上 下
404 / 477

◇400 今日も音楽室の幽霊

しおりを挟む
 明輝と烈火は一緒に学校に向かっていた。
 話は昨日蒼伊に訊いたことが大半で、白雪響姫に付いてだった。
 けれど話はそれ以上広がらない。
 深入りする気はなく、ただ噂の正体が判っただけで満足していた。

「それにしても世間って狭いんだね」
「ほんとほんと。この街、どれだけ凄いっぽい人が居るんだろうねー」
「……烈火もでしょ」
「私? 私は大したことないよ。全中三連覇しただけで」
「いや、それって結構凄いことだよ?」
「あはは、明輝も考えすぎだって。そんなのいっぱい居るよー」
「いっぱいは居ないと思うけど?」
「あはは、やっぱり面白いねー」

 何が面白いのか、流石に明輝には伝わらない。
 烈火の独特の感性を感じつつ、軽く受け流すと学校に到着していた。

「そう言えばクラス訊いてなかった」
「もしかして何か企んでる?」
「なんでそこに飛躍するの? うーん、でも私の中でこの人だ! って感覚はあったかな」
「うん。なんだろうね?」
「さあねー。でもさ、その感覚間違ってないでしょ?」
「もちろんだよ。だから、ちょっとだけ誘ってみたりしなかったりして?」
「曖昧だなー。まあ、明輝がしたい様にすればいいよ。如何するかは本人次第だしさー」

 烈火も応援してくれた。
 早速明輝は行動に移すことにして、昼休みにでもクラスを片っ端から見て回ることを決めた。



 明輝は弁当を食べ終えると、教室を出た。
 他のクラスをチラチラ覗き見て響姫を探す。

「うーん、このクラスも違うんだ」

 だけどどのクラスを見ても響姫の姿は無い。
 もしかしたらクラスで食べないのかもしれない。
 困った明輝は「うーん」と唸り声を上げてしまう。
 けれど無理に探しても行けないし、深追いしたら悪い。
 そう思った明輝は諦めることにした。意識を切り替えて、忘れようとするのだが、ふと一ヶ所だけ気になった。

「まさかとは思うけど、音楽室じゃないよね?」

 ふと明輝は第二音楽室がチラついた。
 脳裏に浮かんでしまい、脚の向きが階段を差し爪先が動いた。

「いや、居そう……最後に行ってみようかな」

 ここまでやったのなら第二音楽室に行ってみようと思った。
 明輝は無駄に終わるとは思っていないので、階段を下りて早速第二音楽室に向かった。

「嘘でしょ!?」

 第二音楽室に辿り着くと、ピアノを弾く音が聴こえた。
 まさかと思い目を瞑ると、繊細で力強い音が雪景色を思わせる。
 如何やら響姫が居るらしい。
 昼休みも延々とピアノを弾き続けているなんて、何だか盲目に見えてしまった。

「あの日響姫を見た時、ちょっとだけ顔色が悪かったけど……大丈夫かな?」

 あの日響姫はしっかりと食事を摂り、睡眠を摂っていると豪語していた。
 確かに顔色は肌艶も良かった。
 けれど目にはドッと疲れが溜まっていて、優れているとは言えなかった。
 一つ一つの動作にも粗さがあり、ピアノを盲目に弾き続ける姿はあまりにも意思を感じなかった。

「絶対にマズいよね。もしもそうなら……」

 明輝は扉を思いっきり引いた。
 すると第二音楽室の中にはピアノの音色が響き渡る。
 繊細で力強い。両極端なはずの音を見事に調和させていたが、そこに意思は無くただ黙々と盲目に鳴り響いていた。

「響姫!」
「はい!?」

 明輝は咄嗟に叫んだ。
 すると響姫は声と顔を上げ、キョロキョロと周囲を見回す。
 ピアノの鍵盤から指を離し、声を掛けてきたのが誰か探した。
 音楽室に入って来たのが明輝で安心したのか、「ふぅ」と息を整えた。

「なんだ明輝だったのね。如何したの?」
「ごめん響姫。ピアノを止めちゃって」
「それはいいけど。それより本当に如何したの?」

 瞬き一つせず、響姫は首を傾げた。
 瞳孔が開き切っていて、少しだけ目の下に隈がある。
 睡眠も全然摂っていないのがバレバレで、明輝はムッとしてしまった。
 そのことにも気が付かず、響姫は盲目が行き過ぎて、首を捻って尋ねた。

「な、なに、そんな慌てちゃって」
「慌てるよ。響姫、顔を見せて」
「か、顔!? はむっ」

 響姫は緊張してしまった。
 頬が真っ赤になり恥ずかしがっているのだが、そんな所には目もくれない。
 「やっぱりだ」と明輝は表情を曇らせて響姫を叱った。

「ちゃんと食べてないし、寝てもないでしょ!」
「本当になに? ちょっと怖い……」
「怖くて当然だよ。私、心配しているんだから」

 こうなることならこの間の内に言っておけばよかった。
 今更ながらに後悔しても遅いが、脈は正常だった。
 もしも何かあったら友達として心配する。
 だけどとりあえず目立ったことになっていなくて安心し、一人胸を撫で下ろすが、本人は全く理解していない様子だった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

優秀な妹と婚約したら全て上手くいくのではなかったのですか?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:61,836pt お気に入り:2,861

夜明けのカディ

SF / 連載中 24h.ポイント:285pt お気に入り:0

色々な人のくすぐり体験談(小説化)

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:1,732pt お気に入り:4

日本酒バー「はなやぎ」のおみちびき

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:768pt お気に入り:21

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:15,106pt お気に入り:7,516

巻き込まれたんだけど、お呼びでない?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:747pt お気に入り:1,985

図書室の名前

青春 / 完結 24h.ポイント:369pt お気に入り:0

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:525pt お気に入り:230

処理中です...