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◇397 午後七時、音楽室にて
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授業も終わり、明輝は帰ろうとした。
烈火は部活でいつも通り一人で帰ろうとする。
そんな中、廊下を出て階段を下りようとした明輝は声を掛けられた。
「あっ、そこの子ちょっと待って」
明輝はピタリと足を止めた。
そこに居たのは司書の先生だった。
両手に抱えられない量のダンボール箱を持って歩いている。
階段を上るのも一苦労で、息を荒くしていた。
「如何したんですか、このダンボール?」
「ちょっと古い本が多くてね。良かったら、運ぶの手伝って貰えないかしら?」
それを頼むには図書委員の人のはずだ。
けれど流石にこの量は女性には大変で、委員会関係なく一番近くに居た明輝に声を掛けたのだろう。
明輝はそう思うと、放っては置けないので手伝ってあげることにした。
「分かりました。よいっしょと」
結構重い。だけど明輝にはこれくらいの重さなんてことなかった。
すると司書の先生は顔を上げ、「ふぅ」と呼吸を整えた。
「ありがとう。えっと……」
「立花です。このダンボール、図書室まで運べばいいんですか?」
「ええ、そうよ。手伝ってくれるの?」
「もう持っちゃってますから。それじゃあ行きましょう」
明輝は階段をテクテク上って行く。
ダンボール箱の中を埋め尽くす何かの重さにも一切めげることはなく、快調に進んでいた。
その後ろを司書の先生が続く。
先に図書室に辿り着いたのは明輝だったけど、中に入るとまさかの誰も居なかった。
「えっ。誰も居ないんですけど?」
「ええ、今日の午後は休刊日だから」
「休刊日……ってことは開いてないはずじゃないんですか?」
「いいえ、休刊日とは言っても今日は本の整理で利用を控えて貰っているだけなのよ」
それなら納得はできる。だけどそれにしては人が居ないにも程がある。
せめて図書委員くらいは待機していてもいいはずだ。
けれど図書室の中には誰も居ないので、流石に怖くなってきた。
「先生、如何して誰も居ないんですか?」
「それが、今日本の整理を手伝ってくれるはずだった図書委員の子が塾で忙しいみたいなの」
「塾……」
「それで人手が足りなくて。先生一人で整理することになっちゃったの」
「はぁー?」
この時、明輝の脳裏に嫌な予感が漂っていた。
いや確実に分かっていた。先生の顔色を見れば、一発で伝わる。
この先生、明輝に手伝ってもらう気なのだ。
(ちょっと待ってよ。私、この後予定はないけど……嘘だよね?)
「あの先生、私図書委員じゃ……」
「それは分かっているわよ。でもこの学校は……」
「生徒の自主性・自由性を尊重しているですよね」
「そう言うことです。なので……あー、帰らないで。お願い、単位上げるから」
「うちの高校に単位なんてないですけど……分かりました」
師匠の先生の顔と腕の掴み加減で逃げられないのは明らかだった。
これは時間が掛かるかもと、ダンボールの量から判断した。
きっとコレを見越してわざとサボったんだ。なんとなくそんな気がしてならなかった。
「はぁー、疲れた」
「そうね。でも今日はありがとう。もう夜も遅いから、気を付けて帰ってね」
窓の外を見ると真っ暗闇だった。
時計を見てみると、十九時を回っていた。
とんでもない作業量に時間が食い潰されてしまい、もうへとへとの明輝はリュックを背負うとそそくさと図書室を後にする。
二度とこんなことはごめんだと思ったが、意識を切り替えてキッパリ忘れた。
「そうだよね。無視無視、終わったことは忘れて帰ろう」
とは言えこんな時間まで残るのは珍しい。
きっと部活もほとんど終わっているはずだ。
もしかしたら烈火はまだ残っているかもしれないので校門で待ってみてもいいかもしれない。
そう思って階段を下りた。その時だった。ふとピアノの音が聴こえてきた。
「ピアノの音? この辺に音楽室って……あっ!」
ふと頭の中に由里乃が話してくれた話題が浮かんだ。
この階段の近くに第二音楽室がある。
今日は部活があったのかは分からないが、こんな遅くまで練習しているのがどんな子なのか気になった。
けれど本当に誰か居るのかな。明輝は不信感に苛まれた。
「行ってみようかな」
明輝は行動に移した。トボトボ第二音楽室に向かうと、確かにピアノの音が聴こえた。
けれど噂と違い灯りが爛々と点いていた。
若しかしたら本当に誰か居るのかもしれない。
そう思ったのは一瞬で、聴こえて来るピアノの旋律に心奪われた。
「良い音。繊細なのに力強くて……蒼伊のピアノとはまた少し違うけど、心地良い。胸に響く……一体誰が弾いてるんだろ」
迷惑だとは思ったが、閉じている扉を開いてみたくなった。
ゴクリと喉を鳴らして足を前に出す。
「失礼します……」
明輝は一言断りを入れてから扉を開けることにする。
