VRMMOのキメラさん〜雑魚種族を選んだ私だけど、固有スキルが「倒したモンスターの能力を奪う」だったのでいつの間にか最強に!?

水定ユウ

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◇400 今日も音楽室の幽霊

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 明輝と烈火は一緒に学校に向かっていた。
 話は昨日蒼伊に訊いたことが大半で、白雪響姫に付いてだった。
 けれど話はそれ以上広がらない。
 深入りする気はなく、ただ噂の正体が判っただけで満足していた。

「それにしても世間って狭いんだね」
「ほんとほんと。この街、どれだけ凄いっぽい人が居るんだろうねー」
「……烈火もでしょ」
「私? 私は大したことないよ。全中三連覇しただけで」
「いや、それって結構凄いことだよ?」
「あはは、明輝も考えすぎだって。そんなのいっぱい居るよー」
「いっぱいは居ないと思うけど?」
「あはは、やっぱり面白いねー」

 何が面白いのか、流石に明輝には伝わらない。
 烈火の独特の感性を感じつつ、軽く受け流すと学校に到着していた。

「そう言えばクラス訊いてなかった」
「もしかして何か企んでる?」
「なんでそこに飛躍するの? うーん、でも私の中でこの人だ! って感覚はあったかな」
「うん。なんだろうね?」
「さあねー。でもさ、その感覚間違ってないでしょ?」
「もちろんだよ。だから、ちょっとだけ誘ってみたりしなかったりして?」
「曖昧だなー。まあ、明輝がしたい様にすればいいよ。如何するかは本人次第だしさー」

 烈火も応援してくれた。
 早速明輝は行動に移すことにして、昼休みにでもクラスを片っ端から見て回ることを決めた。



 明輝は弁当を食べ終えると、教室を出た。
 他のクラスをチラチラ覗き見て響姫を探す。

「うーん、このクラスも違うんだ」

 だけどどのクラスを見ても響姫の姿は無い。
 もしかしたらクラスで食べないのかもしれない。
 困った明輝は「うーん」と唸り声を上げてしまう。
 けれど無理に探しても行けないし、深追いしたら悪い。
 そう思った明輝は諦めることにした。意識を切り替えて、忘れようとするのだが、ふと一ヶ所だけ気になった。

「まさかとは思うけど、音楽室じゃないよね?」

 ふと明輝は第二音楽室がチラついた。
 脳裏に浮かんでしまい、脚の向きが階段を差し爪先が動いた。

「いや、居そう……最後に行ってみようかな」

 ここまでやったのなら第二音楽室に行ってみようと思った。
 明輝は無駄に終わるとは思っていないので、階段を下りて早速第二音楽室に向かった。

「嘘でしょ!?」

 第二音楽室に辿り着くと、ピアノを弾く音が聴こえた。
 まさかと思い目を瞑ると、繊細で力強い音が雪景色を思わせる。
 如何やら響姫が居るらしい。
 昼休みも延々とピアノを弾き続けているなんて、何だか盲目に見えてしまった。

「あの日響姫を見た時、ちょっとだけ顔色が悪かったけど……大丈夫かな?」

 あの日響姫はしっかりと食事を摂り、睡眠を摂っていると豪語していた。
 確かに顔色は肌艶も良かった。
 けれど目にはドッと疲れが溜まっていて、優れているとは言えなかった。
 一つ一つの動作にも粗さがあり、ピアノを盲目に弾き続ける姿はあまりにも意思を感じなかった。

「絶対にマズいよね。もしもそうなら……」

 明輝は扉を思いっきり引いた。
 すると第二音楽室の中にはピアノの音色が響き渡る。
 繊細で力強い。両極端なはずの音を見事に調和させていたが、そこに意思は無くただ黙々と盲目に鳴り響いていた。

「響姫!」
「はい!?」

 明輝は咄嗟に叫んだ。
 すると響姫は声と顔を上げ、キョロキョロと周囲を見回す。
 ピアノの鍵盤から指を離し、声を掛けてきたのが誰か探した。
 音楽室に入って来たのが明輝で安心したのか、「ふぅ」と息を整えた。

「なんだ明輝だったのね。如何したの?」
「ごめん響姫。ピアノを止めちゃって」
「それはいいけど。それより本当に如何したの?」

 瞬き一つせず、響姫は首を傾げた。
 瞳孔が開き切っていて、少しだけ目の下に隈がある。
 睡眠も全然摂っていないのがバレバレで、明輝はムッとしてしまった。
 そのことにも気が付かず、響姫は盲目が行き過ぎて、首を捻って尋ねた。

「な、なに、そんな慌てちゃって」
「慌てるよ。響姫、顔を見せて」
「か、顔!? はむっ」

 響姫は緊張してしまった。
 頬が真っ赤になり恥ずかしがっているのだが、そんな所には目もくれない。
 「やっぱりだ」と明輝は表情を曇らせて響姫を叱った。

「ちゃんと食べてないし、寝てもないでしょ!」
「本当になに? ちょっと怖い……」
「怖くて当然だよ。私、心配しているんだから」

 こうなることならこの間の内に言っておけばよかった。
 今更ながらに後悔しても遅いが、脈は正常だった。
 もしも何かあったら友達として心配する。
 だけどとりあえず目立ったことになっていなくて安心し、一人胸を撫で下ろすが、本人は全く理解していない様子だった。
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