど雷斬の目の中で朧に浮かんでいた。
 これは幻覚? そう思って目を擦ってみたが、残念ながら鬼火は灯ったままだった。

「雷斬、もしかして鬼火が見えてる?」
「はい。私の目には暗闇の中にぽっかりと浮かぶ鬼火が見えて……なのにどうしてでしょうか? 幻覚を見ているのは知覚できていますが、どうにも攻撃的ではないんです」
「攻撃的じゃない? ってことは揶揄っているんだね。ってことは……」

 アキラはこの鬼火を起こしている張本人を捜した。
 とは言え何となくの予想はできてる。
 ここは直接暴いた方が良いだろうか? そう思って声に出そうとした瞬間、雷斬が叫んだ。

「天狐さん、私の後ろにいるんですよね」

 雷斬が突拍子もないことを言い出した。
 アキラは雷斬の背後を凝視して見る。
 すると金髪と変な癖毛が目立ってしまった。

「天狐さん?」

 アキラも首を捻りながら尋ね返す。
 すると観念したのか、天狐は雷斬の目を両手で隠した。
 照れ笑いを浮かべながらニヤニヤ笑顔を浮かべていた。

「バレたかー」

 天孤が顔をひょっこり出した。
 久しぶりに見る顔色に何だか安心感さえ覚える。
 それにしても揶揄われるとは思わなかった。これが天狐のスキルだろうか。
 アキラと雷斬は天狐に文句を言った。

「天狐さん、突然揶揄わないでくださいよ」
「そうですよ。こんなところでするのは危ないです」
「そうやな。かんにんえ。そやけど、揶揄い甲斐がある方が悪いんやでー」

 確かにそれには一理あった。
 こうなったのも半分はアキラと雷斬が馬鹿なことをしたせいだ。
 しかしまさかここまで遊ばれるなんて思わなかった。
 一歩間違えれば鬼火が見せる朧の中に囚われていたかと思うとゾッとした。
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