一体誰が。その一心で扉をゆっくりと開け、ガラガラガラと奇怪な音を響かせてしまった。
廊下に反響して聴こえた。けれど誰も咎めることはなく、明輝は顔を覗かせた。
烈火は部活でいつも通り一人で帰ろうとする。
そんな中、廊下を出て階段を下りようとした明輝は声を掛けられた。
「あっ、そこの子ちょっと待って」
明輝はピタリと足を止めた。
そこに居たのは司書の先生だった。
両手に抱えられない量のダンボール箱を持って歩いている。
階段を上るのも一苦労で、息を荒くしていた。
「如何したんですか、このダンボール?」
「ちょっと古い本が多くてね。良かったら、運ぶの手伝って貰えないかしら?」
それを頼むには図書委員の人のはずだ。
けれど流石にこの量は女性には大変で、委員会関係なく一番近くに居た明輝に声を掛けたのだろう。
明輝はそう思うと、放っては置けないので手伝ってあげることにした。
「分かりました。よいっしょと」
結構重い。だけど明輝にはこれくらいの重さなんてことなかった。
すると司書の先生は顔を上げ、「ふぅ」と呼吸を整えた。
「ありがとう。えっと……」
「立花です。このダンボール、図書室まで運べばいいんですか?」
「ええ、そうよ。手伝ってくれるの?」
「もう持っちゃってますから。それじゃあ行きましょう」
明輝は階段をテクテク上って行く。
ダンボール箱の中を埋め尽くす何かの重さにも一切めげることはなく、快調に進んでいた。
その後ろを司書の先生が続く。
先に図書室に辿り着いたのは明輝だったけど、中に入るとまさかの誰も居なかった。
「えっ。誰も居ないんですけど?」
「ええ、今日の午後は休刊日だから」
「休刊日……ってことは開いてないはずじゃないんですか?」
「いいえ、休刊日とは言っても今日は本の整理で利用を控えて貰っているだけなのよ」
それなら納得はできる。だけどそれにしては人が居ないにも程がある。
せめて図書委員くらいは待機していてもいいはずだ。
けれど図書室の中には誰も居ないので、流石に怖くなってきた。
「先生、如何して誰も居ないんですか?」
「それが、今日本の整理を手伝ってくれるはずだった図書委員の子が塾で忙しいみたいなの」
「塾……」
「それで人手が足りなくて。先生一人で整理することになっちゃったの」
「はぁー?」
この時、明輝の脳裏に嫌な予感が漂っていた。
いや確実に分かっていた。先生の顔色を見れば、一発で伝わる。
この先生、明輝に手伝ってもらう気なのだ。
(ちょっと待ってよ。私、この後予定はないけど……嘘だよね?)
「あの先生、私図書委員じゃ……」
「それは分かっているわよ。でもこの学校は……」
「生徒の自主性・自由性を尊重しているですよね」
「そう言うことです。なので……あー、帰らないで。お願い、単位上げるから」
「うちの高校に単位なんてないですけど……分かりました」
師匠の先生の顔と腕の掴み加減で逃げられないのは明らかだった。
これは時間が掛かるかもと、ダンボールの量から判断した。
きっとコレを見越してわざとサボったんだ。なんとなくそんな気がしてならなかった。
「はぁー、疲れた」
「そうね。でも今日はありがとう。もう夜も遅いから、気を付けて帰ってね」
窓の外を見ると真っ暗闇だった。
時計を見てみると、十九時を回っていた。
とんでもない作業量に時間が食い潰されてしまい、もうへとへとの明輝はリュックを背負うとそそくさと図書室を後にする。
二度とこんなことはごめんだと思ったが、意識を切り替えてキッパリ忘れた。
「そうだよね。無視無視、終わったことは忘れて帰ろう」
とは言えこんな時間まで残るのは珍しい。
きっと部活もほとんど終わっているはずだ。
もしかしたら烈火はまだ残っているかもしれないので校門で待ってみてもいいかもしれない。
そう思って階段を下りた。その時だった。ふとピアノの音が聴こえてきた。
「ピアノの音? この辺に音楽室って……あっ!」
ふと頭の中に由里乃が話してくれた話題が浮かんだ。
この階段の近くに第二音楽室がある。
今日は部活があったのかは分からないが、こんな遅くまで練習しているのがどんな子なのか気になった。
けれど本当に誰か居るのかな。明輝は不信感に苛まれた。
「行ってみようかな」
明輝は行動に移した。トボトボ第二音楽室に向かうと、確かにピアノの音が聴こえた。
けれど噂と違い灯りが爛々と点いていた。
若しかしたら本当に誰か居るのかもしれない。
そう思ったのは一瞬で、聴こえて来るピアノの旋律に心奪われた。
「良い音。繊細なのに力強くて……蒼伊のピアノとはまた少し違うけど、心地良い。胸に響く……一体誰が弾いてるんだろ」
迷惑だとは思ったが、閉じている扉を開いてみたくなった。
ゴクリと喉を鳴らして足を前に出す。
「失礼します……」
明輝は一言断りを入れてから扉を開けることにする。
一体誰が。その一心で扉をゆっくりと開け、ガラガラガラと奇怪な音を響かせてしまった。
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